第4話 二人きりのお勉強会【3】

 葵が作ってくれたのは、いつも通りのらチャーハンだった。何年経っても変わらない。味だとかそういうことではなく、レパートリーが。そう。葵は料理が苦手のだ。


 この前なんて『いやー、久し振りに頑張っちゃったよー』と言って僕に夕飯を用意してくれたんだけど、出てきたのはカップ麺だったというね。


 一体、葵は何を頑張ったのか気になるので訊いてみたら、『後入れのスープ! 最高のタイミングで入れることに成功したのだよ憂くんさん。さっすが私!』とか言ってたし。


 いい加減、色んな料理を作れるようになって女子力上げた方がいいよと言いたい。いや、女子力の問題じゃない気もするけど。


 でも、何故か飽きないんだ。葵が作ったチャーハンは。とても美味しいし、ホッとする味がするんだ。


 なんなんだろう。


 もしかしたら、葵は料理の時に魔法でもかけているのかもしれないな。


 そして、僕もその魔法にかかってしまったのかもしれない。


 葵の『魅力』という名の魔法に。


 と、思ったのは数時間前のことである。


 僕は今、どんな感じでどんな状況なのかというと、これです。


(ね、眠れない……)


 全く眠れずに布団の中にいる僕である。


 一体何があったのかというと、こんなやり取りがあったのだ。


 *   *   *


「さて、葵。勉強の続きでもしようか?」


「え? 勉強? 何言ってるの? もう寝る時間だよ?」


「……ね、寝る時間?」


 ふと、掛け時計を確認。まだ二十一時を回ったばかりだった。


「は、早すぎないかな? そもそも勉強は? 全く進んでないと思うんだけど」


 僕の質問を聞いて、葵は正座。そして太ももをパンッと叩いてみせた。


 なんか、小さい頃に母さんから怒られた時を思い出しちゃったよ。


「あのね、憂くん。人間の集中力が続くのは九十分までと言われているの。だから私はもう限界なの。寝なきゃ勉強どころじゃないの。どう? 理解できましたか?」


「い、いや、それは知ってるけど。でも葵さ、今日は一時間も勉強してないじゃん? それに、その理論って、確か休憩を挟んだら一度リセットされてまた集中できる、みたいなものだったはず」


 その言葉に首を傾げる葵だった。


「え? 一時間以上はしたよ? ほら、漫画読んでたじゃん。二時間も」


「それも勉強した時間に含んじゃったの!?」


「もちろん! それにさ、よく考えてみてよ。早く寝るということは、つまり、その分だけ早く起きることができるということ。すなわち! 勉強する時間が増えるということになるはず! いやいや、こんなことを思い付くだなんてなあ。さすが私! もしかして天才かも!」


 いつもながらポジティブすぎる……。どうしたらこのメンタルを手に入れることができるのだろうか。どうせ早く起きても勉強する気は一切ないに決まってるし。


 というか、もしも天才だったとしたらテストで十八点とか取らないって。


「と、いうわけで。もう寝ようよ憂くん。私のベッド使っていいから」


「……え? あ、葵のベッド? それはさすがに……でも仮に僕が葵のベッドで寝たとしよう。そしたら葵はどこで寝るわけ?」


「憂くんと一緒に寝る。同じ布団で」


 *   *   *


 という感じのやり取りだった。


 ベッドに関しては全力で拒否をした。もちろん、一緒に寝ることに関しても。


 だってさ、葵がいつも寝ているベッドを使うとかしたら、寝られる寝られないどころの問題じゃない。それだけで済むわけがない。僕的に大変な事態になりかねない。どうなるのか詳しくは言えないけど。


 だからベッドは葵が使い、僕はその下に布団を敷かせてもらって床に就いているんだけど、それでも眠れない。すぐ近くに葵が寝ていると思ったら否が応でも……うん。言葉にはしない。絶対にR18的な単語を口にしてしまいそうだから。


(……あれ?)


 目を瞑っているのでよく分からないけど、葵が寝ているベッドのスプリングがギシリと音を立てた。


(トイレかな?)


 予想通り、葵は起き上がりトイレへ、と思ったら気配を感じた。


 今、葵が僕のすぐ横にいる。


 葵は僕の顔の近くまで来て、耳元へ。彼女の吐息が耳に吹きかかる。


 そして小さく、葵は囁いた。


「――憂くんの、バカ」


 葵はすぐにまたベッドに戻り、再度、布団に潜り込んだようだった。


 でも僕は、さっきの言葉が何度も何度も頭の中で繰り返された。


 リフレインのように。



『第4話 二人きりのお勉強会【3】』

 終わり

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