第1話
電車から降りて大都会へと足を踏み入れる。
ここまでこれた達成感と安堵で胸がいっぱいになる。
「よし...えっと...たしか赤いタワーが...あれ?」
いくら周りを見渡せど目印にしようと思っていた赤いタワーが見つからない。
駅を歩く人々はみな無表情で、サナの事なんて気にも止めない。
人波に流されるように知らない道へと進んでいく。
やがて人の波から解放されたサナの目の前に現れたのは大きな病院。
「ここ...○○病院だ...検索すればここがどこかわかるかも!」
スマホの検索欄に病院の名前を打ち込み検索をかける。
映し出される事実に愕然とし目から大粒の涙が溢れ出す。
現在地から親戚の家まではかなり距離がある、バスで使うはずだったお金も無駄な電車の乗り換えで使い果たしてしまった。
「ど...どうしよう...パパ...ママ...」
電信柱の影で泣いていると一人の老婆が尋ねてくる。
「どうしたんじゃ?」
「ふぇぇ.....?」
恐る恐る顔を見上げると優しそうなおばあさんが腰の曲がった背で杖を突きながら話しかけてくる。
「迷子かい?」
溢れる涙を手でぬぐいながらお婆さんの問いかけに対し縦に首を振った。
「そうかい....一緒に歩くかい?」
お婆さんと手を繋ぎ見知らぬ街中を歩く、少しするとお婆さんは地面に落とし物を見つけたのかしゃがみこみ拾い上げる。
「可哀想に...一緒に届けてあげようかね...」
ぽつりと呟くと再び歩みを進める。
「もう少ししたら交番があるから、そこでいいかい?」
お婆さんの言葉を頷いて肯定する。
歩いていると地面をきょろきょろと見渡しながら歩く男性とすれ違う。
「そこのお方...探し物かい?」
肩で呼吸をした男性は慌てながら探し物の詳細について述べる。
「それはこれじゃな、すぐそこに落ちておったで...これから交番に届けようとお持っとった所じゃったよ」
「あっそれです...‼本当にありがとうごさいます‼」
お婆さんから落とし物を拾った男性と初めて目が合う。
「あぁそうかい、ほらお迎えだよ....お父さんをあまり心配させちゃいかんよ...」
彼と手を繋ぐ、恐怖で助けての声が出てこない。
助けてよお婆さん...この人は...お父さんじゃない...よ...。
手を振るお婆さんに必死に助けを求めるが、お婆さんは優しく笑うだけだった。
お婆さんが見えなくなった後、紗菜は彼の手を振り払った。
「あの...すみません...ごめんなさい...わたし ...親戚の家にいかないといけなくて...」
プルプルと震えながらしゃがみこみ、涙で滲む彼を見上げる。
だが、しゃがみこんだのは悪手だったのか紗菜は彼に抱えられ車内へと吸い込まれていった。
車内の狭い空間に閉じ込められると身体の震えが一層激しくなった。
シートベルトの金具が冷たく腰に触れる感触さえも鋭敏に感じ取れほどだ。
車のエンジンが低く響く中、彼の手が小刻みに震えているのに気付き思わず息を詰めた。
窓越しに流れる街並みの光が彼のぼやけた顔を断続的に照らし出しては消える。
「あの....ど、どこへ行くんで...すか...?」
勇気を振り絞って出した声はか細く、喉の奥で微かに震える。
こっそりと鞄の中のスマートフォンの画面を見るとバッテリー残量は赤色を示し残りが少ない事を教えてくれる。
もう誰にも連絡できないかもしれない現実が胸の奥で重くのしかかる。
彼の指先がわずかに動いた瞬間身体がビクッと跳ね上がりそうになり慌てて両手で口を押えた、心臓の鼓動が耳元から聞こえる...。
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