第6話 定義の外側

再挑戦は、静かに始まった。


五十階層、ロック区画の手前。

前回と同じ距離。

前回と同じ通路。


違うのは――

俺が、銃を持っていないことだけだ。


「……来るぞ」


影が、現れる。


装甲の外殻。

鈍い反射。

歩みは一定。


重火器無効。


前回、十分すぎるほど確認した。


だから、今回は撃たない。


俺は拠点の奥で、生成を開始する。


ドローン。

構造は単純。

推進、制御、最低限の耐久。


爆弾は、もっと単純だ。


金属殻。

起爆装置。

詰めるのは、作り慣れた素材。


コスパ重視。

量産前提。


「……火器じゃない」


口に出して、確認する。


重火器。


定義は、はっきりしている。


重機関銃、自動砲、迫撃砲、速射砲、大隊砲。

歩兵が扱う中で、

比較的重量が大きい「火器」の総称。


火器、というのが重要だ。


銃。

砲。

撃つための構造。


――爆弾は違う。


爆弾は、

弾薬であって、火器じゃない。


投射されるものでも、

撃ち出されるものでもない。


置かれるものだ。


「……定義の外」


だから、効く。


ドローンが、起動する。


小さな音。

静かな浮上。


ボスは反応しない。

近づいてくるだけ。


ドローンが、回り込む。

背後。

側面。


一機、二機、三機。


接触距離。


「……今だ」


起爆。


爆発は、派手じゃない。


衝撃も、限定的。


だが――

確実に、触れた。


装甲の表面に、

ヒビが走る。


初めての変化。


「……効いてる」


声が、少しだけ弾む。


二波、三波。


ドローンが次々と、

自分から突っ込んでいく。


自爆特攻。


ボスの動きが、鈍る。


外殻が、剥がれる。


中から、

異質な魔力反応が漏れ出す。


「やっぱりな」


これは、

撃たれることに対する耐性だ。


破壊そのものじゃない。


兵器として“撃たれる”ことを

無効化するスキル。


だから、

事故みたいな破壊には弱い。


最後の一機。


真正面から、

突っ込ませる。


起爆。


装甲が、崩れ落ちる。


ボスは、

ゆっくりと膝をつき――

動かなくなった。


しばらく、動きを確認する。


反応なし。


完全停止。


「……攻略、完了」


静かに、息を吐く。


勝った。


火力じゃない。

根性でもない。


理解で、勝った。


その夜。


俺は、配信をつけた。


仮面を被り、

声を落とす。


「質問が多いようだから、

 一つだけ答える」


コメントが、流れる。


《なんで爆弾は効いた?》

《重火器無効じゃ?》


俺は、簡潔に言う。


「重火器は、火器だ」


「爆弾は、火器じゃない」


それだけ。


《え?》

《定義?》

《そういう話?》


「そういう話だ」


少しだけ、間を置く。


「ダンジョンは、

 言葉を守る」


「だから、

 言葉の外側に立て」


配信を切る。


仮面の奥で、

俺は小さく笑った。


かっこよかったか?


……まあ、悪くない。


銃は、捨てない。


でも、

撃たない選択肢が増えた。


それでいい。


地下は、理解した者の領域だ。


(第6話・了)

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