第2話 探索者登録と剣士アイラ
街の空気は、魔界とはまるで違っていた。
人の声が重なり合い、
車と呼ばれる鉄の箱が道を走り、
空には魔力ではない光が満ちている。
アイラはそれだけで、
胸が少し熱くなった。
「すごい……ほんとに現代だ」
路地を抜け、大通りに出る。
すると視界の先に、
巨大な建物が見えた。
正面には大きな文字。
――探索者ギルド。
「ここが……」
ダンジョンを攻略する者たちが集まる場所。
情報、装備、依頼、
すべてがここに集約されているという。
入口の前には、
さまざまな年齢の人間がいた。
軽装の若者、
重装備の中年、
制服姿の学生もいる。
アイラは自分の姿を見下ろした。
黒を基調とした軽装鎧。
背中には長剣。
少し目立つかもしれないが、
ダンジョンがある世界では、
そこまで浮かない。
「よし……行こう」
自分に言い聞かせるように呟き、
アイラは扉を押した。
中は広かった。
受付カウンター、
掲示板、
休憩用のスペース。
壁には、
ダンジョンの危険度を示す図が
貼られている。
アイラは列に並び、
順番を待った。
「次の方どうぞ」
受付の女性が、
事務的だが穏やかな声で言う。
「は、はい」
アイラは一歩前に出た。
「探索者登録ですね?」
「うん」
「年齢と名前をお願いします」
一瞬、迷う。
本名を言うわけにはいかない。
「……アイラ。
十二歳」
嘘ではない。
ただ、すべてを言っていないだけだ。
受付の女性は少し驚いたが、
すぐに端末を操作した。
「若いですね。
保護者の同意は――」
「あります」
アイラは胸を張った。
父は魔王だ。
この世界の法律よりも、
ずっと強い同意だ。
「……わかりました」
簡単な説明が始まる。
探索者とは何か。
ダンジョンとは何か。
ダンジョンとは、
異界と現代がつながった空間。
内部には魔物が生息し、
階層構造を持つ。
魔物を倒すことで得られる素材は、
武具やエネルギー資源に使われる。
「最初は全員、
ランクFからのスタートです」
「うん」
「無理はしないでくださいね」
そうして、
小さなカードが差し出された。
探索者カード。
名前:アイラ
職業:剣士
スキル:剣術LV1
「……これが、あたしの」
カードを握りしめ、
アイラは自然と笑っていた。
ギルドを出ると、
外の空がやけに明るく見えた。
「探索者……」
その響きが、
胸の奥に残る。
だが、現実は甘くない。
掲示板に貼られた依頼を見て、
アイラは眉を寄せた。
「ゴブリン討伐……
スライム掃討……」
魔界では雑魚扱いだ。
けれど、ここは現代。
油断すれば、
命を落とす場所でもある。
「……まずは、
簡単なのからだね」
選んだのは、
都市近郊にある小規模ダンジョン。
危険度は低。
初心者向けと書かれている。
ダンジョン入口は、
廃ビルの地下にあった。
警備員が立ち、
探索者を確認している。
「カードを」
差し出すと、
軽くうなずかれた。
「気をつけて」
階段を降りると、
空気が変わる。
ひんやりと冷たく、
どこか湿った匂い。
「……魔界に、
ちょっと似てる」
薄暗い通路。
壁には淡い光を放つ結晶。
アイラは長剣を抜いた。
金属音が、
静かな空間に響く。
「剣術LV1……」
剣を構え、
呼吸を整える。
そのとき。
ぬるり、と
床から何かが現れた。
半透明の身体。
「スライム……」
魔界では、
踏めば消える存在。
だが――
アイラは油断しなかった。
一歩踏み込み、
剣を横に振る。
刃が、
柔らかい抵抗を切り裂いた。
スライムは、
音もなく霧散する。
「……よし」
心臓が、
少し早く打っている。
それでも、
恐怖よりも――
「楽しい」
小さく笑う。
アイラは知らなかった。
この一歩が、
やがて多くの人に
見られる戦いへと
つながっていくことを。
そして――
このダンジョンを、
別の場所から
見つめる存在がいることを。
「……無事に始まったか」
探索ギルドの最上階。
新しく就任したギルド長は、
モニターを見つめていた。
そこに映るのは、
小さな剣士の背中。
男は、
誰にも聞こえない声で呟く。
「焦るな、アイラ。
この世界は、
思っているより
ずっと複雑だ」
だが、その目は――
確かに、父のものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます