Remember M
soto
まさかの桃太郎推し
また朝が来てしまった。一番嫌いな瞬間だ。
しかも今日は月曜日で雨まで降っている。
これほど憂鬱な日はないだろう。
高校生になって一か月が経つが、いわゆる高校デビューに失敗して友達もできずにいる。
無理に明るく振舞おうとすること自体が失敗だったのかもしれないが・・・。
この先、僕の高校生活はおそらくいい思い出も作れずに3年過ごすことになるだろう・・・
と、いつも朝はそんなことを考えてしまうので嫌になる。
そんなことをしているうちに、家を出る時間になった。
「いってらっしゃい」
母さんに声を掛けられる。
一瞬視線を向けたが、すぐに下を向き無言のまま玄関の扉を開ける。
(あー何か人生が変わること起きないかな)
なんて意味のないことを願ってみる。
「もう・・・界を救ってくださ・・・」
その時、かすかに声が聞こえた。
後ろから声が聞こえた気がして振り返るが、そこに玄関の扉はなかった。
「えっ・・・」
異変に気付き辺りを見渡すと、霧がかかっており何も見えない。
「なにこれ・・・」
誰にいうでもなく口から出ていた。
一体ここはどこだ?と戸惑いながら立ち尽くしていると後ろから声がする。
「ようこそ、お待ちしておりました」
僕は声に驚き、後ろを振り返った。
そこには椅子に座っているとても綺麗な女性がいた。
「どうしました?そんな顔をされて」
そりゃ突然こんなことが起こったら誰だって驚くだろ。
と心の中で思ったが、そんなことを言って怒らせたら嫌なので黙っていた。
「まぁとにかく本題に入りますが、あなたには世界を救ってもらいます」
「ちょっと待ってください。世界を救う?なんの冗談ですか」
「そのままの意味ですよ?さっそく行ってみましょう」
「だから待ってください。説明がなさすぎます」
なんだこの人は。いきなり現れたと思ったら意味の分からないことばかり言って。
しかし、僕も現代っ子だ。いろいろな転生ものだって読んできた。つまりはそういうことだ。
この女性は女神だろうし、このまま異世界に行く流れだろう。
だが、いざ現実に自分がこの状況に陥ると【はい、そうですか】とはいかないものだ。
「一応確認ですが、あなたは女神様で、僕はこれから異世界に行くってことであっています?」
「That’s right」
なんで英語?
「よくわかっているじゃありませんか。
それじゃさっそくいってらっ・・・」
「待って待って。どうしてそう急かすんですか。
それになんで僕なんですか?」
「だって人生が変わることを望んでいましたよね?」
心当たりはある。恨むぞ1分前の僕。
「いや、望んだと言えばそうですが・・・。
ちょっとイメージと違うというか・・・」
「あなたのイメージは知りませんが、もうここにいらっしゃっているので」
僕が来たみたいに言っているけど、勝手に連れてきたの間違いだろ。
「仮に異世界に行ったら何をするんですか?」
「決まっています。あなたには鬼を倒してもらいます」
別に決まってはないだろ。さっきからこの女神説明もほとんどないけど大丈夫か?
「鬼がいるんですか?それに倒すってどうやって?」
「質問が多い上になんだか察しが悪いですね。
それは仲間を集めてに決まっているでしょう。
すこし考えればわかりますよ?」
無性に腹が立ってきた。なんで勝手に連れてこられた上にそんなこと言われなきゃいけないんだ。
「その仲間たちと一緒に鬼退治です!
これすなわち桃太郎です!」
あ、これ駄目だ。たぶんこの女神バカなんだ。
そう思ったら怒りもおさまってきた。
「それは桃太郎の世界に行くってことですか?」
「童話の世界に行けるわけないでしょ。
あなたバカですか?」
お前が桃太郎とか言うからだよ。こっちは確認で聞いているだけだ。
「いいですか?鬼のいる世界に行って、仲間たちと一緒に倒しに行くのです。
だからあなたは桃太郎になるのです」
再度説明を聞いても意味がよくわからないが、とにかく鬼を倒すのが目的らしい。
「なんでそれで僕が桃太郎になるんですか?」
「だって鬼を倒すのは桃太郎の役目ですよ?
