アレックス都市伝説シリーズ 第二章:愛宕山の赤き風

迦兰多(Jialanduo)

第二章:愛宕山の赤き風

第一節:根無しの木


 天正十年(一五八二年)、六月十三日。  雨は三日降り続いていた。それは罪を洗い流す甘露ではなく、土の臭いと焦げ臭さを孕んだ死水であり、山林全体を腐敗した壺の中に漬け込んでいるようだった。  井上惣次郎(いのうえ そうじろう)は、自分がもはや人間ではなく、泥濘の中を転がる腐肉のように感じていた。  明智光秀軍の兵站を担う下級武士であった彼は、山崎の戦いでの惨敗後、負け犬のごとく丹波の深山へと逃げ込んだのだ。 「光秀様は死んだ」  その言葉が呪文のように脳裏で反響していたが、声に出すことはできなかった。現在の京周辺では、桔梗紋(明智家の家紋)を身につけた者は、怒れる百姓や羽柴秀吉の落ち武者狩りによって、家畜のように殺される運命にある。  惣次郎は具足から家紋を引き剥がし、打刀をボロ布で巻き、宿無し浪人を装っていた。


 彼は迷っていた。  この山林は異様だった。木々はあまりに巨大で、樹冠は空を覆い隠し、正午だというのに黄昏のように薄暗い。  何より精神を圧迫したのは、「風」だった。  本来、これほど鬱蒼とした森であれば風は通り抜けにくいはずだ。だがここの風は違う。外から吹いてくるのではなく、樹幹の内部から、あるいは地底の穴から「絞り出されて」いるようだった。  それは鋭く、微細でありながら絶え間なく続く笛の音に似ていた。まるで巨大な生物が、細い鼻孔を通して苦しげに呼吸しているかのような音だ。  ヒュゥゥ――シィィィ――ヒュゥゥ――シィィィ――


 惣次郎は巨杉に身を預けて喘いだ。草鞋はとうに擦り切れ、足裏は血豆だらけだった。  ふと雨を拭おうと見上げた時、彼は凍りついた。  頭上三丈(約九メートル)ほどの高さ。その幹に、一本の団扇が突き刺さっていた。  普通の扇子ではない。名も知れぬ怪鳥の羽根で編まれた巨大な団扇だ。それが硬い樹皮に深々と突き立っている。柄には色褪せた注連縄が巻かれ、微風に揺れる首吊り死体の舌のように揺れていた。 「あの高さに……誰が団扇を?」  悪寒が背筋を這い上がる。足場となる枝はなく、樹皮は苔さえ滑り落ちるほど滑らかだ。  空を飛べる者か、あるいは、途方もない巨人の仕業か。


 その時、前方の霧の中に輪郭が浮かび上がった。  屋根だ。黒ずんだ茅葺き屋根が低く圧し掛かり、草むらに蹲る巨獣の群れに見えた。  人家だ。  惣次郎は唾を飲み込み、柄を握りしめた。乱世において、山民との遭遇は亡霊よりも恐ろしい場合がある。落ち武者を殺し、身ぐるみを剥ぐことになんの躊躇いもないからだ。だが、空腹感が胃壁を爪で引っ掻くように彼を苛んでいた。


 彼は慎重に近づいた。  五、六軒ほどの小さな集落だった。二つの険しい峰の狭間にへばりつくように存在し、まるで山に圧迫されてできた腫瘍のようだ。犬の鳴き声ひとつなく、不気味なほど静まり返っている。  雨音が足音を消してくれる。彼は最初の一軒の前に立った。戸は開いている。  屋内は薄暗く、松脂を焦がしたような強烈な匂いが充満していた。  惣次郎が中を覗き込むと、心臓が縮み上がった。  人がいた。  麻の衣を着た老人が、入り口に背を向けて座っている。  だが、その姿勢は異常だった。胡座でも正座でもない。蹲踞(そんきょ)だ。  それも、部屋の中央を走る一本の梁(はり)の上に。  床から二メートルはある高さだ。老人は巨大な鳥のように、丸太に両足を食い込ませ、膝を抱え、体を極限まで丸め、頭を膝の間に埋めていた。  惣次郎は息を殺した。人間があんな高所、あんな滑る梁の上で、微動だにせず蹲っていられるものか?


「御免……」  惣次郎の声は、紙鑢(かみやすり)を擦り合わせたように乾いて掠れていた。  梁の上の老人は動かない。 「通りすがりの旅人だ。水を一杯頂きたい。もし不都合であれば……」  ゴリッ。  乾いた骨の擦れる音。  老人の頭部がゆっくりと回転し始めた。水平にではない。股の下からゆっくりと持ち上がってくる。頸椎が折れているのではないかと疑うほど、その動きは硬質だった。  老人の顔が露わになった瞬間、惣次郎は半歩後退した。  極端に引き伸ばされた顔だった。重力のせいか、奇形なのか。顎は恐ろしく尖り、皮膚は溶けた蝋のように垂れ下がり、目尻も下へ引っ張られている。  最も異様なのは鼻だ。鼻自体は低く、潰れていると言ってもいい。だが鼻孔が異常に巨大だった。不釣り合いなほど大きく開いたその穴からは、奥にある暗赤色の粘膜までが見て取れた。


「風は……」  老人が口を開いた。鞴(ふいご)から空気が漏れるような声だった。 「止んだか?」  惣次郎は呆気にとられ、外を見た。雨は降り続き、あの不気味な風切り音は相変わらず森に響いている。 「いや、まだ吹いている」  老人は安堵したように見えた。濁った瞳で惣次郎を見据え、極度に歪んだ笑みを浮かべた。 「ならばよい……風が止んだら、わしらは落ちてしまう」 「落ちる?」  老人は説明せず、突然、膝を抱えていた手を離した。  その瞬間、惣次郎は見てはいけないものを見た。  老人の足だ。裸足の足指は信じられないほど長く、木の根のように梁を掴み、食い込んでいた。それは歩行のための足ではない。掴むために進化した猛禽の爪だ。 「来たからには、客だ」  老人は突然、梁から飛び降りた。  驚くべきことに、着地音は羽毛のように軽かった。着地した瞬間、あの猛禽のような威圧感は消え、腰の曲がった、どこにでもいる風前の灯火のような老人に戻っていた。 「わしはここの村長じゃ。お武家様、誰かから逃げておるのかね?」  老人の口調は淡々としており、先程までの梁の上での光景が幻覚だったかのように振る舞った。  惣次郎は警戒して刀を握った。 「ただ、道に迷っただけだ」 「迷うのは良い。迷うのは良いことじゃ」  村長は背を向け、中へ入るよう促した。 「この愛宕の深山に入れば、正気でいるより迷った方が長生きできる。本能寺の方から逃げて来たんじゃろう? 体から硝煙の臭いがするわ」  惣次郎の心臓が跳ね、殺意が湧いた。この老人は知りすぎている。 「そう殺気立つな」  背中に目でもあるかのように、村長は手を振った。部屋の隅にある水甕から柄杓で水を汲む。 「飲みなされ。『鼻の穴』から湧いた水じゃ。綺麗じゃよ」  喉の渇きは限界だった。惣次郎は柄杓を受け取り、一気に飲み干した。水は氷のように冷たく、微かな鉄錆の味がした。


