『「好きな子の名前、書いてあげようか?」――小悪魔な彼女に、僕がやり返したこと』

佐々木ぽんず@初投稿

文化祭準備

​「ねえ、健斗。ちょっと休憩しない?」

 文化祭準備の居残り。誰もいなくなった教室で、陽葵が黒板消しを置いて大きく伸びをした。

 夕日が差し込む教室は、オレンジ色に染まってどこか非現実的な空気が漂っている。

「あと少しでこの看板、終わるから。陽葵こそ、先に帰ってていいよ」

「やーだ。健斗を置いて帰ったら、私だけサボったみたいじゃん」

 陽葵は僕の隣にトテトテと歩いてくると、机の上にポスッと顎を乗せて、僕の作業をじっと覗き込んできた。……近い。彼女のシャンプーの甘い香りがして、僕の手元が少し狂う。

「健斗って、集中すると耳が赤くなるよね。」

「うるさいな。それより、黒板に何か書いてあるぞ」

 視線を逸らすように黒板を指差すと、そこには陽葵がさっきまで描いていた出し物の宣伝の横に、小さな相合傘が描かれていた。

「これ、誰と誰の名前書くつもり?」

「えー、内緒。でも、もし健斗が私のわがまま

一個聞いてくれたら、教えてあげてもいいよ」

 陽葵はいたずらっぽく笑いながら、チョークを一本手に取った。

 そのまま、相合傘の片側にさらさらと僕の名前を書き込む。

「ちょ、何書いてんの」

「はい、あと半分。誰の名前がいい? 健斗が好きな子の名前、書いてあげようか?」

 挑発するようにチョークを差し出してくる。

 彼女の瞳が、夕日のせいでいつもより少しだけ潤んで見えた。

 僕は観念して、陽葵の手からチョークを奪い取った。

「そんなの、決まってるだろ」

​ 僕は、彼女の名前をその隣に力強く書き込んだ。

 一瞬、陽葵の余裕そうな笑みが固まる。

​「あ、本当に書くんだ……」

「わがまま聞くって言ったのは、陽葵だろ」


​ 今度は、彼女の耳が真っ赤に染まる番だった。

 夕暮れの教室。チョークの粉が舞う中で、僕たちの視線がぶつかって、どちらからともなく笑みがこぼれた。

「消さないでよ? 明日の朝、みんなが来るまで」

「わかってるよ」

 文化祭当日より、ずっと特別な時間が、そこには流れていた。

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