転生したら名探偵でした。事件を呼ぶ死神アイドルが俺を好きだって迫ってくるんだが!?

きいろい なつ

第0話 名探偵「天野テル」再び!

 吹雪が、山荘を叩いていた。


 俺は、指を伸ばしていた。

 その先にいる人間を、

 この目で、はっきりと捉えながら。


「――犯人は」


 息を吸う。もう、引き返せない。


「……あなただ」


 どよめきが起きる。

 誰かが悲鳴を上げた。

 誰かが、息を呑んだ。


 吹雪は止まない。

 ここは、雪山の山荘。

 逃げ場のない、完全な密室だ。


 ――そしてこれは、

 数日前から始まっていた惨劇の、終着点。


 どうして、こんなことになったのか。

 その答えを話すには、

 少しだけ、時間を遡る必要がある。


 

 * * *



 今日、俺たちは、とあるアイドルのライブ会場来ている。最近、人気が急上昇している五人組アイドルグループ――


《Colors(カラーズ)》。


 ステージに立つだけで、空気が変わる。

 会場には爆音と歓声が響き渡っていた。

 それは、身体の芯まで震わせるほどの熱気。

 光と音と人の感情が、渦を巻くように交差していた。


「見て、テル! ほら、あの子よ!」


 ユイが興奮気味に俺の袖を引っ張る。

 その指先の力から、どれだけこの時間を楽しみにしていたかが伝わった。


「分かった、分かったって……」


 苦笑しながら視線を向けた、その先。

 ステージの中央で、ひときわ存在感を放つ少女がいた。


 美鳥みどり 姫華ひめか


 伸びやかな歌声。

 感情をそのまま音にしたような、嘘のない旋律。彼女が歌うたび、会場全体が息を合わせる。

 まるで、心臓を掴まれているみたいだった。


「彼女の歌声って……心を震わせるのよ……」


 ユイは、目を輝かせたまま、完全に聴き入っている。

 その横顔は、いつもより少しだけ幼く見えた。


「あはは……」


 俺は曖昧に笑いながら、ステージを見つめる。

 ――確かに。

 丸く吸い込まれそうなピンク色の瞳。

 弾けるような笑顔。

 ツインテールが跳ねるたび、照明がきらめき、視線を奪っていく。

 その若さが、今の俺には眩しく感じられた。


(……いけないな)


 思考が、完全に三十路サラリーマンのそれだった。

 自覚した瞬間、少しだけ自己嫌悪が胸を掠める。

 それに――

 理由もなく、胸の奥に引っかかるものがあった。


(どこかで、見たことあるような……?)


 そう結論づけるには、十分なはずだった。



 * * *



 ライブが終わり、

 名残惜しさを引きずるように、

 人の波が出口へと流れていく。

 熱に浮かされた空気が、

 少しずつ夜に冷やされていく、

 その途中だった。


「――あっ」


 背後から、澄んだ声が聞こえた。

 振り返るより先に、

 その声の主は俺の前へ駆け寄ってくる。


「……やっぱり!」


 次の瞬間だった。


「テル様〜♡」


 柔らかい衝撃が走った。

 ――抱きつかれた!


「えっ……!? ちょ、ちょっと!?」


 心臓が、嫌なほど大きく跳ねる。

 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 視線を横に向けると、

 ユイが目を丸くしたまま、完全に固まっていた。


(この子、俺を……知ってる!?)


 腕の中にいるのは――

 ついさっきまで、ステージで輝いていた、

 あの少女。


 美鳥 姫華。紛れもなく本人だったからだ。


 観客席とステージ。

 交わるはずのない世界。

 それが今、強引に重なっている。


(どうして、俺の名前を……)


 答えは、まだ出ない。

 ただ一つだけ、

 はっきりしていることがあった。

 ――この出会いが、 俺とユイの運命を、

 そして「次の事件」を狂わせることになる。

 その事実を、この時の俺は、

 まだ何も知らなかった。





 ※第2部開始しました!

 気軽に☆や♡があると、執筆の励みになります!期限内に、10万文字いけるか、

 あたたかく見守っていてくださると嬉しいです。

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