「ここはどこだ?」  口元を拭いながら惣次郎は問うた。 「ここは『仰天村(ぎょうてんむら)』」  村長は畳に座り、天井を指差した。 「わしらはいつだって、上を向いていなきゃならんからな」 「何を見る?」 「あのお方が、いつ風に乗って帰って来られるかをじゃ」  村長の瞳に狂信的で虚ろな光が宿った。彼は戸外を指差した。 「今夜はここに泊まるといい。だが一つ、掟がある。必ず守ってもらうぞ」  暮れゆく空を見て、惣次郎は選択肢がないことを悟った。 「どんな掟だ」  村長が顔を近づけてきた。巨大な鼻孔が呼吸に合わせて収縮し、フゴフゴと音を立てる。 「夜、寝ている時にどんな音が聞こえても、決して梁を見上げてはならん。それと……もし顔に何かが息を吹きかけても、決して目を開けてはならんぞ」  惣次郎は眉を顰めた。 「鼠か蛇でも出るのか?」 「ヒヒヒヒ……」  村長は干からびた笑い声を漏らした。それは形容し難い嘲笑を含んでいた。 「鼠や蛇なら、そりゃあ幸福というものよ。怖いのは、お前の『高さ』を借りに来るモノじゃ」


 夜の帳は予想以上に早く降りた。村は死のような静寂に包まれた。  惣次郎は離れの小屋に通された。部屋には古い筵(むしろ)が一枚あるだけだ。  不安を煽ったのは、あばら家のくせに天井だけが異様に高いことだった。四、五メートルはあり、巨大な丸太の梁が暗闇の中で交差し、蜘蛛の巣のように頭上を覆っている。  彼は熟睡を避け、刀を抱いて横になった。  雨が止んだ。あの鋭い風音が、より鮮明に響く。  ヒュゥゥ――シィィィ――


 どれほど時間が経ったか。半覚醒の状態にあった惣次郎は、異変を感じた。  空気が粘着質に変わった。  上方から、言葉にできない圧迫感が降りてくる。  村長の警告を思い出す。『梁を見上げてはならん』。  だが、恐怖と好奇心は相反する本能だ。禁じられるほど、安全を確認したくなる。  惣次郎は薄目を開け、視線を暗闇へと這い上がらせた。  最初は何も見えなかった。だが目が闇に慣れるにつれ、梁の輪郭が浮かび上がった。  その一本に、黒い塊があった。  逆さまにぶら下がっている。  惣次郎の心臓が止まりかけた。単にぶら下がっているのではない。関節構造を無視した姿勢で、木に吸い付いているのだ。  影は長い。引き伸ばされた布のようだ。一端は梁に引っかかり、もう一端が……ゆっくりと、音もなく下へ伸びてくる。  首だ。  惣次郎は悲鳴を噛み殺し、唇から血が出るほど噛み締めた。  人間の首が、蛇のようにあり得ない長さに伸び、四、五メートルの高さから垂れてくる。  その頭部は逆さまのまま、ゆっくりと惣次郎の顔に近づいてきた。  近い。  惣次郎の鼻先一寸のところで、それは止まった。  松脂の焦げたような臭気が漂う。  惣次郎は堅く目を閉じた。眼球が瞼の下で激しく震える。  生温かく、強烈な気流が顔に吹き付けた。  ブォォォォ――  鼻息だ。だが、人間の肺活量ではない。暴風のような気流が、惣次郎の顔の皮膚を波打たせる。  そのモノは、巨大な鼻孔で惣次郎に対して激しく呼気と吸気を繰り返していた。  恐怖を味わっているのか。  それとも、彼の「重さ」を確認しているのか。  惣次郎が限界に達し、刀を抜こうとしたその時、声が脳髄に直接響いた。 『重い……こいつは重すぎる……これじゃあ飛べない……』  女の声だった。怨嗟と失望、そして神経質な渇望を含んだ声。  直後、骨が収縮する不快な音が響いた。首が戻っていく音だ。気流が消えた。  惣次郎は冷や汗で濡れ鼠となり、夜明けまで指一本動かせなかった。


 翌朝、陽光は白く、濃霧を貫けない。  目の下に隈を作った惣次郎が外に出ると、村人が空き地に集まっていた。  彼らは全員、同じ奇行を行っていた。  老若男女問わず、家の前に立ち、爪先立ちになり、首を限界まで伸ばして空を仰いでいる。  踵は高く浮き、足指だけで体重を支えている。餌を待つ雛鳥のようでもあり、見えない糸で吊るされた操り人形のようでもあった。  村長が先頭に立っていた。その首は昨日よりさらに伸びているように見えた。  惣次郎が出てくると、彼らの動作は止まらず、ただ眼球だけが一斉に下へ回転し、彼を凝視した。 「よく眠れたかね? お武家様」  村長の声は朝霧の中で幽霊のように響いた。 「まあな」  惣次郎は嘘をつき、柄から手を離さなかった。 「それは重畳」  村長は不気味に笑い、鼻翼を激しく動かした。 「今日は佳き日じゃ。山の風が強くなった。『大天狗』様が、新しい翼を選ばれるかもしれん」 「俺は発つ」  惣次郎は直感した。これ以上ここにいれば発狂する。ここは普通の山村ではない。こいつらは何かによって「引き伸ばされた」怪物だ。 「発つ?」  村長が小首を傾げると、首の骨がパキリと鳴った。 「出られんよ。仰天村に入った時点で、お前の重さは山に記憶された。もし出たいなら……」 「なら、なんだ?」 「十分に軽くならねばな。風に攫われるほど、軽くな」  村長は懐から何かを取り出し、惣次郎の足元へ投げた。  昨日、惣次郎が山林に捨てた具足の破片だった。  だが、その鉄片は異様に変化していた。表面にびっしりと、羽毛のような細かい亀裂が走っていたのだ。まるで金属が羽を生やそうとしているかのように。 「見ろ」村長は羨望の眼差しで鉄片を指した。「鉄でさえ飛びたがっておる。お武家様、お前の骨も、痒くなってはおらんか?」  惣次郎は無意識に背中に手をやった。  肩甲骨のあたり。昨晩から、何か鋭利なものが皮膚を突き破って外へ出ようとしているような、芯を食う痒みがあった。  風が、突如として強まった。  周囲の森から、数万本の扇子が一斉に開かれたような音が響いた。  パァッ!


