不安は伝染する

昼休みの終わりが近づいてきたので、俺は祭と別れて教室へ戻る。


途中の廊下では男子の走り回ったりする姿や女子グループの雑談などが見受けられた。


やがて教室にたどり着き、俺は席に戻ると、早速隣の席にいた佐々木に話しかける。


「なあ佐々木」


俺はいつもと同じ声のトーンで佐々木を呼ぶ。


「お前の妹と何度か話す機会はあったんだけどさ」

「おー!どうだった?」

「思ったよりも元気そうだな、表向きは……」 「お前でもそう思うのか……」


佐々木は少し考えた後、話し出す。


「飯も食うし、部活も行くし、俺の前では普通にバカみたいに喋る」


それで十分普通に聞こえる。


でも、佐々木の表情は納得していない。


「でもな、なんつーか……」


机の縁を指でなぞりながら、ぽつりと。


「プライベートな話をしなくなったような気がする」

「……彼女のこととか?」

「それも含めて」


少し苦笑い。


「前はさ、学校であったこととか、誰と喧嘩したとか、彼女に何言われたとか、全部あいつと話してたんだよ」

「今は?」

「ほとんど話してない……。そういった内容の質問とかも遠ざけられているような気がする」


今までの普通が普通でなくなる。

それは、確かに変だ。


「距離、取られてる感じがする」


佐々木は頭をかいた。


「怒ってるわけでもなさそうだし、機嫌も悪くない。むしろ妙に気を遣ってくる」

「気を遣う?」

「兄貴忙しそうだから、とか邪魔したら悪いから、とかさ」


その言い方に、少しだけ寂しさを帯びていた。


「そんなこと、今まで言わなかったのに」


チャイムまで、あと少し。


「なあ青木」

「ん」

「俺、あいつに何かしたか?」


笑って言ったが、冗談で言っているわけではないことくらいわかっている。


「俺どうしたらいいかわかんねぇよ……」


俺は少し考える。


「……お前だけが悪いわけじゃないだろ」

「……」


佐々木は驚いた顔をしていた。


「お前の妹はさ、強いふりするタイプだろ」

「……まあ」

「だったら余計、表に出さないだけかもしれない」


佐々木は黙る。


「……今は、無理して何かする必要はないいかもな」

「え?」

「距離を詰めると、余計逃げる時もある」


チャイムが鳴る。


佐々木は苦笑いした。


「青木、お前が言うと妙に説得力あるわ」


それが褒め言葉かどうかは分からない。


(これは兄妹の問題。それでほぼ間違いないだろう)


何も見えてこなかったものから、だいぶ輪郭が見えてきた。

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