*手*権

花野井あす


 拍手をする、十字架を切る、両手を組む、右手で掴む――人間たちの様々なしぐさに、神はふと思った。

 

 ちょっと試してみようと。

 

 手を象るDNAはパーミッションが755の特権ユーザーにしかいじくり回せないが、拍手をする、十字架を切る、両手を組む、右手で掴むといったしぐさはパーミッションが777の一般ユーザーがいくらでも好き勝手変更し得る。

 つまり、手のDNAに変更を加えるときには企画書を作成ののち申請フォームから特権権限付与申請を申し出て、使徒の課長クラスの一次承認と部長クラスの二次承認、さらには神の最終承認を得なければならない。そもそも企画書がウケなければ一次承認すらおりず、手にロケットランチャーを付けるだけなのだとしても何世代にも渡る申請⇒差し戻し⇒申請⇒差し戻し……を繰り返さねばならない。

 人間の指は気分で五本から六本にならないが、二拝二拍手一拝が一拍手一拝に集約されることはわりと高頻度であるのはこのためだ。

 

 だがもし、この一般ユーザーで出来たことを特権ユーザーでしか出来なくなったとすれば。


 つまり、神へ決まったフォームで特権申請をしてからでなければ二拝二拍手一拝が一拍手一拝にも三々七さんさんなな拍手二十一拝にも出来ないのだとしたら。

 そこでまず神は神の智識データベースを検索してみることとした。神の智識データベースとは、世界を世界たらしめる情報の根本、世界の雛形イデアが収納された倉庫である。

 そしていま、神はこう検索する。


 SELECT

  A.concept_name

 FROM

  table_all A

 JOIN

  table_body B

  ON A.concept_name LIKE '%' || B.name || '%'

 WHERE

  B.type = '手';

 

 これはSQLという神の智識データベース操作言語である(人間の世界にもそっくりなものがあるが、それは気のせいである)。そして上記は、すべての概念のなかから、「手」という意味の文字を含む概念を提示せよ、という意味である。

 むろん、そこには日本語も英語もない。それがhandハンドだろうとMainマンだろうとРукаルカだろうとソンだろうとมือムーだろうとỌwọオウォだろうと እጅ エッジだろうとヒットし、何千何万では済まない数がヒットする。


 人間たちのいる世界であればタイムアウトだのパフォーマンスだのと指摘されるようなデータの抽出方法だが、神において時間軸は自由自在。データに振った番号を対象にしてスピードアップをしてみようなどと試さなくとも都合よく全量表示される。が、それでも件数を表示せよ、にすべきだったか、と考えてしまうほどの量だ。

 だが些末なことだ。神はただ、暇なのだ。よってヒットした概念のうちのひとつを選択し、神は面白半分で人間たちへ命じた。


「今度から、孫の手になんらかの改変を加える際には、課長と部長と、それからわたしの許可を得るように」


 手始めに、影響範囲の狭そうな孫の手で試すこととしたのである。

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*手*権 花野井あす @asu_hana

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