第二節:骨笛


 逃げろ。逃げるしかない。  井上惣次郎の影が密林を彷徨う。恐怖は見えざる鞭となって彼の足首を打ち続けた。  昼間だというのに、愛宕山の霧は夜よりも濃い。白ではなく、灰色の質感を帯びた青い瘴気だ。  惣次郎は必死に下山しようとした。武士の常識として、水流に沿って下れば山を降りられるはずだ。  しかし、怪事が起きた。  どれだけ渓流に沿って走っても、嘔吐感を催すような「上昇感」が拭えない。水は流れているが、水さえも高所へ流れているような錯覚。谷底へ降りたと思っても、藪を抜けると、なぜかさらに高い断崖に立っている。  ヒュゥゥ――シィィィ――  あの風音がついてくる。いや、正確には誘導している。風は襟元から入り込み、空っぽの胃袋の中で渦を巻き、背中を押して高みへと追いやる。  惣次郎は巨岩の傍らで息を整え、背中を掻きむしった。  痒い。その奇妙な痒みは昨日より劇化していた。虫刺されではない。骨の中に歯が生え、内側から肩甲骨の裏側を齧っているようだ。彼は粗末な麻衣越しに背中を樹皮に擦りつけ、体を打ち付けた。


「軽い……」  木に体をぶつけた時、彼は気づいてしまった。  水を吸った衣服を着て、刀を差しているのに、体が異常に軽い。  先程の跳躍も、二メートル近い溝を造作もなく飛び越えていた。  その軽やかさは喜びではなく、底知れぬ恐慌をもたらした。村長の言葉が蘇る。 『十分に軽くならねばな。風に攫われるほど、軽くな』


 その時、前方の林から、布が裂けるような音が聞こえた。  惣次郎は刀を構え、巨大な羊歯(シダ)をかき分けた。  眼前の光景に息を呑み、瞳孔が収縮する。  開けた林間の空地に、太い麻縄が結ばれていた。縄の一端は巨岩に、もう一端は垂直に空へ伸び、ピンと張っている。  その縄の先、地上三メートルほどの空中に、女が結び付けられていた。  村人と同じ麻衣を着た女だ。縄は足首に結ばれている。  彼女は水素を充填された人形風船のように、頭を上に、足を下にして浮遊していた。  四肢は不自然に伸びきり、関節の留め具が外れたように力なく風に揺れている。  最も恐ろしいのは皮膚だ。半透明だった。灰白色の皮膚を通して、下の血管と……無数の穴が開いた骨が透けて見える。骨は緻密な白ではなく、蜂の巣のように黒い気孔だらけになっていた。  風が彼女の体を通り抜け、低い呻きのような音を奏でる。  彼女自身が、風に奏でられる「骨笛」と化していた。


「助け……助けて……」  女が気づいた。見下ろす瞳は涙で溢れているが、口元は痴呆のような笑みを浮かべている。 「吊るされているのか?」  惣次郎は震える声で問うた。吊るす支点など空にはないのに。 「違う……掴まって……いられないの……」  女の声は頼りない。 「気持ちいい……風が呼んでる……でも村長が、まだ脱皮が完全じゃないって……飛んだら砕けるって……」 「降ろして……お願い、縄を引いて……」  惣次郎は躊躇したが、近づいた。助けを求める者を無視できない武士の本能だ。  彼は張った麻縄を掴み、女を地上へ引き戻そうとした。  掌に伝わる張力に、頭皮が粟立つ。凄まじい力だ。人間の体重が生む浮力ではない。雲の上から巨大な何かが彼女を引っ張り上げているようだ。 「捕まってろ!」  惣次郎は唸り声を上げ、全身全霊で引き下げた。  女の体が地面に近づく。彼女は手を伸ばし、草を掴もうとした。  指先が泥に触れた瞬間――  パキリ。  枯れ枝が折れるような乾いた音。  下降速度が速すぎたのか、地面に触れた指が折れたのだ。  血は出ない。断面から白い気体が噴き出した。骨に圧縮されていた風だ。 「あアアア! 私の気が! 気が漏れる!」  女は激痛ではなく、パニックで絶叫した。残った手で必死に折れた指を押さえる。パンクしたタイヤを塞ぐように。 「そんなことより、早く降りろ!」  惣次郎が肩を掴もうとする。 「いや! 触らないで! 潰れちゃう! 私たちは純粋じゃなきゃ! 空っぽじゃなきゃ!」  女は狂乱し、縄が結ばれた岩を思い切り蹴った。  その反動と、悲鳴に驚いた惣次郎の手が緩んだ瞬間。  ヒュンッ――  彼女は砲弾のように空へ射出された。麻縄が直線的な残像を描く。  直後、鈍い衝突音。  彼女は上空の樹冠層に激突した。だが落ちてこない。何かに吸着されたように、二十メートルの高さの枝に張り付き、四肢を広げて葉と共に激しく震えている。  風音が強まる。女はもう喋らない。ただ風と一体化し、あの鋭い哨音(ホイッスル)の一部となった。


 惣次郎は腰を抜かし、吐き気を催した。  これは病ではない。「進化」だ。  ここの住人は、肉体を嵐の中で生存できる容器に変えているのだ。重い血肉を捨て、骨をパイプオルガンに変え、いわゆる「大天狗」を待っている。  ここにいてはならない。出口を見つけねば。  彼は立ち上がり、冷静さを取り戻そうとした。風の向きを読む。風が上へ吹くなら、逆らえば源流か出口に着くはずだ。  彼は逆風を突き、急勾配を登った。  どれほど登ったか。樹木が疎らになり、奇岩が現れた。岩は風化して穴だらけになり、風が通過するたびに軍勢の咆哮のような音を立てる。  岩林の果てに、一つの建築物が聳えていた。  古びた寺、あるいは神社だ。断崖に張り出すように建てられ、異常に長い柱で支えられている。「懸造り(かけづくり)」だが、清水寺より遥かに険しい。扁額は腐りかけ、「愛宕」の文字だけが読める。  惣次郎は入りたくなかったが、門前に旗が立っていた。泥に塗れたボロボロの旗だが、風に靡いた瞬間、家紋が見えた。  木瓜紋(もっこうもん)。  織田家の家紋だ。 「なぜここに織田の拠点が?」  本能寺の変の後、織田勢は散り散りのはずだ。残党が潜んでいるのか? 明智の家臣である自分が踏み込めば殺される。だが外にいれば、風に皮膚を剥がされる気がした。  彼は覚悟を決め、軋む扉を押し開けた。


 堂内は恐ろしいほど空っぽだった。仏像も供物台もない。床板の大半は外され、底なしの断崖が覗いている。隙間から風が吹き上げ、惣次郎の衣を煽る。  本堂の最奥、断崖の縁に、一人の男が座っていた。  背を向け、黒い南蛮胴具足を纏い、猩々緋(しょうじょうひ)の陣羽織を羽織っている。座っていても分かる、異様な巨躯。  男の前には碁盤があった。 「来たか」  その声が響いた瞬間、惣次郎の心臓は氷の手で握り潰されたようだった。  覇道、傲慢、そして金属的な空洞感を伴う声。  聞き間違えるはずがない。戦場で遠くから聞いたことのある咆哮。  魔王の声だ。 「お……織田……信長公?」  震える手から刀が滑り落ちそうになる。  馬鹿な。明智様は言った。本能寺は紅蓮の炎に包まれ、信長の遺体は見つからなかったが、生きているはずがないと。  影は振り返らず、碁石を一つ打った。パチリ。 「光秀のうつけめ。火ごときで風が殺せるとでも思ったか?」  男がゆっくりと振り返った。  焦げた顔か、悪鬼の相を想像していた。だが違った。  顔は無傷だった。鋭利な五感、刃のような髭。鷹のような眼光。  だが、何かがおかしい。決定的に。  具足の前が開いていた。本来、胸部と腹部があるべき場所に、皮膚も筋肉も内臓もなかった。  空洞だった。  雷に打たれて中身が消し飛んだ古木のように。  信長の上半身は鉄のように硬い「外殻」だけを残し、中は深淵のような黒い虚無が渦巻いている。  その巨大な空洞の中に、惣次郎は見た――雲を。  信長の体内に、雲層が漂い、嵐が醸成されている。彼の体は血肉ではなく、別の空へ通じる窓となっていた。 「見よ」信長は空っぽの胸を指し、口角を吊り上げた。「余は全ての『重荷』を下ろした。天下布武? 重すぎるわ。今や余こそが、この愛宕の風よ」


