第6話 魂結
しかしいざ名乗ろうとして、ふと考える。彼女らの文化を、俺はよく知らないのだ。なんとなく、日本とは違う外国なのだとは思う。だとしたら、名前が先だろうか。
しかし日本語が通じる。となると、やはり苗字が先か? これは間違えると、一生誤解されたままになってしまいそうだ。
かと言って、姓は
そんなことを悩んでいると、彼女の方から先に名乗ってくれた。
「シューケット・シュゼット・ミルフィエールですわ。
「あ、それで“シュシュ”なのか!」
“シューケット”と“シュゼット”の頭を取って、深い赤目の女性に“シュシュ”という愛称を付けられているのだろうことに思い至り、勝手に一人合点がいっていた。
司官様から“ミルフィエール様”と呼ばれていたので、やはり後ろが姓なのだろう。司官様の方が立場が下なら、いくら様付けでも名より姓で呼ぶはずだ。
司官様は今も部屋の隅で立たされたままになっているし、立場が下なのだとしても、少し可哀そうになってくる。
「……勘違いしないでいただきたいですが、わたくしと貴方はビジネスパートナー。馴れ馴れしくはしないでくださいまし」
俺もあわよくばシュシュ様と呼ぼうかと思っていたが、ミルフィエール様は大層不服そうでいらっしゃったので、仕方なく諦めることにした。
というか、彼女の発した言葉をよくよく思い返してみれば、今、王女だと名乗らなかったか? 司官様が言っていた、様々な一族があるうちの一つ、その一族の長ということだろう。星姫だから、とかでなく、もっと純粋に地位の高い人だったのか。
「別にいいじゃない、せっかく可愛い愛称を付けてあげたんだから。あ、私はシャルロット・クラフティ。好きに呼んでもらって構わないよ」
そう言うと、深い赤目の女性——シャルロットさんは、愛らしいウインクを投げてよこした。
王族のミルフィエール様を愛称で呼んでいるあたり、彼女も相応の地位にいる者なのだろうか。いや、同じ星姫として、対等な立場での付き合いなのかもしれない。
対照的な二人だと思った。幼い見た目だがあどけなさなんてなく、少し刺々しいくらいのミルフィエール様と、年上のお姉さんのような余裕を常に感じさせ、安易に距離を詰めようとしてくるシャルロットさん。
正直に言えば、どちらも少し苦手ではある。ここまでの美少女でなければ、こんなに苦手意識を持たなかったかもしれない。彼女らのような美しい存在とは不釣り合いな俺。そんな俺がこの二人と同じ作業につくことへの後ろめたさのようなものがあるのだろう。
それでも、上手くやっていかなければ。世界のために。
「俺はカナタ・マツユキです。俺のことも、好きに呼んでください。それで、星姫というのは、お二人だけなんですか?」
他にもいるなら挨拶しておきたいと思ったのだが、なぜかミルフィエール様に溜め息を吐かれてしまう。しかしその視線は俺ではなく、司官様の方へ向いていた。呆れたのは俺にではなく、司官様にだったようだ。
「司官様、ご説明されたのではなくって?」
「星姫や
「謝ることはありませんよ。カナタ、
突然俺に話を振られるので、焦ってもごもごと口籠ってしまった。魂降人形という名称は聞いていないが、先ほど司官様が話してくれた、人形部隊のことだろう。
「え、あ、はい。世界樹の遺跡を探索するための人形部隊……ですか?」
「どうやって生み出されるかは聞きまして?」
そういえば、具体的な製造方法は聞いていなかった。彼女たち星姫と俺とで作るということは聞いていたが。
「いえ、まだです」
「じゃあ、やってみよっか?」
シャルロットさんがそんなことを軽い口調で言い出すと、突然ミルフィエール様が顔を赤くして鋭い声を飛ばした。どうも軽々しくやるようなことではないらしい。
「アイリス! 何を言うんです!?」
「冗談だよ。でも、シュシュだっていずれはしなくちゃならないんだよ? 恥ずかしがってるままじゃいられないよ?」
危険だったり、神聖な行為が必要とかなのかと思いきや、恥ずかしいことらしい。人形の製造方法が余計にわからなくなった。
「魂結はね、私たち星姫とあなたとで、自分の魂をそれぞれ少しずつ切り離して、それを結い合わせるの。そうしてできた新しい魂を人形に定着させれば、自分の意思で動く人形部隊の出来上がりってわけ。そんな難しいことじゃないでしょ?」
簡単に言っているが、とんでもないことだと思う。そもそも魂って目に見えないのに、どうやって切り離したり結い合わせたりするんだろうか。というか、切り離しちゃって大丈夫なものなんだろうか。
「魂を切り離して……結い合わせる。それってそんなに簡単にできるんですか?」
「さあ。私たちも実際にやるのは初めてだから。少なくとも、互いにある程度の信頼関係がないとできないらしいけど。結局はこれも世界樹の聖碑頼りの情報だけど、人形に魂を定着させる実験は現に
そんな実験が成功しているなら、確かにできそうだ。この世界の科学力は、俺の知っている科学とはまた違う進化を遂げているらしい。
どうやらその科学力も、世界樹ありきのものということのようだから、世界樹の遺跡を調べつくせば、俺が帰る術も見つかるかもしれない。そんな希望も湧いてきた。
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