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ギィ……と扉の開く音がした。
パタパタとまるで貴族らしからぬ足音が近づいてくる。
セリネリーヴェだ。
「どうした?」と声をかけるより早く、彼女はテーブルの上にある私の左手をギュッと掴んだ。
手のひらを上に返してやると、彼女はそこに自身の指で
《きて!》
と書きつけた。
今度こそ「どうした?」と尋ねると、
《は でた》
は……歯……葉……そういえば二週間ほど前、裏庭にトメロの種を植えたとはしゃいでいたな。ということは──
「芽が出たのか?」
《そう め》
よっぽど嬉しいのか、私の手のひらを自身の指でパチパチと拍手のように叩く。
彼女は口がきけない。
目の見えない私とは、もっぱらこうして私の左手を介して会話をするのが常となっていた。
城の北に広がる林の中にポツンと建っている石造りの塔が、私の住まいだ。神話時代の遺構といえば聞こえはいいが、時代に取り残された、どこもかしこも古いだけの塔である。
そこに彼女がやってきたのは、およそひと月前のことだった。
長く疎遠となっていた兄が、突然連れてきたのだ。
大公弟──身分だけは無駄に高い私を隠れ蓑にせねばならぬ娘。
彼女の口がきけないのが生まれついてのことなのか、或いは別の事情があるのかを私は知らない。知らないが──恐らく後者なのだろうと思う。
彼女からは、私と同じ匂いがした。即ち、奪われた者の匂いが。
トメロの芽にさほどの興味を示さない私に焦れたのか、セリネリーヴェは
《みにきて》
と書きつけた。
「トメロを?今からか?」
ものぐささを全面に出す私にはお構いなしに、私の手をグイっと引く。
これが、本来のこの娘の姿なのだろう。
その貴族らしからぬ快活な振る舞いは、彼女を、その十三歳という年齢に比して幼く感じさせる。
しかし、その彼女が背負う──或いは、背負わされたもの。
それが何かを、私は知らない。
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