 彼が立ち上がると、南蛮具足がカチャリと鳴ったが、足音は幽霊のように無かった。 「貴様、光秀の兵だな?」  虚ろな目が惣次郎を射抜く。 「桔梗の臭いがするわ。まあよい、ここに来れば皆、鳥の種よ」  一歩、近づいてくる。 「申してみよ。貴様も感じておろう? 背中の翼が、出たがっているのを」  背中の痒みが頂点に達した。肩甲骨の下で何かが筋肉を突き破ろうとしている。 「いやだ……俺は……」  惣次郎は後ずさりし、背中が門柱に当たった。 「抗うな」  信長が両腕を広げると、胸の空洞から雷鳴のような音が轟いた。 「骨の中の血を干せ。風を住まわせろ。それこそが……下天(げてん)の夢よ」  その時、信長の胸の空洞から、黒い毛に覆われた巨大な爪がぬっと伸びた。信長の手ではない。体内の「空」から這い出てきたナニカだ。 「捕らえよ」信長は慈愛を込めて、体内の怪物に命じた。「壊すなよ、素質のある苗床だ」  惣次郎は絶叫し、霧の中へ飛び出した。  外が万丈の深淵であっても、胸に空を飼う魔王よりはマシだ。  だが、飛び出した瞬間、絶望した。  下山する道はない。  寺の門前は、二つの峰を繋ぐ巨大な注連縄に繋がっていた。  彼は今、その綱の端に立っていた。


第三節:風骨の鳴動


 足元は奈落、背後は虚空を抱く魔王。  井上惣次郎は峰を跨ぐ注連縄の前で、筋肉の痙攣を止められずにいた。  縄は大人二人が抱えるほどの太さがあり、枯れた稲藁で編まれている。だが目を凝らすと、藁の間に異物が混じっていた――黒い長髪、動物の乾いた腱、そして鉤爪のように曲がったミイラ化した指。それらが必死に絡み合い、絶望的な強度を保っている。 「どうした? 渡れぬか?」  背後から信長の金属的な声が響く。喉からではない、胸の空洞が気流を震わせて発する轟音だ。 「行かぬなら留まれ。余の胸中の嵐の一部となれ」  信長が一歩踏み出す。胸から伸びた黒い巨爪が地面を削り、岩を豆腐のように切り裂いた。  選択の余地はない。  惣次郎は歯を食いしばり、注連縄に足をかけた。  柔らかい。それが第一印象だった。硬く締まった縄ではなく、腐肉のような弾力がある。踏むと僅かに沈み込み、死体の山を歩くような不快感があった。


 風が唸る。  ここの風は垂直に吹き上げている。谷底の空気が巨大な力で吸い上げられ、見えない壁となって惣次郎を打ち据える。  バランスを崩しそうになるが、恐怖の本質はそこではなかった。  落ちるのが怖いのではない。  彼は全身全霊で屈み込み、縄の表面の髪や藁にしがみつかなければならなかった。「浮いてしまう」のを防ぐために。  体が軽すぎる。内臓を抜かれた蝉の抜け殻のように。 『それでよい……』  風に乗って信長の声が届く。 『重さを捨てよ。恐怖は重い。仁愛も、忠義も重い……全て奈落へ捨て置け』  惣次郎は醜い蜘蛛のように這った。後ろも下も見られない。  三分の一ほど進んだ時、背中の痒みが限界を超えた。  血も、激痛もない。  古紙が破れるような、ビリッという乾いた音だけがした。  背中の衣が裂けた。二本の何かが、肩甲骨から突き出した。  恐る恐る触れる。冷たく、硬く、素焼きの陶器のようにザラついている。  翼ではない。  二本の骨管(こつかん)だった。  奇形化した珊瑚か、葉のない枯れ枝のように、肉を割って空へ突き出している。中空で、不規則な穴が無数に開いている。  ブォォォ――  強烈な気流が骨管を通り抜けた。  惣次郎の体は楽器になった。骨管が共鳴し、凄惨で鋭く、どこか物悲しい旋律を奏で始める。人間の出せる音ではない。谷の木霊、怨霊の哭き声、墓石の隙間風。 『あ……ああ……』  叫ぼうとしたが、声が出ない。声帯が萎縮し、全ての「声」は背中の骨管から風となって奏でられていた。  彼は生きた骨笛となった。  振動が脊髄を伝い、荒唐無稽な快感が走る。音が鳴るたび、体はさらに軽くなり、手を離して風になりたいという衝動が強まる。  手を離せば風になれる。苦痛もない。大天狗様のもとへ行ける。  思考がカビのように増殖し、指が縄を離そうとしたその時――


「まだ早い!」  鋭い声が縄の下から響いた。  ハッとして下を見る。  注連縄の真下に、人がぶら下がっていた。逆関節の足で縄にぶら下がる蝙蝠のような姿。  村長だ。  だが、もはや人の形を留めていない。鼻は消失し、顔の半分を占める巨大な黒い穴が開いている。眼球は鳥のように側面へ飛び出し、下顎は脱落して、ストローのような長い舌だけが風に揺れていた。 『今のままじゃ……飛んだら砕ける……』  村長の声が、昆虫の羽音のようなテレパシーとして脳に響く。 『骨が乾いてない……肉が多すぎる……お前は極上の素材だ……無駄にはせん……』  村長は枯れ木のような手を伸ばし、惣次郎の足首を掴んだ。 「入れ! まだ上がる時じゃない!」  凄まじい力で引きずり込まれる。奈落へではない。  村長は惣次郎を、注連縄の「内部」へ引きずり込もうとしていた。藁が解けた隙間、漆黒の穴へ。 『隠れろ……信長公の「風」が来る……あれに吹かれたら消滅するぞ……』  有無を言わさず、惣次郎は縄の中へ押し込まれた。死人の髪と乾燥した腱に包まれ、腐敗と乾燥の入り混じった狭い空間に閉じ込められる。


