人の手が手繰る糸よ〜中央島の三人〜

青樹春夜(あおきはるや:旧halhal-

人の手が手繰る糸よ


 ふと目にした彼の手に、自分には無い強さを感じてシキは目を逸らした。


 もしももっと近い関係なら気軽に「手を見せて」とか言ってまじまじと眺めていたいくらいなのに。


 ——カミタカ君の手は綺麗だわ。


 しなやかで指が長く少しゴツゴツしている。今は出会った時よりも荒れている気がするけど、それは鍛冶屋で働くようになったからだ。


 火傷の跡が所々に残ってても、それすらも綺麗だとシキは思う。





 紅茶を淹れる白い手をぼんやりと眺めながら、彼女の手はこんなだったか、と思い返す。


 カミタカが覚えている彼女の手は、いつも本を抱えていた。春の暖かな日差しの中、図書室で頁を繰る手が記憶の中に残っている。


 ——それからピアノを弾いてた。


 あの可愛らしい短い旋律をカミタカは忘れてしまったが、その軽やかに舞う手を、指を、彼はまだ覚えていた。





 寒い日は薪ストーブのある居間にみんなが集まるので、そこでシキがアクセサリーを作るのを目にすることがある。


 ユーリはその手業に見惚れることがある。


 細い指にそんな力があるようには見えないのに、ペンチを使って器用に針金ピンを切ったり曲げたりと自由自在だ。


 もっと好きなのは雪の結晶みたいな小さなビーズを編む時だ。


 細いワイヤーが揺れたかと思うと、天鵞絨の上の小さなビーズを掬って落としていく。まるで星が降るように集まって形を成していく。


 見る間にただのワイヤーが綺羅の指輪に変わるのが見ていて不思議であった。


 ——まるで魔法のようだ。


 ユーリは読んでいた本の影からそっとそれを眺めて、頬を緩めた。





 カガリはそっと紅茶のカップを持ち上げた。


 湯気に香るは甘やかな柑橘系の香り。


 その香りに身を包まれながら、もつれた糸の行方を見守る。


 ——こればかりは、妾の手の及ばざることよ。





 人の手が手繰る糸よ〜中央島の三人〜了

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