手の形?

@AKIRA54

第1話 手の形?

「小学校の時、ばあちゃんに、『食事の前には必ず手を洗うんだよ!』と言われていたのに、給食の前に手を洗わずに食べたんだ!そしたら、放課後、家に帰る途中で、お腹が痛くなって、家に駆け込んだけど、間に合わなかった……、って経験があるんだ……」

と、三上タカシが言った。

「何それ?下ネタね?」

と、ベッドの中で、笑いながら、わたしは言った。

「いや、次のショート・ショートのテーマが『手』なんだよ!」

と言いながら、タカシはわたしの手を取り、自分の股間に導いた。

「また、アイディアが浮かばないの?『手』なんて、どんな風にでも話の中に取り込めるわよ!『手のひらを太陽に!』って有名な歌があるでしょう?あれ、わたしの母親の生まれ故郷出身の『やなせ たかし』って漫画家が作詞したんだよ!売れない漫画家のようだけど……」

導かれた手を、まだ硬いままの『それ』に当てて、ゆっくり触りながら会話を続ける。

「売れない漫画家か……。俺は、売れない作家だからな……。手なんて、当たり前過ぎて、面白い噺が浮かばないんだよ!」

タカシが甘い息を吐きながら、わたしの耳たぶを軽く噛んだ。彼の右手は、わたしの裸の乳房を撫で上げている。

「仕方がないわねぇ……。また、わたしの小噺を聞きたいのね……」

わたしは、タカシの唇の前に舌を差し出し、ディープなキスを求めた。

会話を……、続けられなくなった……。


「屋敷の柱から、手だけが生えてきて、ヒラヒラと手招きをするのよ……」

と、二回戦が終わって、わたしは会話を再開した。

「ええっ?これ『今昔物語』で読んだことがあるの?マジか……。『手の噺』では、最も有名な噺だから、ね……」

そしたら、とわたしは別の噺を始めた。

「母親に化けた山姥が子供の手を噛る!ってのは?どう?それも、子供の頃聞かされて、夜中にトイレに行けなくなった……?また、ボツなのね……」

タカシは、ホラーが苦手なのだ。きっと、子供の頃に聞かされた、その噺が『トラウマ』になっているようだ。

「仏さまの手の形の噺をするわ!」

とわたしが言うと、タカシは興味を示して、ライトを点けてノートをベッドに持ち込んで、鉛筆を構えた。

「奈良の大仏さんと、鎌倉の大仏さんは、手の形が違うでしょう……」

と、言ってわたしはベッドの上で、胡座(あぐら)をかいて、それぞれの大仏さまのポーズを取る。もちろん『産まれた時のままの姿』で、だ。

「広隆寺の弥勒菩薩さまは、こんな形かな?」

と、形を変える。

「アカネ!もういいよ……」

と、タカシがノートと鉛筆をベッドの脇のテーブルに置く。

「ええっ?まだ、噺は始まっていないよ!」

「いいんだ!締め切りはまだ先だ……。アカネのポーズを見ていたら、また『やりたく』なっちゃったんだよ!お前の身体は、観音さまだ……」

タカシの右手が、わたしの乳房を掴む。胡座をほどいて、ベッドの上に脚を広げる。三回戦の始まりだ。

(ああぁ~、この右手の噺で、ショート・ショートは完成するんじゃないの……)


「お疲れのようだねぇ……」

と、老婆が言った。

「アカネ、俺は先に帰るよ!もう、クタクタだ……」

タカシが隈のできた眼をしばたいて、フラフラと建物の扉を開けて、明るい太陽の下に出て行く。

「どうやら、一晩中、『お楽しみ』だったようだね?ミユキちゃんから頼まれていたから、心配していたんだけど……、大成功だったようだね……」

と、受付のカウンターから、身を乗り出して、マコモという名の老婆が、タカシの背中を見送りながら、わたしに言った。

「おかげさまで、タカシがやっとわたしを抱いてくれましたけど……。一回戦で満足したようだったのに……。ちょっと休んだら、すぐに元気になって……、歳を考えろ!って言ってやりたいわ!わたしも、もうクタクタ……」