 入った瞬間だった。  外の世界が一変した。風音が止み、完全な静寂が訪れた。  直後、轟音。  ドォォォォォン――!!  言葉を絶する圧力が爆発した。  藁の隙間から、惣次郎は魂が凍る光景を見た。  崖上の信長の胸が裂けた。いや、上半身が破裂し、皮が花弁のように開いた。その中から、完全体が現れた。  巨大な黒い風と羽毛の旋風。その中心に、巨大な赤色の面がある。  長い鼻。金色の眼。牙。  天狗だ。  だが家屋ほどもあるその面は、木製ではない。数千の苦悶する人間の顔をパッチワークのように繋ぎ合わせて作られていた。  それが大口を開け、注連縄に向けて息を吐いた。  風ではない。視認できる黒い衝撃波だ。空間さえも歪ませ、霧を引き裂き、巨木を粉塵に変える。  黒風が縄を直撃した。  縄の中で、惣次郎は石臼に放り込まれたようだった。縄全体が激震し、断裂しそうな音を立てる。 『髪を掴め!!』  村長が叫ぶ。惣次郎は手当たり次第に、編み込まれた死者の髪を掴んだ。  十数秒の地獄。  静まった時、惣次郎は外を覗いた。縄の表面の藁は完全に吹き飛び、灰白色の芯が露出していた。そして先程まで空中に浮遊しようとしていた羽虫のようなモノたちは、跡形もなく消え失せていた。 『あれは……なんだ?』  惣次郎は意識で問うた。  村長は闇の中で逆さまになり、巨大な鼻孔を震わせていた。 『あれは「業風(ごうふう)」。第六天魔王が消化しきれなかった憤怒じゃ』  ストローのような舌が惣次郎の顔に近づく。 『聞け、新入り。生きて完全な「天狗」になりたければ、この縄の果てへ行け。そこは「巣」じゃ』 『何がある?』 『「水」がある。雨水じゃない。骨に残った最後の重さを洗い流す「神水」じゃ。それを飲めば隠れる必要はない。本当の意味で……空を見られる』  惣次郎は絶望した。背中の骨管を触る。もう戻れない。進まなければ粉々になるか、村長のような化け物になるかだ。 「案内しろ」  惣次郎の声は氷のように冷たかった。 『ヒヒヒ……良いぞ。道はこの縄の腹の中じゃ。這っていくぞ』  狭く、暗く、死人のパーツで満たされたトンネルを、二匹の非生物が這い始めた。  背後では、虚空に浮かぶ巨大な赤面が、揺れる細い糸を静かに見つめていた。


第四節:中空の巣


 巨縄の中を這うのは、正気を削り取る拷問だった。  闇の中、村長の光る眼だけが揺れる。埃と乾物屋のような塩辛い臭い。手膝が擦れる音が反響する。  やがて手触りが変わった。藁ではなく、少し柔らかく、生温かいもの。 『踏むなよ……それは路盤じゃ』  惣次郎が目を凝らすと、掌の下にあるのは顔だった。  藁と縄に埋め込まれた人の顔。体は縄と同化し、皮膚は枯草色になり、筋肉繊維が編み込まれている。顔だけが辛うじて残り、目は閉じ、口は半開きだ。 『重い……重すぎる……』  顔が動き、不明瞭な譫言(うわごと)を漏らす。  惣次郎が手を引っ込めると、壁も天井も、そんな顔で埋め尽くされていた。  この縄は、無数の失敗した「飛昇者」を詰め物にして編まれていたのだ。 『内臓を捨てきれんかったのさ』村長が冷ややかに言う。『心に父母妻子の未練、腹に功名心。重すぎて飛べず、重石(バラスト)になるしかない。おかげで縄は切れんがな』  惣次郎は胃が痙攣するのを感じた。吐くものはない。失敗すれば自分もこの消化管の一部になる。


『急げ……出口じゃ』  不規則な光斑が見え、風音が低いパイプオルガンのような重低音に変わった。  縄を抜け出た先は、絶景にして地獄だった。  垂直の断崖から横向きに生える森。  すべての木が白い。骨質化した枯れ木だ。葉はなく、枝は蒼白な腕のように虚空へ伸びている。  その枝先に、無数の「繭(まゆ)」がぶら下がっていた。  灰白色の皮袋。赤子サイズから大人サイズまで千差万別。風に揺れ、パタパタと音を立てる。 「『巣』へようこそ」  村長は壁面に張り付き、空気を貪った。 「聞け、美しき合奏を」  ヒュゥゥ――ブォォ――  繭には無数の穴が開いており、風が通るたびに赤子の泣き声や老婆の溜息、武士の怒号のような音を奏でていた。 「これは……人間か?」 「かつてはな。今は孵化を待つ『楽器』じゃ」  二人は岩壁の窪みへ降りた。  そこには水溜まりがあった。透明で、不純物が一切ない水。風が吹いても波紋一つ立たない、凝固したガラスのような水。 「『神水』じゃ」  村長の目が狂気を帯び、舌が暴れる。 「飲め。お前の全ての『重さ』を洗い流してくれる」 「重さを……洗う?」 「そうだ。肉も血も内臓も、風には不要な湿った重りじゃ」  村長は這いつくばり、舌を水に差し込んだ。  ゴク……ゴク……  恐怖の変化が起きた。村長の腹部が、内部から溶解し始めた。背中の皮膚が透け、胃や腸、肝臓が黒い霧となって消滅していく。消化ではなく、対消滅。黒煙は毛穴から排出され、風に散った。  十数回の呼吸の後、村長は空っぽになった。  皮と骨だけの「皮袋」。  立ち上がった村長は、紙のように軽かった。風に吹かれ、足が浮く。 「あぁ……」  その声は空洞からの反響音のように空虚で壮大だった。 「軽い……苦痛も飢えもない……」  村長は破れた衣を開いた。肋骨の一本一本に無数の穴が開き、風が胸郭を素通りして笛の音を奏でている。 「さあ飲め、新入り。俺の骨はもう風で満たされた」  惣次郎が後ずさると、背中が枯れ木に当たった。揺れた枝から繭が一つ落ちた。  パシャ。  割れた繭から転がり出たのは、天狗の幼体ではない。  乾ききった人間の抜け殻だった。恐怖に歪んだ表情のまま固まり、口を大きく開けているが、中は空だ。  これが「孵化」の真実。成仏でも神化でもない。人間を発音可能な空洞へと加工する残酷な刑場。  誰のために? 魔王のために。 「嫌だ……俺は……」  惣次郎は首を振ったが、刀は山のように重く感じられた。 「馬鹿め」宙に浮く村長が憐れむ。「戻れると思うか? 自分の手を見ろ」  惣次郎の指先は透明になり、紙のように繊維化していた。ここの空気自体が重さを腐食しているのだ。 「飲め。自ら捨てる方が、剥がされるより楽だぞ」  村長が迫る。 「それに、飲まねばお前は『実(じつ)』すぎる。じきに来る『赤風』にすり潰されるぞ」  遠くの空が裂傷のような赤に染まった。  巨大な天狗の面が赤い雲層に浮かび、血涙を流している。  ブゥゥォォォォォン――  巣中の繭が一斉に震えた。 「最大の風が来る!」村長が狂喜の声を上げる。  惣次郎は迫り来る赤い嵐と、足元の虚無のような水を見た。背中の骨管が激痛を発している。  人としての重みか、怪物としての空虚か。  彼は刀を捨てた。刀は地面に落ちた瞬間、硝子のように砕け散った。「鉄」がここの理に拒絶されたのだ。  惣次郎は跪き、震える手で神水を掬った。  掌の中の水は、存在しないかのように軽かった。  彼は目を閉じ、その虚無を飲み込んだ。


