LOVELESS

お肉にはワサビ

第0話

“全ては愛情だと言って それなら生きていける”

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 早老症って知ってる?

 とってもせっかちさんのこと。

 じゃあ、老症は?

 とってものんびりさんのこと。

 知らないかな?

 知らないよね。

 みんな知らない、僕のこと。

 でも、僕はたしかにここにいるよ。


 自分で呼吸をしたとき。

 保育器から出たとき。

 はじめてつかまり立ちをしたとき。

 おむつがとれて、二本の足であるいたとき。

 永久歯が生えそろったとき。

 ぼくはいったいいくつだったんだろう。

 体はすこしおおきくなったけど、骨は細くて、からだの毛も薄いまま。

 だけどね、女の子じゃないよ。

 僕のからだが知ってるんだ。僕はなんだってこと。


 赤ちゃんはコウノトリが運んでくるなんてうそ。

 どうやったらできるのか、男の子の僕はちゃんと知ってるよ。

 泳いできた男の子をゴールラインで待つ女の子。

 ゴールできるのはなんだって兄さんが言ってた。

 命がけのママ、代わってあげられないパパ。

 だからね、奇跡はかんたんにはおきちゃいけないんだ。

 だからね奇跡がおきないように、男の子は気をつけなきゃいけないんだって。

 泳ぐところを間違えちゃいけない。ゴールをまちがっちゃだめなんだ。女の子がどこで待ってるか、ゴールテープを持ってるか、まちがえないようにしなくちゃね。


 でもね、僕は気づいちゃったよ。

 男の子どうしなら、奇跡はおきっこないよね。

 だからね。フラれちゃったら、ここにきて。

 フラれなくても、きていいよ。

 僕がゴールテープを持っててあげるから、いっしょに泳いでゴールしようよ。

 僕は男の子、だけど

 それがいいって、父さんが言ったんだもの。

 それでいいって、兄さんが言ったんだもの。

 

 僕はしってるよ。

 一年は三百六十五日あって、四つの季節がめぐること。

 僕が迎えるのは十九回めの冬。

 数えたことはないけれど、兄さんが言うからそうなんだ。

 

 無事にうまれてきた僕は奇跡。

 こんなからだでも、僕は奇跡。

 父さんはそう言って泣いた。

 そう言って兄さんは、笑った。


 僕は僕のことをしってるんだ。

 はじめて話したことばをおぼえてる。

 はじめて覚えたことばをしってるよ。

 “とうさん”、僕のだいじなひと。

 “にいさん”、僕のいとしいひと。


 僕は家族がだいすき。

 だから、いけない事なんてなんにもないんだ。

 違うところで泳がされても。

 ゴールテープを引き裂かれても。

 ラインを踏み躙って消されても。

 男の子が女の子になって、女の子が男の子になっても。

 僕が、僕のしらない僕になっても。

 へいきだよ。

 あなたが僕を僕でいさせてくれるから、ううん。

 あなたがそこにいるなら、“僕”なんかなくていい。

 このからだは、あなたの“物”でしょう?


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