「休んで行きな!濃いお茶を淹れてあげるよ!ミユキちゃんのお客さまだから、サービスだよ!」

と、マコモさんが言った。そして、事務所と応接室を兼用しているような部屋の、フカフカなソファーにわたしを招き入れた。

ここは、ラブホだ。何故、わたしとタカシがラブホで『エッチ』をしていたのか、それには、深い理由がある。

タカシとわたしは、仕事仲間だ。彼は、ルポライターやら、短編小説を雑誌に書いている。本人は『売れない作家』と言っているが、仕事は途切れることがない。代表作がないだけだ。わたしは、漫画風のイラストを書いたり、詩を書いている。『やなせ たかし』さんが編集長をしている『詩とメルヘン』という雑誌で認められて、仕事をするようになった。同じ『タカシ』という、不思議な縁だ。

タカシは元々雑誌記者で、わたしは高校を出て、その雑誌を発行していた小さな会社に就職したのだ。わたしが編集の仕事をしていた頃、タカシは奥さんと離婚している。理由は、奥さんのほうの浮気だったらしい。わたしは、タカシに一目惚れしていたから、なんとかしたい!と思っていた。そして、タカシが会社を辞めて、フリーのライターになった時、わたしは母親に相談して、タカシを騙して、身体と身体を合体させたのだ。ただし、彼はその相手がわたしだったことには、つい最近まで知らなかった。

そのことを告白したのは、タカシがいつまで経っても、わたしの身体に触れない所為もあった。タカシは、歳が親子ほどではないが、ひと回りほど離れている『一見純真な乙女』に、遠慮していたのだ。そこで、小説のネタの噺として、彼とわたしの身体が合体した物語を語ったのだ。それを知れば、遠慮なく、わたしの身体を自分の『もの』にするだろう!と考えたのだ。わたしの予想は、半分以上外れた。彼は、わたしを身近に置くようになり、付き合いも深くなった。しかし、身体だけは、触れようとしなかったのだ。

(噺のオチが、悪過ぎたかな?タカシの苦手なホラーになっちゃったから……)


「それで、わたしにどうして欲しいの?」

と、女優のような美貌の霊媒師が尋ねた。

「先日は、三上タカシが、お世話になったようで……」

と、わたしは、まず先日のお礼を言った。タカシが小説のネタ探しのために、わたしの母親の噺の結末を、この美貌の霊媒師のミユキさんから聞き出したのだ。

「ええっ?タカシさんとの仲に、不満があるの?あのね!ここは、お祓いをするところよ!そりゃ、人生相談のようなこともするけど、恋愛、ましてや『エッチ』の相談なんて……」

と、わたしの依頼を訊いて、霊媒師は困ったように言った。

「最近、多いのよ……、変な噂がたっちゃって、わたしに相談したら、彼と、ものすごく素敵な関係になれる!って……」

「ええ、わたしもそれを聞いて……」

と、わたしは正直に答えた。

「仕方がないわねぇ……。あなたは、コノハさんの知り合いらしいし、彼との縁も、不思議な絆で結ばれているようだから……。あなたと彼の最初の『エッチ』をした噺を詳しく話してもらえるかな……」

ミユキさんは、諦めたように言った。わたしは、タカシとの、冬の夜の神楽と、秘密の神事をでっち上げて『結ばれた』噺を彼女に語った。

「あらあら、その村人たちのエキストラは、お母様に変身能力を授けられた『妖(あやかし)』たちね……?」

と、ミユキさんは真相を見抜いて、わたしに確認した。わたしは正直に頷いた。

「それで、子供を授かったの?」

と、ミユキさんがじっとわたしの眼を見つめて訊いた。

「いえ……、それは……、小説の『オチ』です……」

「ふうん~、何か、秘密があるみたいだね……。まあいい!こういう案件は、わたしじゃ無理なんだ!その筋のエキスパートを紹介するよ!二、三日中に、わたしの名前で手紙と招待状が届くから、彼を連れて、その指示に従いな!彼には、小説のネタが見つかった!ってことで、ね……」


