ストーカーの供述
YOUTHCAKE
テラスの彼女
僕は、職場の人間に虐げられ傷心の中、多数の人間の目が有る前で屋上から身を投げようと、空港にやって来た。
どのようにしてそこにやって来たかは、僕の中に記憶として残っていない。ただ、うなされるように、夢遊病患者のように、風に運ばれた風のように、ただ漂ってやってきたはずだ。
その空港のテラスには、鉄線の自殺防止ネットがあって、僕の野望は砕かれた。
僕の挙動は不審になった。周りをはたはたと見回し、眼に入るものの情報を処理しようと脳が躍起になって活動した。目まぐるしいほどに。
そう言えば、寒い。そして、風も強い。こんな日に、飛行機が飛んでいる。ゴーアラウンドも起こりうる、そんな強風の一日。気付けばそんな中に僕は立っている。
左右を見回し、挙動不審になりながらも、テラスのベンチに座る。
家族連れ、一人客、それぞれが、手元に重い荷物を持たず、軽い荷物だけでその場にいるのを見て、『もしかしてこのテラスが目当てなのか?』と早合点する。いや、もしかしたら、荷物はロッカーに預けているのかもしれない。でもなぜ?ワカラナイ。
家族連れはいても、カップルはいない。そのうえ、どちらかといえば、一人客は、僕と似て、うつろな表情をしている。ここで浴びる太陽が、自分を燃え溶かしてくれそうな予感を持って、ここにやって来たであろう、公然と何かに怯えている人たちが。
その中に一人、凝然と立ち尽くす、神の悪戯のような女性の存在が目に留まった。テラスの左端だった。
『あれは…。』と僕はつぶやいた。彼女は横顔を伺うに、見るからに魔性の女のアイデンティティをその身の回りに振りまく、凄絶必死の美女ではないか。
見る者を悩殺し、男たちの煩悩を揺さぶるその姿は、この世界のミューズ。
彼女は大きなメガホンのようなカメラを持って、何か巨大な飛行機に対して目線を焼きつけている。あの飛行機に何かがあるのか…。
思わず僕はその姿をカメラに収めようと、スマートフォンを取り出した。
彼女に気配を気付かれないように、画角の左端にそれとなく彼女の切れ端を映しながら、滑走路の映像を撮る。
彼女の左には数名の家族連れ客がおり、ざわざわと騒いでいる。僕は、家族連れの顔が映らないように気を付けているふりをしながら、彼女の背中を画面に写す。
僕はこの時彼女が眺めていた飛行機が動いていたことなんて知らなかった。しかも、左端からは死角になる、滑走路に向かって。
テラスの右端には誰もいなかった。いや、数名の女性はいたが、家族客はおらず、女性ばかりがいただろう。しかし、左には家族客の男性がいた。
そんな中、僕のことを知ってか知らずか、彼女は右端に向かって歩み出したのである。
まさか、そんなことが?
『私を撮っているのでしょう?ならば、最も美しい華をこちら側で撮りなさい。引き立て役なら沢山いる。』と言わんばかりの女性の行動に、僕は唾を呑んだ。
自分の美を自覚している彼女の凡庸ならぬ挑発的な行動に、僕は絆され、突然の興奮に息も絶え絶え、カメラをその方向へと向ける。
『彼女は僕を誘っている!』と確信した瞬間だった。
ストーカーの供述 YOUTHCAKE @tetatotutit94
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