熟知した2人

流川優

熟知した2人

「買い物に行って欲しいんだけど、」


妻がキッチンからリビングで寝転ぶ俺に投げかけた。


丁度、昼のひなたで眠たい俺はあくびの後に、ため息をついてしまう


「俺忙しいんだって、だから行きたくない」


「なんで?そんな忙しくないでしょ」


と妻の語気が強くなるのを俺は感じた。


付き合ってからだともう10年にはなる。もう妻の一挙手一投足を熟知していると言っても過言ではない。どの行動にも気持ちの色がいつしか見えるようになった。だから妻の声色に対してある程度気持ちが読める。


"娘さんを僕にください。"


ひなたが気持ちいいといつもこれを思い出してしまう。

同棲前のセリフは今でも新しい記憶だ。父への挨拶に出向いたあの時も昼頃でひなたが気持ちよかった。


子どもをそろそろと親にせがまれてるが、まだ俺たちの間に命は生まれていない。変わりない日々の生活を二人で歩んでいる。 


妻は仕事が忙しい。もちろん、俺も忙しい。だからこの唯一の日曜日はお互いにとって特別な時間なのだ。といっても年が増すほどに家でのんびり過ごすことが増えてしまっているのだが。


妻は出版社に務めている。小難しい活字を見ながら指摘しているらしい、毎晩家まで原稿を持って帰って、仕事用デスクで読んでいる姿を見かける。


そんな妻が俺に頼み事、そしてそれに対して俺は嫌だと野垂れ死んだように返している。


男としてダサくないか、


「やっぱり俺行くよ」

妻のいるキッチンの方に顔だけ向けて、言った。


ほんの一瞬の、だけど振り返ると、とても長い旅路の末俺は決断に至った。


「なら、私も一緒に行くね」


妻はニコッと笑って、またキッチンの掃除に戻った。


「なんだよ、また嵌めたな」


のどかな昼間に流れる一時。

俺は起き上がってテレビを消し、妻のいるキッチンに歩みを進めた。

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熟知した2人 流川優 @Rukawa_Yuu

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