貨車は機関車から離れてゆく。

@TSUBAME_mamiya

第1話

「こうちゃんはさ、なんで真衣と付き合ったの?」

私は、"こうちゃん"が好きだった。

小中高と同じで、かと言って距離も近すぎる訳では無いし、お世辞にもこうちゃんは超がつくイケメンという訳でも、他になにか非凡な何かがある訳でもない。

「う〜ん…

なんだろうな。」

雰囲気でわかるような、ヘボいただの高校生だ。

昔っから他人に流されて、まるでトレーラーや貨車のような人。

「真衣はさぁ、もう言葉に表せないの。

なんて言うんだ、とーとい?」

尊い。と言いたいのか?

あまり恋人に対しては使わないだろう。ボキャブラリーが終わっている。

…でも、私はそんなところが好きなのだ。

ブイのようにぷかぷか浮いて、私は船のようにそれに引き寄せられる。

こうちゃんは、猫のような感じだ。

いつもこんなに生意気だが、私がいざ餌をやらなくなったら簡単に餓死してしまう。生殺与奪を私が握っているのだ。

事実、こうちゃんは片親で、父親もあまり家にいないから、私がよくご飯を作ったり家事を手伝ってあげた。

それが私にはたまらなく嬉しいのだ。

私が用意した舞台の上で、こうちゃんが踊っている。私というオーナーがいなくなればこうちゃんは死んでしまう。

それがまた、たまらなく喜ばしいのだ。

…だから…とても寂しい。

育てた子供が他人の家へ行ってしまうような感覚だ。もう私は彼の生殺与奪を持っていない。

私はこうちゃんの右隣すら得られずにこうちゃんの記憶から消えてしまうんだ。

こうちゃんにとって私は…給仕係くらいの存在だったのだろう。

「…あー、でも真衣の一番好きなところはさー、やっぱり…俺のことを好きでいてくれることかな?」

……プチンときた。

…真衣に失礼じゃないか。

あんなに、あんなに貴方に恋焦がれ、貴方に会う度に毎日毎日おめかしして、貴方のことを第一に考えてる娘の好きな理由が「愛してくれるから」だなんて。

愛してくれたら誰でもいいのか?じゃあ…彼女の頑張りはなんなんだ。無駄だって言いたいのか?

……そしてなにより、私に失礼じゃないか。

貴方を愛して愛してやまなかった私が、そんな理由で負けるなんて。

愛して欲しかったのか?嘘だ。私が誰よりも、一番に貴方だけを愛していた。

私が負けるはずがない。はずがなかったんだよ。

私には…あなたしかいなかったんだよ。

「…なぁ…京町?」

ふと我に返ると、彼の肩を掴んでいた。

「こうちゃん…

…真衣じゃなくて…私を選ぼ?」

「…?

な、何言ってるんだ?」

「愛が欲しいなら、いくらでもあげるよ?真衣じゃあげれないような、濃いの。」

「み、京町?顔が怖いぞ? 」

「私が責任もってあなたを育ててあげるから…さ。

真衣なんてどうせ…飽きたらポイだよ?

…私はそうじゃない。ちゃんと責任もってあなたを世話してあげるから…」

「……真衣は…違うよ。」

「…何が違うの。

真衣は貴方の何を知ってるの。会って三ヶ月だよ?高校入ってさ。貴方は真衣のなにを…」

「真衣は…笑顔が明るくて、俺のために努力してくれて。みんなにとても優しくて、こんな俺にも拒絶せず愛してくれたんだ。

ポイなんて…真衣はしないよ。真衣は…僕が好きになった人だから…僕の愛してる人なんだよ。真衣は毎日僕のことを最初に考えて、僕も真衣のことを最初に考えるんだ。

愛し合ってるんだ。

…さっきのは…照れ隠し。

嘘だ。

俺は真衣のことを愛してるし…俺は真衣に愛されてるってハッキリ言える。」

「…そっ……か。

言えたじゃん。はっきり。

真衣にも伝えてね。そのことを。きっと喜ぶよ。

…あの子、あなたに愛されてないんじゃないかって…心配してたから。」

力の入らない足を頑張って奮い起こし、帰宅した。

この後のことは詳しく覚えてないし、知りたくもない。 …でもどこか嬉しかった。私から解放されて。

それ以来、こうちゃんとは話さなくなった。

こうちゃんと真衣は結局、付き合って五ヶ月後に破局した。

未だに二人ともまだ他の人と付き合った噂は聞いてない。二人とも幸せそうだ。

…こうちゃんのことをわかってなかったのは私だったな。

もうとっくにこうちゃんは…誰からも自立してたんだ。

…一人で…私の力や真衣の力がなくても…生きていけるんだ。

…嬉しかった。

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