第10話 銃と下着モデル



 

 ランウェイするレイラ。


 会場に踏み出したときから、頭にすっかり血が上っている。あれこれ考えていたことは全て吹っ飛んだ。早くも会場の大観客とカメラ、フラッシュに圧倒されている。


 「どうしよう。歩いて、ターンして、戻ってくるだけ。うん、そうだ。で、でも、もし転んでひっくり返っちゃったりしたら。ここぞとばかり撮られてタブロイドメディアに全宇宙に配信されちゃうんだ。うわあ、そうなったらどうしよう。下着アンダーウェアでひっくり返ってるところ、全宇宙の人に見られちゃうんだ。ショーツのライン、すっごくシャープだけど、おしりがはみ出ちゃったらどうしよう」


 あらぬ妄想に怯えるレイラ。ウォーキングの基礎も何も、頭にない。


 目の前のネクリは、控室での緊張とはうってかわって、しゃんとしている。かわいいピンクの子栗鼠のしっぽ振りながら、堂々たるランウェイだ。


 「落ち着くんだ」


 レイラ、そっと左の胸に手を当てる。


 「私にはお守りがあるんだ。絶対大丈夫」


 大きなメロンサイズバストに大きな白いブラジャー。ピッチリと胸の存在感ボリュームをアピールしている。その左側。どこか少しふくらみが見えた。



 「あれ?」


 ドン・ハルキサワコレクションのモデルに釘付けのニーナは、最後尾のモデルに注目していた。見知った刑事とそっくりのモデルである。


 そのバスト。シンプルな白いブラジャーに包まれたメロンサイズ


 違和感を感じた。


 よく見ると。


 左のブラジャーに、妙なふくらみがある。ブラジャーだから、ふくらんでいるのは当然なのだが、左のカップだけに、不自然な盛り上がり。


 「なんだろ。あれも斬新な図像デザインなのかな」


 左右の胸、ブラジャーが、微妙に違う。


 わざと、そういう意匠にしているのか?


 でも。あの左の胸の妙な膨らみは。なんだろう。何かブラジャーの下に入っている。特別なパットでも入れてるのか? あの形、なんだか見覚えがある。


 ニーナは考える。


 まるで、ブラジャーの下に何かを仕込んでいるように見える。


 あの大きさ、あの形。ブラジャーの下にあって、ぴったりくるのは。確かニーナのよく知っている、身近なものに似ている。


 「あ」


 ニーナは、気づいた。観察力と頭の回転の速さは自信がある。


 「まさか、光線銃ブラスター?」

 

 飛び上がりそうになった。


 そうだ。ブラジャーの膨らみ。あの下に光線銃ブラスターが仕込んであると思えば、ちょうどピッタリくる。形と大きさ、ふくらみ。


 ブラジャーの下に光線銃ブラスターを仕込んだ下着モデル?


 「いくらなんでも、奇抜すぎない?」


 最先端下着、ファッションの世界。いろいろびっくりするような意匠、アクセサリを使うけど。


 さすがに光線銃ブラスターとは。吃驚びっくり仰天だ。


 銃と下着?


 「まさか」


 ニーナは、首を振る。


 あまりにも不自然だ。ブラジャーの下に銃をし込むのが、今年の流行モードだなんて。


 「うん? ニーナ君、どうしたかね?」


 隣のバリルが、ニーナの異変に気づいた。


 「あ、あの。先ほどうちの刑事と間違えた1番後ろのモデル。あの子の左胸に、銃が仕込んであるように見えたので……」


 「銃?」


 呆れた様子のバリル警視。


 「そんなことあるわけないだろう。さっきからおかしいぞ。刑事が下着モデルの副業アルバイトをしていると言ったり、今度は銃とか。君はちょっと警察脳すぎるんだ。職務に熱心なのは素晴らしいことだ。しかし今日は、警察のことは忘れなさい。この素晴らしいショー。これ以上、仕事のことを思い出させないでくれ」


 「はい、すみません」


 最先端のファッションは、どんどん前衛化、先鋭化、奇抜化、珍奇怪奇意味不明魑魅魍魎化している。人間ヒューマン想像力アイデアを最大限エスカレートさせ、ねじ曲げに曲げ抜いた果ての世界だから、当然である。


 とは言っても。


 下着の中に銃を仕込むなんて、さすがに限界突破しすぎている。


 勘違い。考えすぎだ。さっき、あの下着モデルを、宇宙警察の刑事だと疑った。だから、ついつい光線銃ブラスターとか、考えちゃうんだ。あの左のブラジャーの膨らみは、もっと平和な理由、例えば折りたたんだ花束とか、着替え用のショーツとか、そういうのが仕込んであるんだ。きっとそうに違いない。下着モデル。私の知らない事情がいっぱいあるに違いない。


 自分に言い聞かせるニーナであった。



 ◇



 優雅にランウェイする下着モデル。

 

 レイラが左のブラジャーの下に仕込んでいたお守りは。まさしく光線銃ブラスターであった。



 初めて踏む圧巻の舞台ステージで。


 どんな危急の場でも水を打ったごとく冷静沈着と宇宙警察内部で評価の高いレイラも、結局のところ、あがりまくっていた。


 脳が何度もひっくり返った。


 どうしよう。落ち着かなきゃいけないのに緊張しまくっちゃって。


 出演する前、のぼせ上がっていたレイラは、ふと、考えた。


 そうだ。


 銃だ。


 銃を持っていこう。こっそり銃を携行していけば、気持ちも落ち着くだろう。なにしろ私は刑事なのだ。銃があれば、不動心でいられる。銃こそ刑事のお守りだ。


 これはかなり尋常でない発想であた。当然、下着モデルがそんなことを勝手にしては、絶対にいけない。だが、全宇宙に下着姿を公開するという状況で、レイラも普通ではなくなっていたのだ。


 ランウェイに、銃を持っていく。決断するや、レイラは、素早く行動した。ファッションショー会場では、検知器センサーによる厳重なチェックがあり、勝手に武器を持ち込むことはできない。そこで、警備員室に人がいない隙を狙って忍び込み、小型光線銃ブラスターを1本抜いてきたのである。


 敏腕エリート刑事レイラとっては何でもないことであった。


 手に入れた銃。


 どうやって携行するか。


 何しろ下着モデルである。ブラジャーにショーツ、あとはペルシャ猫の尻尾だけ。隠せる場所など限られている。 


 結局というか、当然というか、光線銃ブラスターは左のブラジャーの下に隠すことにした。いざという時に右手で抜いて撃つのに、ここはちょうどいい。下着モデルが銃をぶっ放す場面があるとは実に想像しがたいことだが、刑事たるもの常在戦場である。いつ何が起こるかわからない。備えは万全でなければならない。


 いろいろ脳がひっくり返って感覚がおかしくなっていたレイラ。


 銃を仕込んだ我が胸に、大満足であった。


 これでかなり落ち着いて、それでもまだドキドキバクバクであったが、ともかくランウェイとなったのである。いろいろガタガタになっているが、何とか歩くことができる。


 

 銃を仕込んだ下着モデル。宇宙ファッション史上でも前代未聞の出来事であった。

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