冬の図書館と小さな奇跡

加藤すみれ

第1話

冬の午後、静かな図書館に雪が舞い込んできた。

高校二年生の楓は、放課後の読書が日課だ。人混みや部活の喧騒が苦手で、いつも一人で過ごしていた。

その日も、白い息を吐きながらお気に入りの窓際の席に座り、古い小説を開く。


「……あれ?」


本棚の端に、誰かが落としたノートが見えた。表紙には細い文字で名前が書かれている。

『結城 蒼』


楓は好奇心からノートを手に取り、そっと開いた。そこには、詩や日記のような文章がびっしり書かれていた。読み進めるうちに、蒼の内面の繊細さや孤独が伝わってきた。楓の胸は、不思議な温かさと共に高鳴った。


次の日、楓は意を決して図書館でノートを返そうと待っていた。すると、背の高い少年が現れた。白いマフラーに黒いコート、深い緑の瞳が印象的だ。


「……そのノート、君の?」

「えっ、あ、はい…」

「ありがとう。落としたの気づかなかった」


蒼は少し照れたように微笑み、手を差し出した。楓も小さく微笑み返す。

その瞬間、図書館の静けさの中で、二人の間に小さな何かが生まれた。



日々、楓は蒼に会うことを楽しみにするようになった。

同じ席で読書をしたり、放課後に雪の校庭を歩いたりするだけで、心が落ち着き、温かくなる。蒼もまた、楓の存在に安心を覚え、少しずつ笑顔が増えていった。


ある日、楓は蒼から誘われて、学校近くの小さなカフェへ向かう。

「楓さん、よかったら、僕の詩を読んでほしい」


蒼のノートには、二人のことを思わせる詩が書かれていた。風景や季節の描写の中に、さりげなく楓への想いが綴られている。楓の頬は赤くなり、胸が熱くなる。


「……こんな気持ち、私も同じです」

恥ずかしさに声が震える。蒼はにっこり笑った。


「なら、これからも一緒に、たくさんの季節を感じよう」



その冬、二人は図書館で本を読み、雪の降る道を並んで歩き、少しずつ心を重ねていった。

誰もいない教室で手を繋ぐことも、ふとした瞬間に笑い合うことも、すべてが奇跡のように思えた。


雪がやんだ翌日、窓の外に朝日が差し込む。

楓は蒼の手を握り返し、心の中でそっと誓う。


「これからも、あなたと一緒にいたい」


小さな図書館で始まった恋は、静かに、でも確かに二人の未来を照らし始めた。

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冬の図書館と小さな奇跡 加藤すみれ @kSumire

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