『死に損ないの足軽(46)、渋谷で最強JKに拾われる。〜コンビニのおにぎりが開けられないので、仕方なくインフルエンサーになります〜』

@kirigakuresaizou

第1話 雷鳴、あるいは終わりの始まり

武士道とは死ぬことと見つけたり。


なんて偉い坊主が言いそうな言葉が正しいのなら。


間違いなくわしより強い忠義を持って立っているのに、矢襖(やぶすま)になって死んだ彼らは正しかったのだろうか。


まぁ……どうでもいい。疲れたわい。


『放てぇッ!! 掛かれぇぇッ!!』


わしの指揮した声が枯れ果てて、敵の怒号がかき消していく。


敗者であるはずのわしたちは、泥水を啜り、這いつくばり、逃げていた。


なら自然と、勝った奴らは首級(しるし)を挙げて酒を飲むのが普通なのだろうが。


「……ちっ、来やがった。しつこい」


「善次郎様、もう無理でさぁ。おいらはここで……」


「一人で死ぬな……腰抜けが!」


そんなこともない。


部下に罵倒に近い檄を飛ばしながら、山道を走った。


いつものことじゃ。


わしは運がない。両親からも早くに死なれ、仕えた主君も次々と滅んだ。


疫病神。死に損ない。


でもそれでいい、わしもこの乱世が嫌いだから。


「嫌なら、腹でも切ればいいのに……わしはいつも往生際が悪い…」


わしが心に思ったことをつぶやくと、名前はなんだっけ? 


忘れた。


多分新入りの足軽が泣き言を言う。


が、介錯するのもメンドクサイ……。


ドォンッ!


「ひぃッ! 雷!?」


すると、天が割れるような音がして、視界が白く染まった。


泣き言を言っていた足軽は腰を抜かして震えている。

「……す、すみません。善次郎様……つい」


「走れ!」


「……はい!」


わしに謝り、びくびくと震えている。

わしを怒らせてはいけないと勘違いされている。


ただの46歳。


出世も遅れて妻も子もいない。


薄汚れただけの足軽大将。


だが、わしとは真逆で、戦国の世で生きるにはあまりに繊細すぎる連中だ。


ふいに空が光った瞬間、わしの肩に重い衝撃が走った。


「……善次郎様?」


「ぐっ」


焼けるような熱さ。


周りの名もなき部下たちが叫ぼうが、それだけでわしは悟った。



あぁ、終わりか。



敵の矢でも、刀でもなく、ただの雷(かみなり)か。


「善次郎様! しっかりしてください! ここで死んだら!」


「……置いていけ」


「い、いや!?」


唖然としているが、動けないのだから置いていけと言っただけじゃ。


わしは無視して、目を閉じる。


最初からいなければ、もう失う主君もいないから。 


わしが誰かに仕えれば、必ず滅ぶ。死ぬ。心が摩耗する。


だから誰もわしに近づくな。


意識が遠のく。


雨の音だけが響く。


『おっとぉ、おっかぁ……迎えに来てよぉ』


昔、死んだ流行り病の村で聞いた子供の声か。

叶いもしない願いを抱いて、きっと……きっと……来世こそ。


『そんな日は一生こない。武士に情けなどかけるな』

それは雨の降る日だった。

初めて人を斬った日、師匠が言った言葉。



あぁ……そうか……わしは死ぬのか。

別に……いいか。悲しむ人もいないし。


あ、でも……あの新入りの足軽、逃げ延びたかな?


まだ若いし、祝言を挙げたばかりだと言っていたな。

わしとは違う……なんだ………………なら。

「…………よかったな」

わしは静かに、泥の中で息絶えた。



_____________



「……おい」

「……邪魔だぞ、おっさん」


騒がしい。ここはどこだ?


地獄の釜の音か? やけに規則的な音がする。


「おい、撮影か?」

「コスプレ? すげークオリティ」


……眩しい。

目が開かない。体が重いのは変わらない。

でも……雨が降っているのに、妙に地面が硬くて……平らだ。

ここは……どこ?

目を開ける。


そこには、星が地上に落ちてきたような、見たこともない色の光が溢れていた。


「青……赤……緑……?」


光る板。巨大な絵が動いている。

見たこともない服を着た民草が、あふれかえるほど歩いている。


誰も刀を持っていない。誰も鎧を着ていない。

まるで、狐に化かされたみたいだ。


「刀は……ある。鎧も……ある……三途にでも迷ったのか?」

道端があったので、座り込もうとした。


別に何かが好転するわけでもないのに、ぼーっとする。


すると目の前で、巨大な鉄の箱が、馬もいないのに走り去っていった。


速い。矢よりも速い? わしはそれをただ眺めていた。


……5分ぐらいたっただろうか。

その間も、ずっと一人で雨の中、鎧から煙を上げて立ち尽くすわし。


周りの視線が痛い。


それを見ていると嫌な予感がした。


忘れたい感覚――場違いな感覚。


わしが15歳の頃だ。初陣に出た年、そしてわしが初めて生き残ってしまった年。


もう忘れたはずなのに、あの時の孤独を思い出すと苦しくなる。


生き残ったのは運が良かっただけだと、ずっと自分に言い聞かせていた。


うまくなりたい。って師匠に褒めてもらいたくて。


でもわしは師匠に先立たれた。守れない弟子だった。


プァァーーーッ!!


「危ねえぞ!! 信号見てねえのか!!」


怒号。


鉄の箱に乗った男が、窓から顔を出して怒鳴っている。


言葉はわかる。だが意味がわからない。


信号? 狼煙(のろし)のことか?



「……すまぬ」



わしが思ったことをつぶやくと、鉄の箱の男は舌打ちをして去っていった。


斬りかかってくる気配はない。


避けるのもメンドクサイ……。


バシッ!

「Hey! Samurai? Cool!」


すると、異国の男が近づいてきて、わしの肩を叩いた。


殴りかかってきたわけではない。笑っている。白い歯を見せて。


「……あ?」


「Photo, OK?」


「……」


何を言っているのかわからない。南蛮人か。

だが、殺気はない。


わしの手にある刀を見ても、誰も怖がらない。

ここは戦場ではないのか?

_

わしは、気づけば知らない場所にいた。

46歳。職業、足軽大将。特技、生き汚く逃げること。


どうやらわしは、死に損なったらしい。

それも、とんでもなく厄介な場所で。

あぁ………腹が、減ったなぁ。

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