それに桃太郎ってかっこいいでしょ」
女神は恍惚な表情で話している。
桃太郎がかっこいい?人生で一生聞かないであろうセリフだ。
それをこの女神は本気で言っている。桃太郎推しなんて聞いたことがない。この女神はヤバいやつだ。
もう帰りたい、帰らせてくれ。
女神は僕が茫然とした表情で立っていることに気づく。
「あなた桃太郎について何も覚えてないのですか?」
桃太郎なんて子供の頃に読んでもらった記憶はあるし、物語だってそれなりに知ってはいる。
「ならあなたに桃太郎を思い出させてあげましょう。
そこの椅子に座ってください」
僕の横に椅子が現れたが、座ったら終わりな気がして立っていた。
「早く座ってください」
女神の語気が強い。
僕は観念して座る。
すると女神は桃太郎の話を始めた。
出だしはよく知っている【むかしむかし、あるところに】だった。
これはよく知っている桃太郎だと思っていると、要所要所で桃太郎の素晴らしさを説いてくる。
そんな話ないだろと思いつつ話を聞いていた。
1時間後
「で、そうして桃太郎は犬と出会うのです」
嘘だろ・・・。まだ最初の出会いまでしかいっていない。
とにかく桃太郎大好きエピソードが多すぎて全く先に進まない。
僕は疲れ果て、座りながら寝てしまった。
5時間後
「・・・・であるから、あなたが桃太郎なのです。
て、あなた聞いています?」
僕はハッとし、話がやっと終わったことに安堵した。
「・・・はい、聞いていました(聞いていません)」
「まぁいいでしょう、これで桃太郎がどんなに素晴らしく、またあなたが桃太郎に選ばれた理由はわかってもらえましたね」
「わかりました(わからない)」
「それじゃ今度こそ出発してもらいましょう」
女神は上を指さす。
僕も上を見上げるが、何も起きない。
「あのー」
「そうだ、忘れていました。
向こうの世界に行く前にこれを渡しておきます」
目の前に突然武器が現れる。
ひとつは刀。もうひとつは鉄扇だ。
どちらもそれなりの重さがあり、よく見ると傷だらけだ。
「あのーこれ傷だらけですが、新品ではないんですか?」
「新品?そんなものはないですよ。
それに鬼を倒すのにはさっきも言った通りこの二つでないとダメなのです」
中古使わせるなんてあるの?聞いたことないけど。
「すこし話過ぎましたね。それではそろそろ行ってもらいます」
話していたのはあなただけですが・・・。
「いやいや僕行くなんて一言も言ってないです」
「拒否権はありません。あなたに行ってもらいます」
横暴にもほどがある。どこかの暴君か。
「それと向こうの世界に着いたら、趣向を凝らした演出を用意していますから楽しみにしていてくださいね」
絶対ろくな事じゃないのだけは分かった。てか行きたくない。
「期待していますからね」
その瞬間再び激しい光に包まれ僕は目を瞑った。
・・・光がおさまった?
なんて自分勝手な女神だ。もう一度会ったら文句を言ってやる。
そう誓い再び目を開けると目の前に老夫婦がいた。
僕は驚き、身体が硬直した。
何か言わないと、と思うが何も言葉が出てこない。
すると先におじいさんが話す。
「あんたは人間か?」
あまりに的外れの言葉で理解ができなかった。そんなの姿を見ればわかるだろう。
答えようとする前におじいさんが再び話す。
「あんたは今そこから出てきたんだ。」
指をさす方向を見る。僕は目を疑った。
そこには大人が入れそうなほどの巨大な桃があった。
「嘘だろ・・・」
信じられなかった。もしかして女神が言っていた趣向を凝らした演出ってこれのこと?
どれだけ桃太郎好きなんだよ。
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