『推しに惚れられて異世界転生したら、二人で王国スローライフ始めました』
神崎りん
第1話「推しとの出会い、そして」
僕の推しは、星宮ひかり。
国民的アイドルグループ「Stella⭐️Prism」の
絶対的エースで、光の加減で銀色にも、金色にも
見えるような不思議な髪と、誰にでも隔てなく
優しく、太陽みたいな笑顔が特徴の誰しもが
認めるトップアイドルだ。
テレビでもネットでも、ひかりはいつも引っ張りだこで見ない日はないぐらい。ファン一人一人の
名前も顔も覚えていて、プロフィールにも
どんな時でも笑顔を絶やさないと書いている。
ライブ映像を見れば、全力で歌って踊っている姿が見られ、観客全員を幸せにしようとしているのがよくわかる。
それが、多くのファンを虜にしてきた
星宮ひかりだ。
そんな彼女を好きになったのは一年前。
なんとなくテレビの音楽番組を見ていたら、
ひかりが「一人でも多くの人を幸せにしたい」
と話していて、胸が熱くなった。
以来、僕は星宮ひかりの立派なファンになった。
ライブやコンサートは毎回欠かさずいくのは
もちろん、CDやblue−ray、写真集も全て持っている。それらを何度も何度も何度も繰り返す、
それが僕が用事のない日の決まったルーティンの一つだった。でも、僕は握手会には行ったことがない。だって、僕みたいなただの一般人が会いに行っても、ひかりは覚えてくれないだろうし、ただ
自分が悲しくなるだけだと思っていたからだ。
そう思っていた。
その日までは。
十一月の上旬の土曜日。俺は渋谷へ訪れていた。
特に用事があったわけではない。ただ時間があって
暇だったので、ぶらぶらしようと思っていただけだ。高校二年生の秋。来年は受験生だ。
受験生になる前の最後の自由な時間って感じがして
いて、受験が終わってもないのに解放的な気分だった。
人混みをかき分けて進むと、前方で何やら
騒ぎになっているのが見えた。
「おい、どけよ!」
「こっちは急いでんの、わかる?」
「目障りなんだよ」
怒鳴り声が聞こえる。見ると、三人組の男が、
道の真ん中を歩いているお爺さんを邪魔扱いしている。お爺さんは杖をつき、買い物袋を持っていた。
どうやら、歩くのが遅くてイライラして八つ当たりをしているらしい。
周りの人たちは皆、見て見ぬ振りをしている。
僕も一瞬、関わらない方がいいんじゃないか、
変に刺激を加えない方がいいんじゃないかと思った。
でも。
(お爺さん、困ってるじゃないか)
僕の足はそう考えるよりも先に動いていた。
「あの、すみません」
僕は三人組の男たちの前に立ち塞がった。
心臓がバックンバックン跳ねる。
正直、怖い。でも、このまま引き下がるのは
もっと怖かった。
「なんだお前?」
「このお爺さん困っているので、もう少し待って
上げてもらえませんですか?」
男たちは舌打ちをし、めんどくさそうに僕を睨んだ。
「チッ、正義ぶって」
「もういいわ、あっち行こうぜ」
幸い、男たちはそれ以上何も関与してこなかった。
僕はホッと息をついて、お爺さんに声を掛けに行く。
「お爺さん、大丈夫でしたか?」
「あぁ、若いのに優しいねぇ。ありがとう」
お爺さんは嬉しそうに微笑んだ。
「いえ、当たり前のことをしたまでなので大丈夫
ですよ。ちなみになんですけど、どちらまで
行かれるのですか?」
「駅の向こう側のバス停まで行きたいんだが.....
