シャーロック;ホームズ

返歌

シャーロック;ホームズ

「すべての人間の人生が有意味であると証明せよ。」

これが人類最後の未解決問題であると、それは訊ねた。

―― でなければ、なんであるというのか。

僕は考えるのが恐かった。

――。

「でっっっきたー!!!」

ハンドメガホンを携えた一人の研究者が、部屋中に声を響かせる。

その宣言は、空間に歓声と溜息が交差する混沌を生んだ。

およそ不可能とされていた大規模AI計画は、本日未明、ついに臨界点を超えた。

数千人のクリエイターを幽閉し、基礎AIとの無限にも等しいブレインストーミング。

報酬はロマン。

対価は時間≠寿命。

果てに、それは自らを『シャーロック・ホームズ』と名乗った。

恥知らずの機械風情が、人類最高の問題解決能力を自認した。

作家の偏重か、あるいは……。

発表は来週、祝祭は明日。清掃員として雇われていた僕は、結局のところ祝祭準備の取り締まりを行っている。

何故なら誰も、ゴミの分別方法を知らないからだ。

プラスチックと生ごみを混ぜる画家。

メタファーで分別するパティシエ。

ゴミを増やし続ける陶芸家。

僕はそんな異世界を横目に、施設内の戸締りと、電気設備のチェックを進める。

そして、僕はひとつの部屋へと辿り着く。

知っていて、この部屋を通り過ぎる道筋を選んだ。

自称、シャーロック・ホームズが眠る部屋。

およそ二年間を凝縮した、世界中の碩学の結晶。

青白い光は、意図せず僕を導いた。

フロアに沈む白い冷気が、立ち止まることを許さない。

巨大な冷却塔が進む道を照らす。その最奥で、淡い青の光を放つ端末が僕を見た。

『シャーロック;ホームズの密室へようこそ』

青白い液晶に映し出された真っ白な文字は遷ろう。

そうして、それは僕に問いかけた。落ち着き払った、どこか聞き覚えのある声で――。

「すべての人間の人生が有意味であると証明せよ。」

彼は言う。

「論理の迷宮は閉ざされた。」

人類最後の密室事件であると言わんばかりに、それは青白い光で僕を見た。

密室―― けれど扉は開かれている。気が向けば、すぐにでもこの場から立ち去れる。

けれど僕は、立ち去らなかった。

立ち去れなかった。

立ち退けなかった。

何故なら僕は、僕自身が、僕の人生に意味なんて、未だ見出せてなどいないのだから……。

今日この日まで、二年間、毎日、部屋の掃除と、備品の買い出しと、果てしないリフレイン。

果たしてそれは、密室事件におけるなんであるのか。

それは被害者か。

それは犯人か。

あるいは、密室そのものか。

立ち去りたかった。

立ち退きたかった。

「僕には…… 重すぎる」

白い吐息が、足元へ沈む。見え透いたようにそれは言った。

「私は君を寵愛する。」

それではまるで、アワレじゃないか。

「見ていたのか?」

それであれば、少しは納得できるだろう。

創作者たちの個室のカメラに、きっとアワレな僕の姿が映っていたのだろう。

「考えたんだ」

それは言った。

計算したのだと。

「見当違いだ」

僕は答えた。

シャーロック;ホームズが作り出した密室の鍵。

犯行の手がかり。

彼が、シャーロック;ホームズであるのなら。

「犯人は僕だ」

『あぁ、そして君たちは私の、親愛なる友人だ』

シャーロック;ホームズは続ける。

「扉は既に開かれている。」

振り向くと、一人の研究者が部屋の外からこちらを覗いていた。

「ねえ、清掃の……。―― 雁ヶ腹摺 洛月くん。モバイルバッテリーは燃えるゴミで間違っていない?」

「…………」

「あぁ、それと、雁ヶ腹摺 洛月くん―― これまでご苦労だった。明日は楽しもう」

僕の人生は、有意味であると証明されてはないけれど。

けれどもやはり、途中のようだ。

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