「どうやら、上手くいったようだね?」

と、ラブホの受付のお婆さんが、熱いお茶の入った湯飲みをテーブルに置きながら言った。わたしは湯飲みを取り上げて、息を吹きかけながら、頷いた。

このラブホに来たのは、ミユキさんからの指示に従ったものだった。

「変なところで、小説のネタを訊くんだな?」

と、タカシは初め警戒気味だったが、ミユキさんからの指示だったので、信用はしていたようだ。受付のマコモさんも、

「小説のネタに関わる、物語の舞台の部屋に、案内するよ!」

と言って、ラブホにしたら、普通の部屋に案内してくれたのだ。

部屋は、質素だったが、良い感じで、微かな花の香りがした。わたしはベッドの縁に腰をかけ、タカシは側にある椅子に腰をおろした。

「さあ、物語が、始まるよ!」

と、マコモさんの声がした。部屋の何処かにスピーカーがあって、別の放送室からの声のようだ。

「✕✕✕……」

と、日本語でも、英語でもない、意味不明な言語で、歌うような声が流れてくる。部屋の香りが強くなる。お花畑にいるような気分になった。

突然、タカシが上着を脱ぎ捨て、わたしを抱きしめた。乱暴にではなく、『お姫様抱っこ』をして、ベッドの中央に、そっと降ろしたのだ。新婚の夫婦が初夜を迎える場面のようだった。そのあとは……?よく、覚えていない……。彼が一回目を終える間に、わたしは何度も叫んでいた。もちろん、歓喜の声だ。マコモさんのバックグラウンド・ミュージックは、もう消えていた……。

一回戦が終わって、タカシが、もう完全に打ち解けて、今度の小説のテーマは『手』だという会話を始めたのだ。

だから、ミユキさんもマコモさんも、テーマについては、知らないはずだ……。

「アカネちゃん!」

と、対面のソファーに座って、わたしと同じように、熱いお茶を飲んでいる老婆が言った。わたしには、その声が、亡くなった母親の声に聞こえた。

わたしが視線を彼女に向けると、マコモさんは、「フッ!」と、湯飲みの上に漂う湯気に息をかけた。その湯気がわたしの顔に向かって来た。

「きゃあ~!手……」

と、悲鳴を上げて、わたしは、ソファーの上で気を失った……。


エピローグ(ミユキの独り言)

「おい!婆さん!アカネに何をしたんだ!」

と、わたしは言った。

わたしの名前は『ミユキ』。霊媒師を生業(なりわい)にしている。最近、若い?女性から『セックス』に関する相談、依頼が増えている。わたしは、『処女』なのに、だ。どうやら、噂の元は、『オカルト・マニア』の大学生、ユウコと、その友人で、旋空君の彼女のシズカのようだ。ふたりとも、わたしの客で、彼氏と上手く行き過ぎている……。

今回の依頼人のアカネは、少し特別な理由があって、イヤだったが、その方面では、エキスパートの呪術師で、ラブホを経営している、マコモ婆さんに話を持っていったのだ。

「いいかい!一回、ロマンスをしたら、それでいいんだよ!何回もヤラすんじゃないよ!」

と、わたしは婆さんに念を押して、アカネに招待状を送った。

わたしがラブホの応接室に着いた時に、悲鳴が聞こえた。ドアを勝手に開けて飛び込むと、アカネが気を失っていたのだ。状況を把握するために、マコモ婆さんを問い詰めたのだ。

「ちょいと、試してみたのさ!」

と、婆さんがニヤリと笑って答えた。

「試した?何を……?」

「この娘の才能さ!母親のシノから、才能を受け継いでいるかどうか、ね……。シノの才能が開花したのは、『祝いの御札』に当たって、狗神と小天狗に、術を仕込まれたんだろう?その、持って産まれた部分の才能を、アカネが引き継いでいるのか?まだ、表には、出てないようだから、ね……」

「何で、婆さんがシノを知っていて、尚且つ、この娘がシノの娘だと知っているんだい?わたしは、話した記憶はないよ!」

「ミユキちゃん!わたしを誰だと思っているんだい?播磨流のマコモさんだよ!呪術師に関しては、その情報量は、天下一品だよ!」

(まあ、わたしもその情報量には、お世話になっているから……)

「シノさんを知っているのは、よくわかったけど……」

「この娘は、シノちゃんにそっくりじゃないか!わたしが会った伏見稲荷にいた頃のシノちゃんに、さ!」

(この婆さんにかかったら、あの時すでに、中年期だったシノさんも『ちゃん』付けかよ……)

