異世界征夷大将軍 〜異世界に転生したら上様だったので、市中の平和のためにちょっと無双してみる〜
金澤流都
1 転生したら上様だった件
赤い手綱をつけた美しい白馬に乗って、浜辺を駆ける夢を見て、僕ははっと目を覚ました。
見たことのない場所だ。いったいここはどこだろう。そう思った瞬間にさまざまなことが一気に頭の中に流れ込んできた。
そうだ、僕はトラックにはねられて、この世界にやってきたんだ。どこまでもテンプレなweb小説じゃないか。そして僕はこの世界に於いて王の次に、あるいはそれ以上に強力な権力を持つ「征夷大将軍」で……おいおい待て待て、征夷大将軍ってなんだ。異世界に将軍家があってたまるか。
「気付かれましたか、上様!」
うわっなにごとだ。顔を上げると鼻穴の大きい男性が僕を見て涙していた。
その人のことはなにも知らないのに、「……シャブロー・ノースランド防火団長か」と僕の口から言葉が出た。
「上様、貧乏貴族の扮装で城下を歩きたいなどと無体なことをおっしゃいますから、王都名物の喧嘩に巻き込まれて……ここは防火団の詰所の医務室です。おっと、団員が来た。ここからは貧乏貴族の三男であるということにします」
「お、おう……」
演歌でも歌ったら素晴らしかろうなという調子のシャブロー団長に、小さく頷いてみせる。
「あーやっと目を覚ましましたね、若様!」
「ああ、すまんすまん……」
若い防火団員たちが、僕の寝ているベッドのぐるりを囲んで、なにやらいろいろと言ってくる。
「どうされます? お屋敷までお送りしましょうか?」
「屋敷に帰ったとて貧乏貴族の三男坊だ。もうちょっと市中の様子を見たい」
「かしこまり〜!」
というわけで、ベッドから起きてサイドテーブルに置いてあった剣を腰にさげる。こうして、僕の異世界征夷大将軍人生が始まったのだった。
◇◇◇◇
「この菓子屋の娘は美人で評判で、娼婦の絵を描くのが禁止になってから絵描きがひっきりなしに訪れているそうですよ!」
「そうなのか。主人、景気はどうだ」
そんな、異世界に浮世絵みたいな話があってたまるか。だいいちそれは徳川吉宗公の時代よりずいぶんあとの話じゃないのか。
そしてこの王都はかつての名前をイェドといい、最初はただの荒地だったところに将軍家の始祖が街を築き王を招いたらしい。いやそれは江戸なんである。なんなら東京なんである。
菓子屋の主人は恵比寿顔で、「うちの娘のおかげで、たんまり銭を貯めましてね。屋根の修繕ができます」と答えた。なにやらせんべいともクッキーともつかぬ菓子を焼いている。いや、醤油の匂いのタレを塗ってるからせんべいだな。異世界に醤油があるとは思わなかった。
「しかし最近市中では、若い娘をかどわかして娼館に売り払う冒険者くずれの悪党がいると噂で。防火団のみなさんや騎士団のみなさんが見回りを強化しているそうですが、その首魁はまだ捕まっておらず」
「そうなのか。それはさぞかし不安であろう」
手渡された菓子を齧る。あ、味は完全にステラおばさんのクッキーだわ。そう思うと菓子屋の主人がシュレックに見えてくる。いや醤油、どこに行ったの。
「ええ。うちの娘はあっしに似ないで美人ですから。おいおまえ、本当のクリムの父親はだれだ」
どうやら娘はクリムと言うらしかった。菓子屋の主人はそう言って横のおかみさんを小突いた。奥さんはばちんと菓子屋の主人のハゲ頭をひっぱたく。
「バカなこというんじゃないよ。あたしに似たから美人なのさ」
そうでしょうな。おかみさんはなかなかの美人だ。
「肝心のクリムさんは」
「きょうは友達と観劇に行きましたよ。今はやりの、貴族の家の女中が貴族の若君と恋に落ちて心中するとかいう荒唐無稽なやつ」
おかみさんはため息混じりにそう答えた。
そうなのか。それは残念だ。クッキーをモグモグしていると、なにやら雑踏の向こうで絹を引き裂くような悲鳴が上がった。
「助けて! 助けてお父さんお母さん!」
「な、なにごとだ!?」
悲鳴のしたほうを見ると、ものすごい美人のお嬢さんを、いかにも小悪党といった連中が担ぎ上げて、さらっていこうとするのが目に入った。
「市中での乱暴狼藉、捨ておけん」
僕はかっこいいことを言いつつも恐る恐る剣を抜いた。それを見た小悪党たちは表情に凶悪なものを浮かべた。(つづく)
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異世界征夷大将軍 〜異世界に転生したら上様だったので、市中の平和のためにちょっと無双してみる〜 金澤流都 @kanezya
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