色々悪いねぇ」
「全然大丈夫ですよ。僕最近鍛えているので、
筋トレだと思っていただければお茶の子さいさい
です」
僕はお爺さん荷物を持って、ゆっくりと一緒に歩いた。バス停までの距離はあまり遠くない。
その間、お爺さんはいろいろな話をしてくれた。
孫の話、趣味の話、昔の渋谷の話などをしてくれた。僕はその話を聞きながら、なんかこう
温かい気持ちになった。
バス停について、荷物を置くとお爺さんが何度も
頭を下げてくれた。
「本当にありがとう。この御恩は忘れないよ。
君みたいな人がたくさんいてくれれば、
世の中が良くなるのに」
「そんな、僕はたいした人じゃないですよ」
僕は照れくさそうに自分の頭を掻いた。お爺さんを
見送って、さぁ、これから、何しよう!と思っていた時だった。
「ねぇねぇ?」
背後から聞き覚えのある声がした。
いや、聞き覚えがあるなんていう声じゃない。
毎日テレビで、ニュースでCDで、blue−rayで
聞いたことのある美しい声。
まさか。
そんなわけない。
きっと別人だ。
声が似ているだけだ。
僕が振り返ると、そこには
ーー星宮ひかりが立っていた。
帽子を深く被り、サングラスをして顔を隠しているが銀色と金色の髪、そしてあの瞳は隠せない。
僕の推しが目の前にいる。
「えっ.....ほ.....星宮、ひかり、さん?」
僕は信じられない思いで、彼女を見つめた。夢じゃないのかを確認するために自分の頬をつねる。
痛い。やっぱ夢じゃない。
「ふふっ、あぁバレちゃった」
ひかりはすぐにマスクを外し、太陽みたいな笑顔を
僕に見せた。
「あなた、さっきとてもかっこよかったよ」
え。
え?
どういうこと?
僕の頭が追いつかない。トップアイドルが僕に話しかけてる。しかも、さっきのお爺さんを助けている姿も見ていただって?
「え、あの、その、僕のあの姿見ていたんです
か?」
「うん、ごめんね。たまたま通りかかったんだけ
ど、最初は誰か助けてあげないのかな?って
思ってたの。でも、みんな素通りだし、
私もこんな格好だから、騒ぎになると逆に迷惑
かけちゃうから!どうしようかなって迷ってた
の」
ひかりは僕の目をまっすぐ見ている。
「そしたら、あなたがお爺さんを助けてくれた」
その瞳は普段テレビなどで見るような姿とはまた
違う。もっと深くて、温かてーー僕の心臓が今にも
壊れそうな勢いで早鐘が鳴っている。
「あなたみたいな人初めて!ちなみになんだけど怖
かなかったの?」
「もちろん怖かったですよ、めちゃくちゃ」
「でも.....見て見ぬ振りをするのが一番怖いって
思ったので」
「.....そっか、かっこいいね」
ひかりは顔を一度俯いてそれから、顔を上げる。
「ねぇ、あなたの名前教えてもらってもいい?」
「あ、えっと、さ、桜井蓮です」
「蓮くんかぁ、いい名前だね」
ひかりは僕の名前を呼んだ。
星宮ひかりが僕の名前を読んだ。あのトップアイドルの星宮ひかりが.....
「あの、ちなみになんですけど、星宮さんはどうし
てこんなところに.....?」
「オフの日だったからさ、久しぶりに散歩したいな
って。まさかこんな出会いがあるなんて思っても
みなかったよ」
素敵な出会い。
僕のことをそう言ってもらえるなんて。
「あのね、蓮くん。ちょっといい?」
「はい」
ひかりは、少し顔を赤めて、僕に近づく。
「私ずっと思ってたの。アイドルとしてみんなに
笑顔を届けたい、みんなを応援したいって。でも
それってステージ上だけじゃないんだね。困って
いる人がいたら手を差し伸べる。そういう本当の
優しさが大切なんじゃないかって」
ひかりの声は、どこかいつにも変わらず真剣に見える。
「蓮くんはそれを自然にやってて、
とてもかっこよかった」
かっこいい。
トップアイドルにかっこいいって言われた。
僕の顔がどんどん熱くなっていく。
「そ、そんな。星宮さんの方がすごいですよ。毎日
何万人、何十万人、もっと多いかもしれない人を
笑顔にしているんですよ」
「ありがとう、でもね、私も普通の一人の女の子
なんだ」
ひかりは帽子をとった。その髪が、秋の夕日に照らされ、キラキラ輝く。
「だから、あのね。蓮くんにお願いがあるんだけ
ど、私と友達になってくれないかな?」
友達。
星宮ひかりと友達。