第五節:無心の反響


 水に味はなかった。冬の風を丸呑みしたようだった。  氷の虚無は喉を滑り落ちたが、胃には落ちなかった。「飲み込んだ」と感じた瞬間、胃袋が存在しなくなっていたからだ。  痛みはない。空虚な痺れだけがある。  腹部を見下ろすと、半透明になった皮膚を通して、内臓が黒い微粒子となって崩壊するのが見えた。乾いた墨が水に溶けるように、肝臓も腸も霧散した。  ゲフッ――  吐き出したのは酸臭ではなく黒煙。人としての最後の残滓。  体内は完全に空洞化した。灰色の脊椎と枯れ枝のような肋骨だけが支柱として残る。  風がへそから入り、胸腔で渦を巻き、背中の骨管から噴き出す。  通った。完全に通気した。  発狂しそうな重さが消え、惣次郎が跳ぼうと念じただけで、体は綿毛のように浮き上がった。 「ヘヘ……ヘヘヘ……」  自分の笑い声が割れた壺を叩く音のように響く。恐怖も内臓と共に消え、病的な軽やかさが支配した。


 赤風が到達した。  ブルドーザーのような赤い暴風の壁が「巣」を蹂躙した。繭は紙吹雪のように巻き上げられる。以前なら引き裂かれていたが、今の惣次郎は紙であり、羽であり、煙だ。  彼は抵抗せず、四肢を広げた。  フワッ――!  飛んだ。台風に巻かれたゴミ袋のように、螺旋を描いて上昇する。  視界が回る。枯れ木も注連縄も、抜け殻になった村長も、小さくなっていく。  風音は轟音ではなく、無数の「喉」の絶叫だった。赤い嵐の中には、無数の空虚な物体が漂っていた。鎧武者、平民、馬、家屋の残骸。すべて中身のない皮だ。馬は皮だけで四肢をバタつかせ、太鼓のような音を立てている。  これが信長の軍勢。空洞の亡霊軍団。


 高度が上がり、愛宕山の全貌が見えた時、魂が凍結した。  あれは山ではない。  連なる山脈の輪郭は、天を仰ぐ巨大な「顔」だった。  枯れ木の森は髭、注連縄は皺、二つの主峰は両眼。  天狗の顔だ。山肌の植生が、その爛れた赤い皮膚を構成している。 『我らは……神の顔の上にいたのか……』  風が彼を眉間の位置へ運ぶ。そこには巨大な赤い渦、異界への入り口がある。  中心に近づくにつれ回転が増し、遠心力で皮膚が剥がれそうになる。  吸い込まれる直前、風が止まった。  絶対静止。  台風の目に入ったのだ。  直径百丈ほどの円形空間。周囲は赤い暴風の壁が回転しているが、中心は針の落ちる音さえ聞こえそうだ。  その中心に、巨大な岩が浮遊していた。  岩の上に、一人の男が座っていた。  淡い青の狩衣(かりぎぬ)を着て、立烏帽子を被り、背を向けている。周囲には折れた矢と槍が突き刺さっている。  ここの空気は恐ろしく重かった。外の無重力とは対照的に、十倍の重力がのしかかる。惣次郎の空っぽの体が押し潰されそうになる。 「誰だ……」  男がゆっくりと振り返った。  歴史の認識が崩壊した。  清涼で蒼白、そして無尽の哀しみを湛えた顔。眉間の殿上眉、お歯黒。  明智光秀だ。  だが彼は空洞ではない。「中身」が詰まっていた。  無数の微細な風刃が彼を打ち据え、皮膚が裂け、鮮紅色の「本物の血」が流れ出ている。  滴る血は水銀や鉛のように重く、岩を穿つような音を立てた。 「また一人来たか」  光秀の声は枯れ果てていた。 「重さから逃げ、風の奴隷になり下がったか」 「明智……様? 生きて……おられたのですか?」 「生きる?」光秀は自嘲した。蒼白く重たい手を差し出す。「愛宕では死こそ軽く、生こそ重い。私は死ねない。重すぎるからだ」  光秀は胸を指した。空洞はない。劇的に脈打つ心臓がある。  ドクン! ドクン!  鐘を突くような心音。 「信長公は全てを風に変えた。重さも阻害もない、飛翔だけの世界『下天』を作ろうとしている。だが私は飛べない。私はこの嵐の唯一の『錨(いかり)』なのだ」 「錨?」 「下を見ろ」  浮遊岩の下には、無数の鎖が連なり、雲を貫いて地上へ伸びていた。 「私がここに座り、風を抑え込まねば……この赤風は日本全土へ拡散する」  光秀は血塗れの手を見た。 「私は裏切り、本能寺を起こした。罰として、彼は私の『心』を残し、この凡人の重さで永劫に風の目を鎮圧させているのだ」 「奴はどこに?」 「遍在している。彼こそがこの風だ」  光秀が惣次郎を凝視した。 「水を飲んだな? 空洞の怪物め。だが……目にはまだ光がある」  光秀が立ち上がると、空間が震え、重圧が増した。 「戻りたいか? それとも死んだ皮膚となって漂い続けるか?」 「俺は……」存在消失の恐怖が蘇る。「戻れるのですか?」 「戻れる」  光秀は懐から何かを取り出した。黒く干からびた果実のような、あるいは縮こまった赤子のような心臓。 「『重力の果実』だ。私の無尽の悔恨が凝縮したものだ。これを食えば重さが戻る。墜落し、粉々に砕け散るだろう。だが人間として死ねる」 「あるいは……」  光秀は頭上の唯一の出口、一条の白光を指差した。 「これを持って飛び上がれ。嵐の頂点へ行き、これを『天狗』の鼻の穴へ詰めろ。そうすれば風は止まる」  惣次郎は呆然とした。 「なぜ俺なんです?」 「私は重すぎて飛べない。お前は今、丁度いい軽さだ。空洞の浮力と、人間としての理性の残滓がある」  その時、周囲の風壁が収縮し、赤い霧でできた巨大な信長の顔が嗤った。 『光秀……我が小鳥よ……新しい翼に裏切りを唆すか?』  雷霆のような声。風の巨手が四方から迫る。  光秀は黒い「果実」を惣次郎の手に押し付けた。 「行け!!!」  光秀は腰の太刀を抜いた。刀身には桔梗色の青い炎が燃えている。  彼は悲壮な咆哮を上げ、巨手の群れへ突撃し、その重たい肉体で、惣次郎のために天への活路を抉じ開けた。  惣次郎は重い果実を握りしめた。光秀の心、その重みに墜落しかける。  だが背中の骨管が轟鳴した。  ブォォォォォ――!  それは悲鳴であり、戦歌だった。惣次郎は風に乗り、逆流する弾丸となって白光へ突入した。