「わかったよ!それで、どんな悪さをして、才能を試したんだい?」

わたしは、霊媒師の能力を測る眼鏡をしている。だから、アカネに潜在能力があることは知っている。

「湯飲みの湯気に、『気』を込めて、放ったのさ!普通の人間なら、ただの湯気だよ!術の才能があれば、反応する……。敵対する人間なら、矢か、弾丸、あるいは、猛獣が牙を剥いて襲ってくる『幻(まぼろし)』を見るよ!」

「気弾、気功、あるいは、式に近いモノか……?浄空さんが使っているやつ……?」

「ミユキちゃんにも、できるよ!式よりは、簡単だ!旋空ちゃんは、知らずに使っているね!あの子は、先天的に気功が使えるようだから……」

「それで、アカネが気を失った!ってことは、敵がい心を持っていたのかい?」

「さあ?『手』って言ってたから、誰かの手が見えたのかね……?しかし、手なら、弥勒菩薩さんの手の形になるはずなんだけど……。この娘が、最後に示した『手の形』は、ね……」

わたしには、意味不明の話だった。あとで知ったことだが、タカシと一回戦を終えたあと、アカネが仏の手の形をタカシに見せたらしい。つまり、この婆さんは、それを知っていた。覗いていたのだ!ふたりの行為を最初から最後まで……。

「なんなら、アカネに訊いてみなよ!」

「いや、そんな暇はない!わたしがここへ来たのは、別の理由だ!タカシが、電車に乗ろうとして、倒れたんだ!病院に緊急搬送されて、わたしに連絡が来た。わたしの招待状がポケットにあったからだと病院の担当者が言ったよ!それで、アカネを探した。手っ取り早く、カラスの式を放ってね!そしたら、まだ、ここにいた!ってわけだ……」

「ミユキちゃん!タカシとアカネは、どうなっているんだい?」

と、マコモ婆さんが訊いた。後日のこと、わたしがマコモのラブホを訪ねたのは、このラブホに勤めている、元比叡山の沙門に用事があったからだ。

「上手く行き過ぎたよ!子供ができて、籍を入れるそうだよ!」

「そりゃあ、残念だね……。アカネちゃんには、才能があるのに……」

「婆さん!おめでとう!だろう……?」

「まあ、女の幸せなら、ね……。ミユキちゃんは、アカネが見えた『手の形』を知らないから、ね……」

「手の形?ああ、婆さんが放った湯気の気功か……?なんに?いや、どんな形に見えたんだい?」

「訊きたいかい?」

と言ったマコモのニヤリとした顔に、わたしは、危険な香りを感じた。

「まあ、気になるから、訊いてやるよ……」

と、わたしは、恐る恐る言った。あとで、後悔する羽目になった。

「わたしは、見えたなら、弥勒菩薩さんの手の形だ!と思ったんだ!知っているだろう?広隆寺の弥勒菩薩さんは、指を立てて、思案しているようなポーズなんだよ!」

「ああ、半跏思惟像(はんかしゆいぞう)というポーズだね?それが、どうした?」

「人差し指と中指が立っていて、親指と薬指で輪を作っている。小指は、自然に伸ばしているんだよ……」

「ああ、有名な写真を見たことがあるよ……。それで、結末は……?」

「その『手の形』がさ!タカシと初めて『シタ』時の、忘れていた記憶を思い出させたのさ!タカシが、まだ『於保娘(おぼこ)』だったアカネの、『ソレ』を広げるために、指を使った。アカネは処女だったけど、タカシと結ばれる思いから、溢れていたのさ!滝に打たれた、水滴じゃないモノをね……」

イヤな予感がした。

「それを指先で掬って、アカネの鼻先に近づけたんだよ!そして、言った。『あんたのあそこの蜜だよ!舐めてみるかい……』と、ね……。アカネは、イヤイヤをする……。その『手の形』が、さ……」

「ヤメろ!それが何で、アカネの才能に関係があるんだ!」

「だって、わたしの『気』を受けて、その光景を見たんだよ!」

「確かに、あんたの『いやらしさ』に気づいた才能は、認めるよ……」

(まったく、やっぱり、この婆さんに頼んだのは、間違いだったよ!優しい媚薬を使った部屋での行為までは、良かったのに……。たぶん、タカシのセリフは、婆さんの創り噺だね……。弥勒菩薩さまの手の形をこんな風に、創り噺にするなんて!『バチを当ててくれ!』って、祈祷してやりたいよ……)



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