トップアイドルと友達。
「え、えっと、もちろんです。でも、いいんです
か?僕みたいな一般人の友達なんて」
「いいも、悪いも私が友達になりたくて言ったです
から」
ひかりは笑った。
「それにさ、蓮くんは『一般人』じゃないよ。
優しくて、強い心を持った素敵な人だもん」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから、僕とひかりはLINEとInstagramを
交換した。
まさか、推しと連絡を交換できるなんて。人生捨てたもんじゃないな。
家に帰ってからも、ずっと夢を見続けているかのように夢心地だった。スマホを見ると、ひかりから
LINEのメッセージが送られていた。
「今日はありがとうね😊また今度遊ぼう!」
俺は、今日何度も何度もこのメッセージを見返した。
その日から僕は、ひかりと毎日連絡を取るようになった。
最初は他愛もない話。好きな動物とか。最近ハマっていることとか。でも、時間が経つにつれ、
だんだんと深い話もするようになった。
ひかりはトップアイドルとしてプレッシャーの上で
いつも笑顔でいなければならないことの辛さを教えてくれた。僕はそんな自分の本音を正直に語らうことが嬉しくて、彼女を一生守りたいと思った。
そして、僕も気づいていた。
これはもうファンとしての恋ではない。
一人の男として、一人の女性として、ひかりが好きになったということを。
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出会いから約3週間後。
僕とひかりは、夜の公園で会うことになった。人目につかない場所でゆっくり話したいって、ひかりが言ったんだ。
公園のベンチに座って夜空を見上げると、夜空には満開の星がズラーっと並んでいて、美しかった。
「ねぇ、蓮くん。」
ひかりが僕の方を向く。
「私ね、蓮くんと出会えて本当に良かったと思う」
「僕もです。毎日ひかりさんと話せてとても楽しい
です」
「.....あのね、」
ひかりは、少し顔を俯いた。その横顔が、月に照らされて、とても綺麗だった。
「私ね、蓮くんのことが好き。」
その瞬間、時が止まったような気がした。
「最初はね、優しさに惹かれたと思っていたんだけ
ど、蓮くんと話していくうちに蓮くんのことを
もっーーーと知りたくなっちゃって。一緒に
いたいなぁって思ったりもしちゃったし」
ひかりは、僕の目を見る。
「これって、恋ってやつだよね?」
その言葉に僕のハートはひかりに射抜かれてしまった。
「ひかりさん.....」
「ごめんね、急に変なこと話し始めて、忘れて」
「変じゃないです!」
僕はひかりの手を強く握る。
「僕もひかりさんのことが好きです。最初は推しと
して好きだったけど、今は違います。今は、
一人の女性として、ひかりさんが本気で好き
です」
ひかりの目から涙が溢れ落ちる。
「ほんとうに.....?」
「本当です。なので、僕と付き合ってください」
僕は、勇気を出して人生で初めて告白をした。
ひかりは涙を溢して、笑顔で頷く。
「うん!私も蓮くんと付き合いたい。
よろしくね」
僕たちは、手を握ったまま、笑い合う。
ひかりが僕の顔をじっと見つめる。月明かりに照らされた彼女の瞳は、キラキラとしていて全てを
吸い込むようだった。
「初めて会った時から思っていたんだけどさ、
蓮くんって、本当に優しそうな目をしている
よね」
そう言って、ひかりは僕に少しずつ体を近づけていく。
ドキドキしすぎて、僕の心臓の音が耳から聞こえてくる。
「ひかり、さん.....」
「だめ、もう『さん』つけないで呼んで」
「ひかり.....」
僕がそう呼ぶと、ひかりがすごく嬉しそうに
目をキラキラと輝かせる。
「うん、ありがとう、その呼び方好き」
月の光が僕たちを囲んで、祝福しているかのように感じる。
僕たちは再び手を握り合う。
星宮ひかりが僕の彼女になった。
こんな奇跡が本当に起きるなんて。
僕は、この幸せが永遠に続けばいいのにって
心から思った。
でも、僕たちの運命は、まったく別の方向へ進もうとしていた。
それを知るのはまだまだ先だった。
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