右手は没収されました。

迷想三昧

第1話 右手は没収されました。

「右手を学校に持ってきた人がいます。これは先生が預かるので放課後取りに来るように」

 

 教室にざわめきが広まっていく。

 

「持ってる人って限られてない?」

「頼人(ライト)君ぐらいしか思い当たらないんだけど」

「学校に持ってくるなんて信じられないわ」

 

 生徒たちのひそひそ話が嫌でも耳に入る。

 

「ちっ」

 

 思わず舌打ちが出る。

 何人かの視線を感じるがいちいち気にしてられない。

 そもそも教師も生徒もわかっていないのだ。

『あれ』は意思を持っている。

 学校にも勝手に来たに違いない。

 放課後のことを考えて憂鬱な気分になったところでふと思い直す。

 

「別に僕が取りに行かなくてもそのうち勝手に帰ってくるんじゃね?」

 

 口に出たつぶやきに気付いて周囲を確認すると、斜め後ろ席の女子と目が合った。

 声の大きさと距離的には聞こえていないと思いたいけど、彼女のデバイスの性能がわからない。

 確か聴覚特化とかではなかったと思うんだけどどうだっただろうか。

 ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、担任が右手を持って教室を出ていく。

  右手のやつが僕に向かってひらひらと手を振った。

 何やってんの!?

 出かかった言葉を必死で飲み込む。

 あいつ、確実にこの状況を楽しんでやがる。

 

   ◇

 

 担任と入れ違いに古代史の波留ハル先生が教室に入ってきて教壇に立つ。

 視線はちらちらと担任の出て行った扉に向かっている。

 どうやら右手を気にしているようだ。

 

 何らかの影響があったのか、今日の授業の内容は手についてだった。

 古代史の授業によると「人間は手によって進化した」らしい。

 残された記録に「不浄の左手」という言葉があり、それを根拠に被創造物である機械生命体も左手ならOKということらしい。

 正直意味はよくわからない。

 古代史の授業の間、先生とやたらと目が合ってそのたびに手も挙げていないのに当てられる。

 授業が終わるまでに最終的には合計で5回も質問に答えさせられた。

 

 僕たちの今の生活や外見は、3000年以上昔の古代に存在した神(人類)のものを模しているというのは誰もが知る歴史であり、事実だ。

 それでもやっぱり機械生命体である僕たちが制服を着ないといけないことや、学校・授業といった当時の制度を踏襲することは色々と合理的ではないと思うんだよね。

 データやシミュレーションではなく、何事も実際に経験しないといけないという考え方があるらしい。

 経験主義とか実践主義とか言われるやつだけどこれも理屈がよくわからない。

 記憶媒体や素体の構造的にもあまり意味はないと思う。

 

     ◇

 

 僕がこんなことを考えるのも右手のやつの影響かも知れないんだけどね。

 そういえばあっさりと連れていかれたけど、あいつはおとなしくしてるかな?

 いや、してるわけないか。

 何せあいつ自由すぎるからね。

 でもまぁ、そこまで悪いことにはならないだろうという謎の信頼はある。

 よくわからないことばっかりするけど、いいやつではあるのだ。

 

     ◇

 

 話は変わるけど、実はさっきから斜め後ろの方向からビシビシと何かが僕の背中に飛んできている。

 視線だけではない、物理的な衝撃が。

 背中に手を回して確認すると、トランプが制服に刺さってる。

 金属製だし! しっかりと制服に刺さっちゃってるしナニコレ?

 ボディの素体に傷がつく硬度や威力じゃないけど、制服を突き破って直接接触してるからさっきからセンサーがばっちり反応しちゃってるからね!?

 

 トランプを確認する。

 3・0・3でサ・オ・ミって名前かよ! なんの主張!? ってトランプに0ってあったっけ?

 衝撃の事態に思わず振り返ると、ダーツを構えている紗緒美と目が合う。

 や・め・てと声を出さずパクパクと口の動きで伝える。

 紗緒美はにっこりと笑って指で丸を作り、OKのサインを返して来た。

 わかってくれればいいんだよ。わかってくれれば。

 その直後、彼女の手から勢いよく放たれる投擲。

 飛んできたダーツは制服の胸部にビシッとぶっ刺さる。

 OKは何だった?

 混乱の中、刺さっているダーツを見る。

 フライトと言われる後方部分にある羽はハート型をしていた。

 気になってさっきのトランプを確認したら、こっちの図柄も全てハートだった。

 何かの暗号だろうか、一体何だっていうんだよ。

 

      ◇

 

 休み時間になって問いただすつもりが、気付けば彼女は僕の席の真横に立って僕を見下ろしていた。

 僕を見る彼女の片側の口角が上がる。

 

「右手、ライト君のだよね?」

 

 戸惑う僕をよそに彼女は続けて言った。

 

「ばらされたくなかったらお昼休み付き合って」

「いや、多分それ皆知ってると思うんだが?」

 

 って、全く聞いてない!

 彼女はニッコニコの笑顔のままくるりと背を向けると自分の席に戻って行った。

 あ、今気づいたけど左手がサブアームしかない。

 投擲は動作確認か何かだったのかも。

 呼び出されたのはメンテナンスか修理の相談かな?

 

     ◇

 

 2時間目の終わりと昼休みを知らせるチャイムが鳴る。

 授業をしていた先生と入れ替わりで突然教室に来て教壇に立った担任が開口一番言った。

 

「朝の右手の件だが、放課後に取りに来る必要はなくなったので気にしないように」

 

 右手のやつ、案の定何かやらかしたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る