第4話 罠



 リシュアは、先へ進む。


 ――今度は、少しだけ警戒しながら。


 ゴブリンを倒した直後とは違う。

 呼吸を整え、足取りを抑え、周囲の岩肌や天井にも視線を配る。


 冒険者。

 ダンジョン。


 その言葉に付いてくるのは、危険だけじゃない。


 ――お宝。


 迷惑をかける魔物を退治して、戦利品を得る。

 良いことづくし。


「……兄様に、自慢しなきゃ」


 そんなことを思って、口元が緩む。


 あの兄が、驚く顔。

 姉が、少しだけ悔しそうに笑う顔。


 想像は、楽しかった。


 現実よりも、ずっと。


 リシュアは、目についたゴブリンを見逃さなかった。

 岩陰、通路の先、段差の向こう。


「――ウインドブラスト」


 確実に。

 正確に。


 一匹残らず、風で吹き飛ばす。


 ゴブリンの断末魔が、洞内に響く。

 うめき声が、反響して消えていく。


 それでも、彼女は進んだ。


 ――そして。


 少し広い空間に出た。


 天井が高く、柱のような岩がいくつも立つフロア。

 その中央に、一体のゴブリンが立っていた。


 こちらを、まっすぐに見据えて。


「……見つけた!」


 胸が、跳ねる。


 悪いゴブリンは、退治しないと。


 そう思った瞬間、ゴブリンは「ゲヘゲヘ」と意味の通らない声を漏らし、踵を返した。


 逃げる。


「あ、待ちなさい!」


 反射的に、後を追う。


 歩きながら杖を向け、詠唱する。


「ウインドブラスト!」


 轟音。


 圧縮された風が、逃げるゴブリンを巻き込み、宙で弾けた。


 勝った――


 そう思った、その瞬間。


 正面の死角。


 岩柱の陰から、

 通路の割れ目から、

 天井近くの段差から。


 ――ゴブリンが、現れた。


 一匹ではない。


 二匹。

 三匹。

 四匹。

 いや、もっと…。


 徒党を組み、甲高い叫び声を上げながら、一斉に襲いかかってくる。


「……っ!」


 リシュアの足が、止まる。


 今までとは違う。


 数。

 距離。

 角度。


 初めて、風が――遅く感じられた。

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