【短編】彼女のスマイルをもう一度……

左腕サザン

第1話 スマイルください

 僕の名前は佐藤佳祐さとうけいすけ

 どこにでもいる普通の大学生一年生だ。

 僕は訳あって、毎日21時にこのハンバーガー屋に通っている。その訳というのは……。


「いらっしゃいませ」


 そう、このハンバーガー屋の新人バイト、片倉かたくらさんにスマイルをオーダーするためだ。

 接客中も掃除中も、常に無表情で目つきが鋭い彼女なのだが、僕は一度だけ彼女のスマイルを見たことがある。

 それは、今から1週間ほど前のこと。


***


 バイト終わりの夜、同じ大学の友達と久しぶりにハンバーガー屋に寄った僕は、そこで初めて片倉さんに出会った。

 片倉さんは女子高生2人組の接客をしていたが、その表情は硬く、終始無表情であり、その鋭い目つきには僅かに恐怖さえ覚えるほどだった。

 ようやく2人が注文を終えたかと思えば、2人は最後にこんなことを口にした。


「あ、あと〜、スマイルお願いしま〜す!」

「スマイルお持ち帰りで〜!」


 あまりジロジロと見るものではないのだろうが、スマイルを注文するという物珍しさに、僕はつい気になってしまい、スマホをいじるフリをして片倉さんの顔に注目した。

 しかし、片倉さんはスマイルをすることもなければ声を発することもせず、無表情のままじっとしていた。


「あれれ? 店員さん?」

「変なこと注文するから店員さん固まっちゃったじゃん!」


 すると、片倉さんの口角が吊り上がり、キリッとした鋭い目つきが僅かに垂れ下がった。


「……ご注文は以上で宜しいでしょうか?」


 その時片倉さんが見せたのは、笑顔に慣れていないせいか、変に表情筋に力を入れすぎたようなぎこちないスマイル。


「あ、えっと、はい……」

「な、なんかすいません……」

「お会計960円になります」


 女子高生2人はお代を払うと、まるで片倉さんから逃げるようにその場を後にした。

 しかし、僕の目には、彼女のスマイルがとても魅力的に映った。

 普段無表情な人の笑顔は、こんなにも魅力的なものなのかと、動揺して頬が赤くなる。


「なぁ佳祐」

「……ん?」


 その時、友達が震えるような声で話しかけてきた。


「隣空いたからさ、俺隣で注文してくるわ……!」

「え、うん……」


 なぜか友達までもが、隣のレジに逃げ込むように注文しに行ってしまった。

 確かに普通のスマイルではないかもしれないけれど、みんなそんなに怖がるものかと、僕は不思議に思った。


***


 あれから、彼女のスマイルが僕の頭から離れなくなってしまったせいで、来月にあるテストの勉強に全く集中できなくなってしまった。

 しかし、もう一度だけ彼女のスマイルを見れば、この未練も断ち切れる気がする……。

 そこで、ここ1週間何度もスマイルを注文しようとしたのだが、彼女を前にすると緊張してしまい、あえなく失敗に終わってしまっていた。

 だからこそ、今日はしっかりと片倉さんにスマイルを注文してみせるんだ!

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2026年1月16日 17:03
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