Psycho × Origin〜感情霊体を用いた過去との対峙に関する記録〜

@Genhoku_Haruta

形成

Emotional Impact(形成 part1)

 脳の全容は、未だ明かされていない。

 感情の正体を知っている人間は、一体いかほどいるのだろうか。

 人間の思考力は何故不完全なのか、その質問に誰が答えられようか。

 これは感情をめぐる、とある少女の戦記である。


「行ってきまーす!」


 黒染めの車から、セーラー服の少女が飛び出す。

 彼女の名は大塚ミソラ。2022年8月20日生まれ、15歳になったばかりの女子高生だ。

 ミソラは祖母に手を振りながら、校門をくぐる。しかし車からの死角に入った途端に彼女は、歩みを遅くした。そして職員室の前を素通りすると、馴染みのベッドに飛び込んだ。


「あんた、寝てるのも良いけど、そろそろ授業出なくていいの?いい加減にしないと、三者面談になるよ?」


 養護教諭がカーテンをこじ開け、顔を出す。


「私はあんたがどうなろうと、あんたが寝たいだけ寝させてあげるけどさあ……毎朝送り迎えしてもらってるお母さんは知ってるの?このこと」

「母じゃないです。祖母です」

「反論する所、そこじゃないでしょ? そんなことわざわざ言い返さなくても、私の前では母ってことにしときゃあいいじゃない」

「私、母いないんです」

「そう、ごめんなさいね」


 養護教諭はカーテンをぴしゃりと閉めた。


 *   *   *   *


 ──ノイズと共に、チャイムの放送が保健室に響く。気がつくと、西日がさしていた。

 それにしても、やけに静かだ。ミソラはカーテンを開け、辺りを見渡した。


 淡麗な顔の女が、そのすぐ向こうにいた。


「うわぁっ」


 ミソラはおののき、ベッドの上に逃げる。


「あなた、大塚ミソラよね?」


 それを追って、女は個室の中に入って来た。


「誰あなた!?不法侵入?」

「不法侵入だなんて…ここは私たちの庭よ?」


 彼女はカーテンを全開にし、窓を開ける。そこから見える外の景色に驚き、ミソラは飛び起きた。ここは、学校ではない。


「何処よここ!?学校に帰してよ!」

「残念ながら、それは出来ない約束よ」


 女は言った。


「大塚ミソラ。あなたから飛び出た生霊が、あの先生を殺したのよ」

「……へ?」


 ミソラは固まった。どういうことだ。殺した? 何が……? 生霊とは……?


『どういうことよ!?私は何もしてないわよ!?』


 その言葉を発した途端、ミソラは口を押さえる。知らない女の声が、ミソラの声をなぞるように、一字一句違わぬ台詞を言ったかのように聞こえたのだ。


『誰…今の…あんた…?』

「いいえ。あなたの後ろにいる、彼女よ」


 ミソラは、慌てて振り向いた。そこには青髪の、背の小さな女の子が怯えた様子で立っていた。


『何…これ…』


 2人は向かい合って、同時に呟く。


「彼女はあなたの恐れから生まれた生霊、“恐怖フィア”。安心しなさい、私たちはあなたに危害を与えたりなんかしない」

「そんなこと言われても、信じられるわけないじゃない」


 ミソラは、女を睨みつけた。


『まずあんた誰よ、ここは何処よ!? 生霊って何?こいつが先生を殺したの!?』


 今度は、紫の髪を逆立てた娘が現れた。それに押し除けられ、フィアはさらに怯える。


「あの養護教諭を殺したのは“殺意マダラス”。あなたがこうやって生み出した、最初の感情の生霊、“トリガー・エモーション”。今出て来たのは“癇癪タントラム”。マダラスと比べたら、何でもないような感情よ」

『じゃあその、マダラスとやらを早く祓ってよ! あなた、霊能者なんでしょ!?』

《もうやめてよ…ミソラちゃん、怖いよ…》

『うるさい!!』


 ミソラとタントラムが、同時にスケアードに叫ぶ。


『さあ……早く、祓いなさいよ! さもないと、自殺するから! そんな生霊を生み出すくらいなら、死んだ方がマシよ!!』


 しかし女は暫く黙った後、ミソラを引っ叩いた。


「子供ごときに、死んだ方が良いだなんて言う資格は無いのよ」

『じゃあ、あんたはどうなのよ? あんたに、人の人生決める資格はあるの!?』

「あるでしょうね。私だって、こんな生霊と共存してるもの。そんな私がこう言うの。あなたに残された道はただ一つ。生きて、世間から離れて、生霊と共存して、同じ境遇の人を救うのよ」

『そんな大それたこと、私に出来るわけないじゃない!』

「“信頼トラスト”」


 女は呟いた。その瞬間、ミソラの胸が熱くなる。


『な…何したのよ…』

「自信、湧いてきたでしょ? この力を極めると、他人の感情さえも変えられるの」

『でも世間から離れるなんて……私の将来はどうなるのよ!』

「あなた、将来の夢なんて無いわよね? 強いて言うなら、セカイヘイワぐらい?」

『でも、おばあちゃんには何て言うの!?』

「おばあちゃんのことなんて心配したことないくせに。あなたの心の拠り所は、亡くなったお母さんだけじゃない」

『…さっきからあんた、何言ってるのよ。私の何を知ってるのよ!?』


 タントラムは目を見開いて、女に飛びかかった。が、しかし──


「“沈着カーム”」


 途端に、タントラムは消えた。


「言ったでしょ?私はあなたと同じ道の、ずっと先にいるの。読心なんてお手の物よ」

「…ずるいでしょ、読心なんて」


 ミソラは呟いた。


「そういえば、まだ自己紹介してなかったわね」


 女は、ミソラに手を伸ばした。


「ここは私の研究所兼自宅。そして私は、幻想心療内科医兼、感情霊体研究家のミシェル・クローバー・高野。これで、着いてくる気になった?」

「………」


 ミソラは、何も言わずにミシェルの手を握った。

[Emotions are to be continued...]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る