1-3-3.四月十四日
結局、ここから一番近くて、それなりに
等間隔に並ぶ薄暗い街灯と、それ以上の明るさを感じる月光に照らされた広場のベンチ。わたしはその一つに腰かけて、カズキくんを隣に座らせる。
「ここは……?」
「駅の近くの公園。だいぶ酔ってるみたいだし、もう少し休んでいきなよ」
「ありがとう、ございます。……すみません」
そう言いながら、隣に座るカズキくんはわたしの肩に力なく頭を乗せてくる。わたしはさっきと同じように、彼の頭を膝の上に降ろした。今度は仰向けに寝かせて、持ってきていたいつものカーディガンを掛けてあげた。
「謝らなくていいんだよ。合コン、初めてだった? 正直、あんまり向いてないと思うよ?」
「俺も、そう思います。大学に入ったら、彼女できたらいいなぁって、漠然と思ってて。合コンで彼女作ろうぜって先輩に声かけられて、ちょっと舞い上がっちゃってたんだと思います」
夜風に当たって少し酔いが覚めてきたのか、思いのほか冷静に答えてくれる。きっと後で思い返して、今日のことは黒歴史だと思っちゃうのね。でもそんな忘れたい記憶も、お姉さんに優しくしてもらった記憶として上塗りしてあげる。そうすれば、思い返しても恥ずかしい思いはしないと思うから。
「彼女、欲しいの? わたしは彼氏って、あんまりいらないけどなぁ。どっちかって言えば、仲のいい男友達の方が欲しいかな」
「それ、彼氏とは違うんですか?」
「そりゃあ、違うよ。だって彼氏として特別扱いしてあげなくてもいいんだから、面倒くさくなくていいじゃない? 過剰に求められても、それに返してあげる義理もないし。楽しい時間だけを共有していたい。わたしは一人の時間も好きだから、適度な距離感っていうのかな、そういう関係がいいなと思ってるんだ」
そんなだから、付き合ったって長く続かないんだ。今まで最長でどのくらいだったかな。一ヶ月持ったことあったっけ。まあ大抵は、わたしを受け入れられなくて、みんな離れていっちゃうんだけど。
そんなわたしの話に、彼は興味深そうに相槌を打っていた。この考えを理解してくれるのだろうか。
「確かに……よく考えれば、俺も彼女が欲しい理由はパッと浮かばないです。ただ何となく、恋人がいない人生は寂しいっていう先入観で、求めていただけかも」
「まあ、周りはとやかく言ってくる人もいるしね。それに、わたしがおかしいだけで、恋人が欲しいのは正常なことだよ。男の子なんだし、えっちなことにも興味あるでしょ?」
「それは……まあ、そうなんですが……。でもたぶん、興味しかないんです。知らないから、知りたいっていうだけで。知ってしまったら、どうでもよくなってしまいそうで……。スキンシップも確かに重要かもしれませんが、身体のふれあいだけが、心を繋ぐものとも思えませんし。そういう意味では、シエリさんの言う、仲の良い異性の友達という関係は魅力的かもしれません」
淡々と紡ぐカズキくんは、わたしの方を向くでもなく、今まさに自分自身を理解しようとするように、どこか遠くを見つめながら話してくれた。きっとこれが、彼の本音に近い部分なのは間違いない。
世の中にはそういう男の子もいるんだねぇ。もしかしたら彼となら、わたしの理想とする関係が築けるかもしれない。ほんの少しだけ、そんな期待が生まれ始めていた。
「ねぇ、カズキくんさ。彼女にするなら、やっぱり自分の好みの女の子がいい? それとも、好みの女の子じゃなくても彼女にできるタイプ?」
わたしが突然そんなことを言い出すと、えっと……、とわたしの言葉の意味を探ろうとする。考えすぎてしまうタイプも嫌いではない。むしろ相手の言葉の裏にある部分を汲み取ろうとする姿勢は歓迎できる。でもこれは、純粋に聞いてみただけだ。素直に答えてくれればそれでいい。
「どちらかと言えば、好みの女性の方がいいです。でも、好みでなくても、たとえば俺を好きになってくれた人とか、には、俺の方からも歩み寄りたいなとは思います」
「そっかそっか。じゃあさ、カズキくん――わたしの彼氏にならない?」
「え……? 俺が、ですか? でも、彼氏はいらないって……」
話がまるで見えてこないといったように、目をぱちくりさせている。
今からする話は、とっても
「そう。わたし、彼氏はいらないんだ。だから本当は仲のいい男友達が欲しい。できればカズキくんがそうなったらいいな、と思ってる。でも、わたしも君と同じで、彼氏がいないとなると変な男も寄ってくるし、こうやって合コンにも誘われて付き合わされるしで面倒なことも多いからさ。だから、表向きは恋人ってことで、どう? カズキくんにとっても悪い話じゃないでしょう?」
「じゃあ俺も、表向きにはシエリさんのこと、彼女だって言ってもいいんですか?」
「そうそう、そういうこと。でも、わたしと君は、仲のいい男女の友達。愛だの恋だのっていう重たい関係じゃなくてね。だから別に、浮気したかったらしてもいいんだよ? わたしはそれで怒ったりしない。それとも表向きだとしても、わたしじゃ君の彼女としては不足?」
我ながら狡い質問だ。きっと彼は否定してくれる。そしてこの問いを否定してしまったら、彼はわたしの要求を呑まざるを得なくなる。それをわかっていて、こんな言い方をした。こんな出会い、もうそうそうないだろう。だからここで、わたしは彼を手放すわけにはいかないんだ。
「まさか、そんなわけないですよ。……いや、その、むしろ俺の方が、いいのかなって」
「君がいいんだよ。わたしは一目見た時から、君はどこか、わたしと合いそうな気がしてた。ここまでとは思っていなかったけど。だから、わたしは君がいいの。カズキくんこそ、こんな変な女でいいの? 自分で言うのも何だけど、結構性格悪いと思うよ?」
「性格が悪いっていうより、頭がいいんだろうなって思います。俺よりも頭がいいから、たぶん俺は貴女に敵わない。でもいいんです、それで。シエリさんが色々主張してくれなかったら、きっとこの関係は生まれなかったし、これからも続いていかないと思うから」
この子……思ったよりしっかり考えている。わたしが彼を手のひらに乗せて見ているのに気付いていたなんて。しかも、それを理解してなお、それでいいと言ってくれる人なんて、この世にあとどれくらいいるだろう。
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