第14話「残された祠」

 霧が晴れた森は、

 静かすぎるほど、静かだった。


 風が、

 葉を揺らす音だけが残る。


ミリア:「……終わった、よね?」


 周囲を見回しながら、

 慎重に口にする。


セリア:「はい」


 だが、

 即答ではなかった。


レオン:「……でも、

     何か引っかかってる顔だ」


 剣を鞘に納めながら、

 軽く言う。


 それは、

 彼なりの気遣いだった。


 セリアは、

 少しだけ歩き出した。


 鳥居の奥。


 獣が現れた場所より、

 さらに深く。


カイ:「……そこ、

    何かあるのか?」


 掠れた声。


 まだ、

 完全には回復していない。


セリア:「……はい」


 立ち止まる。


 そこにあったのは――

 小さな祠だった。


 崩れかけ、

 苔に覆われ、

 供え物もない。


ミリア:「……祠?」


セリア:「ええ」


 静かに、

 頷く。


セリア:「ここが、

     “起点”です」


レオン:「起点?」


セリア:「この森で起きた歪みの、です」


 祠に手を伸ばす。


 触れない。


 触れられない。


セリア:「祈りが、

     忘れられた場所」


セリア:「……そして、

     神が、

     応えなかった場所」


 空気が、

 わずかに冷える。


カイ:「……神が、

    応えなかった?」


セリア:「はい」


 目を伏せる。


セリア:「だから、

     力だけが、

     残りました」


 ミリアが、

 拳を握る。


ミリア:「……じゃあ、

     さっきの獣は」


セリア:「祈りの、

     なれの果てです」


 沈黙。


 重い。


レオン:「……なあ」


 頭を掻く。


レオン:「それってさ」


レオン:「この祠を、

     全部どうにかしなきゃ、

     終わらないって話?」


 セリアは、

 顔を上げた。


 初めて、

 仲間全員を見る。


セリア:「……はい」


 はっきりと。


セリア:「この国には、

     同じような祠が、

     いくつもあります」


セリア:「それらを、

     巡って」


セリア:「歪みを、

     正す」


ミリア:「……旅、

     確定だね」


 苦笑。


レオン:「……なるほど」


 短く、

 息を吐く。


 それから、

 笑った。


レオン:「分かった」


レオン:「じゃあ、

     俺も行く」


セリア:「……え?」


 わずかに、

 目を見開く。


レオン:「だってさ」


 肩をすくめる。


レオン:「このまま別れたら、

     寝覚め悪いだろ?」


レオン:「それに――」


 祠を見る。


レオン:「放っといたら、

     また誰かが、

     泣く」


 それだけだった。


 セリアは、

 少しだけ微笑んだ。


 ほんの一瞬。


セリア:「……ありがとうございます」


 深く、

 頭を下げる。


 そのとき。


 祠の奥で、

 何かが、ひび割れる音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る