1-3-2.四月十四日
適度に料理を突きながら、適当に相槌を打って、耳障りな歌唱を聞いて、グラスを空にする。
場違いだとわかっていても、たまにはこうしてバカになってみるのも悪くない。
「じゃあそろそろ、恒例の席替えタイムと行きますかぁー!」
そして正面にはヒビキ。ヒビキの両隣は梁大の二人か。愛淑は入り口側の一番端っこで、彼女の正面のフミヤくんと仲良く談笑していた。彼はあまり打ち解けられていなかったみたいだったから、彼女なりの配慮だったのかもしれない。
「シエリさんって、休日何して過ごしてるんですか?」
この獰猛なイケメンは、結構ぐいぐい攻めてくる。隣に愛淑もいるというのに、お構いなしに身体ごとこちらに向けて話を振ってくるのだ。
「休日はバイトかな」
嘘である。休日はバイトのシフトを入れていないから、家でゴロゴロしていることが多い。ただ、暇だということを話してしまうとつけ入られるので嘘を吐いた。
「へぇ、バイトしてるんですね。
「まあ、傍から見ればお嬢様学校っぽいもんね」
実際 お嬢様学校ではあるのだが、お金の忖度とかは一切ない、超実力主義のサバイバル校でもある。内部進学組はエスカレーター組じゃなくて修行者とか言われているくらい、入試以上に難解なテストに合格してきている連中だし。
「バイトって、何してるんです?」
「家庭教師だよ。中学生の」
「すごいなぁ、先生ですか。さすが翠泉ですね。えぇー、いいなぁ。俺も中学生の時、こんな美人の先生に教えてもらいたかったですよ」
また一段と甘言が増えてきたなぁ。少しずつ
「っていうかさ、キミさっきから飲んでるそれ、お酒でしょ。一年生なのにいいの?」
「あー……バレました? 先輩が、バレなきゃいいって」
そう言いながら、ユイトくんはぐいっとグラスを空にした。そんな彼をフォローするように、ヒビキが嫌らしく笑う。
「シエリちゃん真面目だなぁ。若いうちから酒に慣らしておいたり、こういう場で自分の限界を知っておくのもありっしょ? シエリちゃんは、普段お酒飲まないの?」
そう言われると弱い。わたしもまだ二十歳前ではあるが、実は一人で
「まあ、そこそこは飲むかな。でもバレないようにしてよ? うちは一応名門校なんだから、バレて停学なんてごめんだからね」
「大丈夫 大丈夫。バレないって」
そう言いながら、ヒビキは隣の美帆ちゃんと、向かいのカズキくんに酒を勧めていた。二人ともまだ二十歳前なのに。
そして隣のユイトくんも、どうぞ、とわたしに酒を注ぐ。これは何の酒だろう。得体の知れないものを飲まされて、潰されるわけにはいかない。
「これは?」
「日本酒ですって。飲んだことあります?」
「わたし、普段梅酒くらいしか飲まないから。ビールとかも、苦くて苦手なんだよね」
無難に梅酒に逃げて、何とかこの場は凌ぐことにした。それでも、量を飲まされると時間の問題だ。……愛淑のやつ、思いの外 面倒なのを連れてきたな。
ふと反対側の隣を見れば、カズキくんがヒビキにお酒を飲まされていた。いい飲みっぷり、まだまだいける、などと囃し立てられて。
先輩であるヒビキの注ぐ酒は断れないし、正面に座る
実際、カズキくんが断れば、ヒビキの飲ませて盛り上げようとする欲求は美帆ちゃんに移るだろうし、賢い選択ではある。
しかし当のカズキくんはテーブルに肘を立てて、今にも崩れそうな身体を支えている。だいぶ瞼を重そうにして、顔色も悪いように見える。もうほとんど限界だろう。
「いいぞ、カズキ! 飲め飲め!」
またグラスにお酒を注がれてしまった。これ以上飲ませたら、本当に急性アルコール中毒で倒れるかもしれない。さすがに見ていられなくて、わたしはカズキくんの手からグラスを奪い取り、一気に飲み干した。
うわ、結構強いな、これ……。空気を悪くしないよう一気飲みしたけれど、調子に乗るとわたしもヤバいかも……。
「ヒュー、やるぅ、シエリちゃん!」
「あ、の……ありがとうございます」
正直、他人のことを気にしている余裕はない。けれど、隙を見せればつけ込まれるから、わたしは涼しい顔でいるよう努めた。
「カズキくん、大丈夫? 水飲みなさい、ほら」
カバンからペットボトルの水を出して、カズキくんに差し出した。どうせ最終的には酒を飲まされることになるだろうと思っていたわたしは、事前にカバンに忍ばせておいたのだ。まさかこんな形で使うことになるとは思わなかったけれど。
「ありがとうございます……」
素直にそれを受け取った彼は少し口を付けたけれど、あまり飲めないようだった。もうほとんど眠ってしまっているように舟を漕ぐ彼がどうにも不憫に思えて、わたしはカズキくんの肩を抱き寄せて、そのまま膝の上に倒した。
「少し横になってなよ。膝使ってくれていいからさ。楽な格好して、寝ちゃっていいからね」
うわごとのように、ありがとうございますと言う彼は、少し体勢を探るように身体を動かして、最終的に、わたしの腹の方を向くようにして落ち着いたらしい。
その子どものように丸まって眠る姿が可愛らしくて、思わず頭をそっと撫でた。
「シエリさん、意外と母性的なんですね。俺、包容力のある女性って、結構好きなんですよね」
「わたしそんな包容力とかないって。普段はこんなお清楚じゃないしね」
「へぇ~、それはそれで興味あるかも」
くそ、終わらないのか、この会話。とりあえず愛想笑いだけ振りまいておくと、ちょうどタイミングよく、ラストオーダーの案内に店員さんがやってくる。
わたしは一杯だけ水をもらって、みんなは二次会の相談をし始めた。
「
「あー……わたしはパス。ごめんね」
「だよねー」
意味深なウィンクを投げながら、愛淑はそっと耳打ちしてきた。
「その子、持って帰っちゃいなよ」
彼女のその言い方は誤解を生みそうだけれど、どうせこの人たちとももう会わないだろうし、どう思われてもいいか。
「じゃあ、そうしようかな。ほら、起きて。帰るよ」
カズキくんの頬をぺちぺちと叩くと、ぱちぱちと眩しさに目を細めながら、彼は目を覚ます。目を
「大丈夫? 気持ち悪くない? 立てそう?」
わたしの問いに、半分寝ながらこくこくと首肯するカズキくん。これはまだダメかもなぁ。まあでも、ユイトくんにわたしを諦めてもらうにはちょうどいい口実か。
自力では歩けるようなので、彼の手を引いて、個室の入り口の前に連れ出した。
「じゃあ、わたしたちはこれで。今日はどうもありがとう。またご縁があったら、誘ってくださいね~」
愛淑たちに見送られながら、わたしはカズキくんを連れてそそくさと店を出た。とりあえず彼らから解放されたはいいけれど、この後のことは何も考えていない。うちに連れていくにしても、ここから歩いていくにはちょっと遠いしなぁ。
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