まずいコーヒーを君に飲ませる理由|百合恋愛
岡山みこと
まずいコーヒーを君に飲ませる理由|百合恋愛
映画を見た帰り道。
私たちは感想戦のためカフェでゆっくりとしていた。
昭和なデザインに惹かれた店で流れるBGMは普段耳にしないジャズ。
私の前、ソファにゆったりと座る少女。
年代物の革張りと初々しい女の子はアンバランスながら、どこか馴染んでいた。
沈みかけた夕日が彼女を半分だけ照らし、美しい。
「映画の終わりでさ、アイスコーヒー飲みながら別れ話してたじゃない」
彼女もまた同じ物を飲んでいる。
「私たちもする?」
「しないわよ」
バカと追加で言われた。
何かが胸に詰まっているのかな、いつまでもコーヒーを掻き混ぜている。
半分ほど残ったグラスの中は不規則な音を立てており、まるで困っているようだ。
私は何も言わずカフェラテをすすった。
「その時思ったの。愛情ってこんな氷と液体なのかなって」
指を止めて一口飲む。
「味わえば減って……待っていたら薄まって」
結露をまとったグラスを指で撫でている。
「ずっとずっと、大切にしたいな、包まれていたいなって思うのは贅沢なのかな」
バランスを崩した氷がカランと音を立てた。
感情豊かな私の彼女は映画を見るといつもあてられる。
今日は別れを自分にあてはめ1人凹んでいた。
「良くわからないけどさ」
愛は有償であり無限ではない。
嫌いになることもあれば、見失うこともある。
私もこの娘といる事を嬉しく思うと同時に、怖いと身を潜めることが多い。
――でも、ね。
俯き気味な顎をつかんでこっちを向かせた。
少しだけ微笑みかけ、私のカフェラテをアイスコーヒーへ並々と注ぎ込んだ。
「もし愛情が足りなくなったり、薄くなったら新しく注いであげるわよ」
「……へんな味になるじゃない」
「人生苦みが必要な物さ」
おどけて空になったカップを置いた。
彼女が笑いつつ、少し美味しくなさそうに、アイスコーヒーだった物を飲みほした。
「もしなくなったらさ」
私はスタッフ呼び出しボタンを引き寄せ、指ではじく。
「おかわりをしていくらでも君に注ぐよ」
氷が解けてどこか安心した彼女の顔。
大丈夫だよ、無くならないよ。
君を離したりしない。
私はよくばりなんだ。
まずいコーヒーを君に飲ませる理由|百合恋愛 岡山みこと @okayamamikoto
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