第4話 魂からの感謝が届く日
天界の空は、
今日は静かだった。
魂の流入が
一段落した時間帯。
受付所には、
珍しく余裕があった。
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女神レーシャは、
机の前で背筋を伸ばし、
一枚の光の板を
真剣に見つめていた。
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「確認……確認……」
小さく声に出し、
指で項目をなぞる。
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隣のユーファは、
その様子を横目で見て、
何も言わずに
自分の作業を続けていた。
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以前とは違う。
レーシャは、
明らかに慎重になっていた。
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「次の魂、
番号四二三五」
ユーファが告げる。
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現れた魂は、
穏やかな光を放っていた。
異世界で、
短くも濃い人生を
終えた魂だった。
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レーシャは、
胸の奥が
少し温かくなるのを感じた。
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「……この方、
前にも
お会いしました」
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ユーファが
情報板を確認する。
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「転生履歴あり」
「以前、
レーシャが担当した魂です」
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レーシャの目が、
見開かれた。
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「えっ……」
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魂は、
ゆっくりと光を揺らし、
まるで
微笑むようだった。
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レーシャは、
思わず一歩前に出た。
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「どうでしたか?」
「……次の人生、
つらくなかったですか?」
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女神が魂に
問いかけることは、
本来なら
推奨されない。
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だが、
ユーファは止めなかった。
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魂は、
柔らかな波動で
答えた。
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守れなかったものもあった。
苦しい選択もあった。
それでも、
自分の意思で
生き切った。
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レーシャの喉が、
きゅっと鳴った。
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「……よかった」
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その瞬間。
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受付所の奥で、
小さな鐘の音が鳴った。
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ユーファが、
驚いたように
顔を上げる。
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「評価通知……?」
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光の板に、
見慣れない表示が浮かぶ。
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【魂満足度:
極めて高】
【特別感謝通知:
発行】
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「……これは」
ユーファは、
言葉を失った。
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「魂から、
感謝が
届いています」
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レーシャは、
理解できず、
ただ画面を見つめた。
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魂からの感謝。
それは、
極めて稀な現象だった。
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転生は、
基本的に
一方通行。
感謝も後悔も、
天界には
戻らない。
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それでも、
魂が強く願ったとき、
ごくまれに
通知として届く。
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サフィーネが、
音を立てて
立ち上がった。
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「なにが
起きてるの?」
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ミレイシアと
フィオネアも、
遅れて現れる。
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「……魂満足度、
極めて高」
ミレイシアは、
表示を見て
目を細めた。
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「規定通りの
転生でしたか?」
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ユーファは、
首を縦に振る。
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「はい」
「補正も制限も、
すべて
標準内です」
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全員の視線が、
レーシャに集まる。
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「……わたし、
何も
特別なことは」
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フィオネアが、
優しく言った。
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「いいえ」
「あなたは、
特別なことを
しています」
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「魂を、
ちゃんと
見ている」
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レーシャの胸が、
強く脈打つ。
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サフィーネは、
腕を組んだまま
ため息をついた。
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「……結果が
出てしまった以上、
文句は言えないわね」
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そのとき。
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空間が、
わずかに歪んだ。
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最上位女神、
クレアティスが
姿を現す。
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「興味深い
事例です」
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クレアティスは、
魂を見つめ、
そしてレーシャを見る。
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「魂は、
正しさだけでは
満たされません」
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「しかし、
感情だけでも
救えない」
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レーシャは、
静かに
うなずいた。
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「……わかります」
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自分の未熟さも、
それでも
向き合いたい想いも。
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「レーシャ」
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クレアティスは
続けた。
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「あなたの役割は、
まだ
定義されていません」
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「それを
見極めるために、
しばらく
観察します」
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サフィーネが、
小さく呻いた。
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「また
面倒な役回りね……」
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ユーファは、
ほんの少し
笑った。
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魂は、
再び転生の準備へ
向かっていく。
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別れ際、
魂は
確かに伝えた。
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ありがとう。
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レーシャは、
胸に手を当て、
深く息を吸った。
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女神の仕事は、
数字では測れない。
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だが、
確かに届くものが
ある。
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天界の空は、
今日も
静かに広がっていた。
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レーシャは、
自分の立つ場所を
少しだけ
理解し始めていた。
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