第13話 乙女刑事の本領



 光線銃ブラスターを抜いたレイラ。抜きざまに連射する。


 刑事モード全開だ。この非常事態に、モデルの時とはうって変わった戦う光が目に宿る。悪党を捉え、追い詰める容赦のない目。


 レイラの射撃、一発ごとに、ゴラン団一味の手にする銃を叩き落としていった。30人いたが物の数ではなかった。たちまち、一味の銃は全て床に落ちた。


 レイラの射撃の腕前は、宇宙警察でもトップクラスである。やはり銃を持ってきてよかった。ゴラン団の襲撃を予期していたわけではなかったが。刑事たるもの、常在戦場、いつでも戦闘モードに早変わりできるようでなければならない。バリル部長にいつも言われていたのだ。


 「さあ、これであなたたちは終わりよ。おとなしく投降しなさい」


 レイラの声、凛と響く。


 手の銃を撃ち落とされたゴラン団一味たち。光線銃ブラスターを手にしたレイラ。刑事の戦闘モード。もはや胸惑う新人モデルではない。一点の迷いもなきその瞳。


 

 「おお、すごい」


 すぐ真下の観客席のバリルが感嘆する。


 「あの、レイラ刑事にそっくりなモデルの子、射撃の腕前も、レイラ君顔負けだな」


 「こ、こんな奇跡ってあるんでしょうか?」


 思わずメガネを押さえるニーナ。訳が分からない。バリルは、うむと頷く。


 「宇宙は広い。見た目も瓜二つ、射撃の腕前も瓜二つ。そういうことだってあるのだろう」



 武器をなくしたゴラン団一味に、銃を突きつけるレイラ。


 勝負あった、と思えたが。


 首領ドンゴラン、ニヤリとする。


 「へっへっへ」


 配下の一味も、みな、薄笑いを浮かべている。


 「やるじゃねぇか、お嬢ちゃん。近頃のモデルってのは、ガンも使うのか? 大した腕前だ。だが、これを見な」


 首領ドンゴラン、破れデニムのジャケットを捲り広げてみせる。


 「あっ」


 レイラは、息を呑む。


 一味のジャケットの内側に、鈴なりになってぶら下がっているのは。



 爆弾だ!



 「どうだ!」


 勝ち誇るゴラン。


 「みたか。これが俺たちの切り札よ。わかったな。お嬢ちゃん、なめた真似してくれやがって。その光線銃ブラスターで俺を撃てるか。撃てるものなら撃ってみろ。会場が全部吹っ飛ぶぜ」


 一味の笑い声が響く。


 ランウェイ通路の上のモデルたちと、会場の観客は、二転三転する恐怖の展開に、凍りつく。


 「そんな」


 レイラも、これには、たじろぐ。


 「なぜ爆弾をここに。会場には探知機器サーチマシンがある。地下には持ち込めても、ここに爆弾や武器は、絶対に持ち込めないはず」


 強力な探知機器サーチマシンをかいくぐれるのは、警備員認証済の武器だけだ。しかしゴラン団。堂々と大量の銃に爆弾を、持ち込んでいる。一体どうやって。


 さすがのレイラも、対処する方法が浮かばない。


 「これで、終わりだな」


 と、首領ドンゴラン。余裕に満ちた表情。


 「さっきの続きをしよう。お嬢ちゃん、その手に持ってる物騒な光線銃ブラスターを、こっちに投げろ。そして今度こそここのお宝トレジャーを掻き集めて、オレたちはずらかる。お嬢ちゃんも人質になって、地下まで来てもらうぜ。超時空移動ワープ装置の前で、おさらばといこう。どうだ、俺たちの完璧な計画、誰にも邪魔をさせねえ」



 レイラ、動けず。


 その時。


 ゴランのジャケットの内側にぶら下がった爆弾の1つが、吊り下げた紐が切れて通路に落ち、転がる。


 バリルとニーナの目の前に来た。ニーナが拾う。


 野盗の爆弾。


 ニーナは手に取って見つめる。


 「これ、どう思います?」


 「おや?」


 バリルも、しげしげと爆弾を見つめて。


 「こりゃ、オモチャだ。プラスチック製の。まるっきり危険は無い」


 「そうですね。私も気づきました。探知機器サーチマシンに引っかからずに、持ち込めた筈です。連中の武器凶器は、全部オモチャですね」


 「うむ。わしも警察歴は長いが、さすがにこんなのは初めてだ」


 「ものすごいことをしますね。こんな大勝負するのに、ここまでの虚仮脅しハッタリだなんて。ぶっ飛びすぎじゃないですか?」


 「全く、宇宙野盗の大胆不敵さ、奇想天外さは計測不能だ」


 何はともあれ。悪党どものタネはわかった。こうしてはいられない。


 ニーナは、立ち上がった。


 「そこの銃を持ったモデルさん」


 呼びかける。乙女刑事が振り向くと、爆弾を高々と掲げ、そのまま手で握りつぶして見せる。爆弾と見えたものは、ペシャッと潰れた


 「これ、本物の爆弾じゃありません。オモチャです。そいつらは何の武器も持っていません。安心してやっつけちゃってください」


 レイラ、一瞬で理解する。絶対に持ち込めないはずの武器凶器を持ち込めた理由。


 しかしそれと同時に。


 「ええっ! なんでバリル警視とニーナさんがいるの!」


 2人の姿が今、目に入ったのだ。今日1番の衝撃。こんな間近で大胆下着アンダーウェア姿を見られちゃっている!


 赤くなるレイラ。


 しかし、今、優先すべきは。

 

 ゴランをきっと見据える。


 「そういうことだったのね。銃も爆弾も全部オモチャ。もう観念しなさい。あなたたちに、武器は何もない。最後の策も、破れたのよ」


 「やばいっ!」


 首領ドンゴラン、絶頂から一転しての顔面蒼白。虚仮脅しハッタリの大勝負、どうやら負けのようだ。


 「おい、者共、これはまずい。引き揚げだ。ずらかるぞ!」


 ランウェイ通路から、次々と飛び降りていくゴラン団一味。この宇宙野盗は、逃げ足の速さでも、有名なのだ。


 苦心して作った隠し通路から、続々と地下に逃げ込む。


 ようやく、警察隊が突入してきた。ゴラン団一味を追う。


 結局。


 首領ドンゴラン以下半数は、無事に地下の超時空移動ワープ装置から脱出した。警察は残りの半分を捕まえることができた。逃げ延びたゴランも、お宝トレジャーは入手できなかったのである。莫大な資金を労力と投入して完全な大赤字であった。



 悪党が退散したのを見届けたレイラは。


 ランウェイ通路の真下、観客席の最前列で自分をまじまじと見上げているバリル警視とニーナにチラッと視線を投げると。


 「まずい。見られるの、とにかく、まずい」


 慌てて控え室に向けて駆けていった。


 「これからどうなるの? 何が起きてるの? 全くわからないんだけど!」


 今はとにかく会場から逃げるしかない。レイラは走る。お尻に長いペルシャ猫の尻尾をピンと立てながら。

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