最後に残った煙

@wata_ame0625

最後に残った煙


ホテル街に佇むこのコンビニは常に人がひっきりなしにやってくる。


デリバリーされる大人なお店の女の子から、その客であろう人。


カップルや近くに住む住民まで多種多様な人間模様は見ていて楽しい。


時刻は午前二時を指し始めた頃から、その日の客足は次第に止み落ち着きを取り戻した。


まぁ、平日のこんな時間から遊ぶ人は少ないだろう。仕方のない事だと、裏にいる店長に声をかけて少し早いがちょっとだけ休憩でも取ろうかと考えていた時に、自動ドアが開く音がした。


反射的に「らっしゃいませ〜」と声を出すと深夜帯にしては身なりがかなり整った若い女の人がそこにいた。


きっと夜のお店の女の子なのだろう。

その子は冬なのにも関わらず生脚を晒すようなヒラヒラしたワンピースを揺らしながらスタスタと歩き出した。


そしていくつか商品を手に取ると真っ直ぐにレジまでやってくる。


「お預かりしまーす」


商品を受け取って、バーコードをピッ、ピッとリズム良く読み込んでいると、ふと視線を感じ思わず顔をあげる。


「ふふふ、久しぶりだね」


「…?」


何故か声をかけられて思わずその人の顔をじっと見つめてしまい、すぐに視線を逸らし直ぐに会計作業に戻る。


「ねぇ〜忘れちゃったのぉ?酷いなぁ〜」


心当たりがなく思わず困惑していれば女の人は笑みを浮かべる。


「だよね〜客の顔なんて忘れちゃうよね〜。私、3年前によくここに通ってたの」


そう話し出す彼女の声を聞いていれば次第に会計する手を止め彼女の話に聞き入ってしまった。


「当時はよく花柄のワンピースを着ていて、お団子ヘアにしていたの!」


「この服じゃなかったら気づいてくれてたかな〜?」と彼女はワンピースを裾を少し横に広げ、柄を見ていた。


その仕草何処かで見たような気がすると思った瞬間、スタッフルームから店長が出てきた。


思わず手を再び動かして会計をすすめた。


「お会計、1200円になります」


「思い出したらさ、その時はお兄さんから声かけてね。多分、それが最後になると思うから」


「え?なんで…」と聞き返そうとするも、彼女はお金を会計ピッタリに出した。

商品を受け取るとそのままコンビニから出て行った。


その後ろ姿をただ呆然と見つめていると、「河合くん」と声が聞こえ振り返る。


店長が何か言いたげな表情を浮かべ「ちょっと裏まで」とスタッフルームを親指で指さしながら伝えた。


「え、でも表誰も居なくなっちゃいますよ!」


思わずそう言うと「少しの間なら大丈夫だから。はやく」と店長は急ぐように声を掛ける。


渋々レジから離れスタッフルームに向かう。


スタッフルームに入ると店長は重い表情を浮かべながら何かファイルを取り出した。


「これ、読んでみて。読んだらまぁ…一応声を掛けろ。俺は表にいるから」


そう言って渡されたファイルを受け取ると、店長は直ぐにスタッフルームから出て行った。


なんだろうと思いながらファイルを広げると、新聞の切り抜きが数枚程ファイリングされていた。


なんで切り抜きなんだと思いながら目を通すと思わず驚いて固まってしまった。


【ホテル風俗店員刺殺事件】


そう書かれた記事にはとある女性の顔写真が被害者として掲載されていた。


思わずバサバサとファイルをその場に落とし、膝から崩れ落ちた。


その瞬間に一気に記憶が蘇る。


従業員用の喫煙所に彼女がタバコを吸っていた事がきっかけで知り合った。


彼女は隠れるようにコソコソと隅の方で膝を曲げながらタバコを吸っていて、当時新人だった俺はまだ会ったことのない先輩かと思い挨拶した。


すると彼女は振り返って顔の前に手を合わせ、「お願い内緒にして!」と頼み込んだ。


当時はまぁ、タバコを吸うぐらいならと許した結果よく話すようになり、彼女も喫煙所目的以外でコンビニによく通うようになって段々と話す機会が増えた。


些細な相談事から始まって、いつの間にか恋バナをするまでの間柄になった。


そして、今度は仕事帰りに駅に向かう道で彼女と出会った。


コンビニ以外で会うのはどこか新鮮で、同じく帰る途中という彼女と並んで一緒に駅まで向かった。


「実はね、もうそろそろで目標金額が貯まるんだ」


嬉しそうに笑った彼女を見て、少し胸が高鳴った。


「良かったじゃん」


そういうと彼女はさらに笑みを零した。


「この仕事も辞めようと思うんだよね」


「お?やっとまともになる気なったの?」


少しふざけてそう言うと彼女は「もぉ〜」と言いながら小突いてきた。


本当に仲が良かったんだ俺達は。


それなのに、ある日のアルバイト途中。

やたらサイレンの音が深夜のホテル街に響いた。


まぁ、こんな街だから警察沙汰なんてザラだ。

だから特に何も気にも留めてなかった。

その日を境に彼女はここに来なくなったんだった。


彼女はてっきり目標が達成したから足を洗いこの街を出たとばかり思っていた。


まだ上手く真実を受け止められずひたすらに涙を流す。


そして悔しさのあまり握った拳を壁に打ち付けた。


その音を聞いてか店長がスタッフルームに入ってきた。


「本当ならもっと早く言ってやれば良かったがこんな話、君には重いと思って…でも今日防犯モニターをみて彼女が来たから…これはもう伝えなきゃって…すまん」


店長は河合を思って隠していた。


でも、店長のせいでもないと頭ではわかっている。


分かってるはずなのに、あぁ、息が詰まって苦しい。


怒りと悲しみと友を無くしたというやるせなさが、心を埋めつくした。


「今日はもういい、帰りなさい。もし、メンタルが不安定ならしばらく休んでいいから」


店長はそう言うと早々に河合を帰宅させた。


駅へ向かう傍らにタバコに火を灯して空にむかってフーッと息を吐く。


涙で刺激された瞳にはタバコの煙は目をヒリヒリさせた。


今度彼女が来たら、花束とちゃんと最後の別れの挨拶をしようとそう思うのだった。

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