第六節:肉の回廊


 光秀が切り開いた生路は、過酷な上昇だった。  井上惣次郎は相反する二つの力に引き裂かれそうだった。体は水素を充填されたように虚空へ昇りたがっているが、右手の「重力の果実」は山のように重く、彼を奈落へ引きずり落とそうとする。  右腕の関節が悲鳴を上げ、皮膚は鋼線のように張り詰めた。 『あアアアア……』  声なき絶叫が肋骨を揺らす。  上昇は飛翔ではなく、本能に逆らう拷問だった。  やがて風音が轟音から、規則的な低周波振動へ変わった。  フゥゥ――ンンン――フゥゥ――ンンン――  白光を抜けた先は、湿った闇の巨大な空洞だった。  空気は粘り、太古の巨獣の体内にいるような生臭さがある。  壁は岩ではなく、灰白色の半透明な軟骨。巨大な軟骨のリングが無限に上へと続いている。表面は濃い粘液に覆われ、滴るたびに気流の渦を作る。  ここは天狗の鼻腔だ。  ブォォォォ――  凄まじい「呼気」が上方から吹き下ろす。単なる風ではなく、呼吸だ。  惣次郎はヤモリのように軟骨壁に張り付き、粘液に爪を立てた。右手の心臓がアンカーの役割を果たしてくれた。 「上へ……」  光秀の言葉に従い、彼は這い登った。  壁には大樹のような太さの繊毛が生え、海藻のように揺れている。触れれば異物として排除される。彼は倒刺(かえし)のついた繊毛を慎重に避けた。


 やがて空間が開け、大聖堂のような溶洞に出た。咽頭への入り口だ。下方は魔王の胃袋へ続く深淵。上方に、青白い光を放つ狭い孔がある。脳、すなわち制御中枢への道だ。  惣次郎がそこへ飛ぼうとした時。  グチャッ。  湿った蠕動音が闇から響いた。  道を塞ぐものがある。  巨大で黒く、濡れた肉塊。腐った臓器が絡まり合ったような塊が、黒い泡を吹いて蠢いている。人臭い悪臭。  惣次郎は空中で停止した。背中の骨管が恐怖で震える。  知っている。あの肉塊は、彼自身だ。  神水を飲んだ時、排出された彼の肝臓、胃腸、そして凡人としての恐怖と生存本能。それらが集合し、巨大なポリープ(息肉)と化していたのだ。 『いや……来ないで……』  肉塊から、かつての惣次郎の声がした。弱く、情けない声。 『痛いよ……重いよ……なんで僕らを捨てたんだ……』  肉塊が無数の粘着質な触手を伸ばしてきた。骨のない、ブヨブヨとした腕が惣次郎を掴もうとする。 『戻ってきて……体に戻ろう……人間になろう……』  攻撃ではない。「抱擁」だ。だが今の彼には、剣よりも恐ろしい。あの湿った重い内臓に包まれれば、軽さは消え、再び深淵へ落ちて砕け散る。  滑る触手が足首に絡みついた。湿冷たい重さが伝わる。 『あ!』  惣次郎はもがくが、さらに多くの触手が絡みつく。口へ、骨管へ、空っぽの体を埋めようと侵入してくる。 『嫌だ……せっかく……』  意識が霞む。腐肉に溶かされる。  その時、右手に激痛が走った。  光秀の心臓。硬く、冷たく、重いそれが、力強く脈打った。  ドクン!  意識が覚醒する。  目の前の醜い肉塊――あれは、ただ逃げ惑うだけの臆病な井上惣次郎だ。 『俺は……もう俺じゃない』  空っぽの体に、風ではない意志の力が満ちた。  彼は右手を振り上げた。責任と悔恨の塊を。 『そんなに重さが欲しいなら……』  彼は黒い心臓を、蠢く腐肉へ叩きつけた。 『これでも食らえ!!』  ジュウウゥゥッ――!  高潔な重さが、卑小な腐肉に触れた瞬間、焼き鏝(ごて)を豚脂に押し当てたような反応が起きた。  肉塊は絶叫し、痙攣し、崩壊した。本物の「重さ」に耐えきれず、黒い膿となって深淵へ滴り落ちていく。  道は開いた。  惣次郎は消えゆく「過去」を振り返らず、骨管から最強の気流を噴射し、青白い孔へ突入した。


第七節:天魔の扇


 青い孔を抜けると、水膜を潜ったように音が消えた。  静寂。幾何学的な潔癖さに満ちた球形空間。  内壁には無数の金色の風車が張り付き、静止した目玉のように中心を見つめている。  その虚空の中心に、あるものが浮遊していた。  扇だ。  百メートルはある巨大な羽団扇(はうちわ)。扇面は薄い雲母(マイカ)の薄片で構成され、一枚一枚に木瓜紋が刻まれている。柄は巨大な脊椎骨だ。  誰の手にも握られていない。  それは極めて緩慢に「扇いで」いた。  ブォン……  一振りごとに空間が折り畳まれ、波動が下方へ伝わり、あの破壊的な赤風となる。  これこそが源流。死者を空洞にし、生者を怪物に変えるストーム・エンジン。 『美しいだろう?』  声は扇自体から発せられた。雲母が反転し、信長の巨大な顔を形成した。赤い霧の時より荘厳で、仏のような慈悲さえ感じる。 『宗次郎、我が小鳥よ。よくここまで飛んできた』  信長は、蟻を見下ろすような超越的な笑みを浮かべた。 『光秀のうつけめ、あんな重い心で余を止められると思ったか。「空」の力の前では無力。見ろ、ここに来るために、お前もあの心を捨てたではないか』  確かに、惣次郎は今や完全な空洞だ。内臓も血も、借り物の重さもない。 『何がお望みだ』  惣次郎は思考で問うた。 『静止だよ』  信長の答えは意外だった。 『世人は余が征服と殺戮を好むと思う。誤解だ。余は飽いたのだ』  扇がまた一振り。ブォン…… 『重いものに飽きた。裏切り、忠義、絆という名の鎖に。だから風になった。風は思考せず、ただ流れる』  扇の顔が狂熱に歪む。 『全人類を、お前のような空洞にする。心がなければ痛くない。内臓がなければ飢えない。皆で楽器となり、この「下天」で永遠の音楽を奏でる。極楽ではないか?』  惣次郎は透明な手を見た。痛くない。悲しくない。確かに楽だ。このまま扇の傍らの微風になれば、解脱できるかもしれない。  だが……。  光秀の血塗れの手が脳裏をよぎる。風眼に釘付けにされた姿。「仰天村」という煉獄。  この極楽は、生の剥奪の上に成り立っている。 『俺は小鳥じゃない』  惣次郎は顔を上げた。目のない眼窩に鬼火が燃える。 『俺は井上惣次郎。侍だ』  彼は扇へ突進した。 『愚かな』  扇が加速した。猛烈な斥力(せきりょく)が襲う。風ではなく、純粋な拒絶。  惣次郎の肋骨が折れ、皮膚が裂けそうになる。普通の物体なら吹き飛んでいる。  だが彼は笛だ。  斥力は彼の空洞を通り抜けた。  キィィィィィィ――!!  高周波の鳴動。音があまりに高く、扇の波動を一瞬乱した。  その隙に、彼は斥力の逆流に釘のように食い込んだ。  柄に近づく。脊椎骨の柄は、黒い穴の台座に繋がっている。  風はあの穴、虚空から汲み上げられている。扇は穴を広げるポンプだ。止めるには穴を塞ぐしかない。  だが穴の周囲には鋭利な風刃が渦巻く。実体あるものは粉砕される。極限まで「軽く」「空虚」なものしか、砕かれる前に潜り込めない。  今の惣次郎こそ、世界で最も完璧な「栓」だ。 『何をする気だ!?』  信長が動揺した。 『やめろ! 入れば意識は虚空に拡散し、「空」ですらなくなり「無」になるぞ!!』 『ちょうどいい』  惣次郎は黒い穴の真上に来た。底なしの虚無に、安らぎさえ覚える。  心がないから恐怖はない。肉がないから痛みはない。残るは「井上惣次郎」という形だけ。 『御免』  彼は扇に向かい、存在しない刀で一礼した。  四肢を畳み、一本の「楔(くさび)」となる。  骨管から最後の一息を噴射した。  シュッ!  彼は黒い穴へ飛び込んだ。  その瞬間、時間が止まった。  扇が空中で硬直し、信長の顔が無音の悲鳴を上げて砕け散った。  続いて、穴から音がした。  ポン。  ワインのコルク栓をしたような、軽くて鈍い音。  隙間なく、完全に嵌った。  惣次郎の体は、虚空と現世の隙間に完璧に適合した。  風が断ち切られた。  浮力を失った空の軍勢は墜落し、扇は力を失って垂れ下がった。  井上惣次郎の意識は、穴の向こう側の無限の虚空に飲み込まれ、消滅した。


