手と手の間の間に合わせ

エリー.ファー

手と手の間の間に合わせ

 ショーダウンだ。

 闇がやって来る。

 寂しさと共に夜がやって来る。

 私には、私の世界があり。

 私以外にとっては、私以外の世界がある。

 さて。

 私はギャンブルを終えた。

 勝った。

 おそらく、ほとんどの人が見たこともないほどの額を稼ぎ出した。

 たった一晩で、だ。

 一生、遊んで暮らせるだろう。

 この手のおかげだ。

 この指先のおかげだ。

 いや。

 指先は手に付いているものだし、手の定義の中に指先も入っているはずだ。

 つまるところ。

 感謝すべきは手。

 そう、この手のおかげで私は儲けることができた。

 もちろん。

 イカサマをしたのだ。

 それ故に。

 こうしてカジノの地下で拷問され、今から手を切断されようとしている。

 調子に乗り過ぎた。

 死ぬことはないだろうが、勝負の場に出ることはできなくなるだろう。

 呆気なかった。

 何もかも、失う。

 この瞬間のために生きていたのではないか、と思えた。

 逃げ切れると思っていた。

 おそらく、イカサマをする全ての人間が、そう思っていることだろう。

 可哀そうに、そういうものだ。


 今のは、自分に向かって言ったのだ。

 別に、誰か他の人に向かって偉そうに思ったわけではない。

 まぁ、そんな言い訳はいい。


 とにかく、私はこれから私の人生の宝を失う。

 時間をかけて覚えた技術をすべて失い、私の人生の価値は地に堕ちる。

「最後に何か言いたいことはあるか」

 私は話しかけられたことにさえ気づかなかった。

 ただ、音は聞こえた。

 それが自分に向かっていることも分かった。

 けれど、音を浴びせられたくらいにしか感じられなかったのだ。

 まるで。

 死人である。

 この手を失う未来と共に心が既に心中していたのである。

「おい、最後に何か言いたいことはあるか」

「そう、そうですね。まず、その、お喋りをさせて下さい」

「手がなくても、できるだろ」

「いえ、そういうことではありません。手に聞かせてあげたい話が幾つかあるのです」

「手に耳はないぞ」

「ありますよ。気づいていないだけで」

「まぁ、最後だからな。何の話がしたい。どんなことについて語り合いたい」

「金のことです」

「金だと」

「この手のために金をかけ、この手で金を稼ぎました。そして、この手を育てるための金が、まだ山のようにあります」

「だから、何だ」

「どんな手でも、訓練のための時間と金さえかければ稼げる手にできます」

「何が言いたい」

「お前の手も稼げる手になります」

 しばしの沈黙が流れる。

「いいですか、私に時間を下さい。もちろん、私の手を潰してくれて構いません。でも、その後、私の屋敷に来てください。そこに金があります。そして、訓練するための器具もあります。本当です、嘘ではありません。私は、そうやって稼げる手を完成させてきたのです」

「俺に協力をしろ、と言ってるのか」

「いつまでもいつまでも、こんな薄汚いカジノの用心棒がいいのですか。まぁ、それも人生ですが、冷静になって下さい。人生は一度きりです。ここで勝負をしましょう」

「しかし」

「カジノは血飛沫を浴びて仕事をする場所ではありません。チップを浴びて遊ぶ場所です」

「俺にもできるのか」

「遊びましょう」

「仕事だから、お前の指は潰すぞ。俺も雇われている身だ。死にたくない」

「もちろんですよ」

 カジノの地下は薄暗い。

 しかし。

 品の良い香りがする時もある。

 香水が本当に必要なのは、カジノの地下だけなのだ。

「お前の手には、耳があるんだろ。潰す前に話を聞かせてやれて良かったな」

 手が、もうすぐ潰れる。

「えぇ。私の手には耳も口も付いています。強いて言うなら、古い手を潰すことだってお手のものです」

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