第八節(最終章):枯葉の雨


 井上惣次郎という楔が打たれた瞬間、世界は残酷な一秒を迎えた。  重力の回帰だ。  愛宕山を覆っていた赤い嵐は、電源を切られた幻影のように消失した。  続いて降ったのは、おぞましい「枯葉の雨」だった。  上空数千メートルに浮遊していた「抜け殻の軍勢」――内臓を抜かれた武士、民、馬――が、一斉に垂直落下したのだ。  パラパラ……カシャ……カシャ……  血肉の音ではない。乾いた卵の殻を踏み砕くような音。  織田信長の無敵艦隊は、愛宕の岩木に触れた瞬間、塵となって霧散した。


 風眼の中心で、明智光秀は落下を始めた。  彼は抵抗しなかった。空を見上げ、降り注ぐ灰白色の破片を見る。かつての同僚、主君、敵。今は皆、等しく脆いゴミだ。 「風が止んだか……」  光秀の白塗りの顔に、人間らしい安堵の笑みが浮かんだ。  もう重くある必要はない。 「大儀であった、名もなき鳥よ」  光秀は目を閉じた。巨岩と共に、彼は天狗の咽頭であった深淵へと墜ちていった。  地鳴りは一晩続いた。  天狗の眼であった主峰は崩れ、注連縄は千切れ、仰向けの大顔はただの瓦礫の山へと戻った。


 天正十年、秋。  本能寺の変から三ヶ月。羽柴秀吉が覇権を握りつつあった。  僧・天海(てんかい)率いる捜索隊が、愛宕山の深部へ登った。「織田信長の遺骨」を探すために。  山頂に死体はなかった。あったのは、膝まで積もる灰白色の粉末だった。  歩くたびにサクサクと音がし、松脂の匂いが舞う。 「これは……何ですか?」  若い足軽が震えて尋ねた。灰の中に、鳥の爪のような長い爪のかけらを見つけたからだ。 「雪でも灰でもない」  天海は合掌した。 「これは『欲望』の燃え滓じゃ」  彼らはさらに、無数の壊れた扇子を見つけた。すべての扇骨がへし折られていた。  山頂の巨岩の前で、彼らは足を止めた。  かつて洞窟の入り口だった場所は、崩落した岩で塞がれていた。  その隙間から、奇妙なものが生えていた。  木ではない。二本の骨管だ。  岩の継ぎ目から頑強に突き出し、三尺ほどの長さで石化し、枯れ枝のように見える。  山頂は強風が吹いていた。だが奇妙なことに、その骨管の周囲だけ空気が死んだように静止していた。  天海は岩に耳を当てた。足軽も真似た。 「聞こえるか?」  最初は無音。だが耳が慣れると、聞こえてきた。  風音ではない。極めて高い、鋭く、微かな笛の音。  キィィィ――――  旋律ではない。終わりのない、全力の絶叫。  地底の「栓」から漏れ出る音だ。 「踏ん張っておる」天海は涙を流した。「一瞬も緩めず、踏ん張っておるのじゃ」 「誰がです?」 「虚空と綱引きをしている男じゃ」  天海は石化した骨管に深々と頭を下げた。 「行こう。信長公の骨はない。ここにあるのは『守護』という名の墓碑だけだ」


 数百年後。現代。  愛宕神社の裏山で遭難した登山客グループが救助された。  彼らは巨岩の周りで錯乱していた。一人は病院で、精神崩壊の縁にありながら、譫言を繰り返した。 「抜かないでくれ……」  医師が何をだと問うと、彼は充血した目で叫んだ。 「あの栓を……骨の生えた栓を……震えてるんだ……もう限界なんだ……聞こえたんだよ……彼が泣いてるのが……『重い』って……『重い』よぉぉぉ!!!」


 愛宕山の深淵、幾重もの岩盤の下。  井上惣次郎という名の空っぽの楔は、今も現実と虚空の狭間に嵌り込んでいる。  意識はとうに摩耗し、消滅した。  残った執念だけが、永遠の姿勢を保っている。  絶対に、手は離さない。  背後の闇には、あの巨大な雲母の扇が浮遊し、一ミクロンの隙間を、再び世界を飲み込む赤風を巻き起こす好機を、虎視眈々と待っているのだから。


 キィィィ――――


 聞こえるだろうか。  あれは風が喉を締め上げられる悲鳴。  そして一人の男が、人間として存在した最後の残響である。


(「アレックス都市伝説シリーズ」第二章:愛宕山の赤き風 完)


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カクヨム投稿用情報

キャッチコピー(35文字以内) 人の肉を捨て、空(くう)となれ。信長が化した「風」に抗う、ある武士の凄絶な変異譚。


紹介文(あらすじ) 本能寺の変の後、敗走した明智軍の雑兵・井上惣次郎は、丹波の愛宕山へ逃げ込んだ。 そこで彼が見たのは、首を異常に伸ばして空を仰ぐ村人たちと、自らの体を「骨笛」に変えて風に乗ろうとする狂気だった。 山全体が巨大な天狗の顔と化す中、惣次郎は胸に虚空を飼う「第六天魔王」織田信長と対峙する。 重力を捨てた世界で、人として残るための最後の戦いが始まる。


タグ(推奨) 和風ホラー 戦国時代 織田信長 明智光秀 身体変異 伝奇 バッドエンド 愛宕山

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アレックス都市伝説シリーズ 第二章:愛宕山の赤き風 迦兰多(Jialanduo) @Alexsayst

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