第3話 最初の勝利
ダンジョンの中は、思っていたよりも静かだった。
ゴツゴツとした岩肌に手を添えながら、リュシアは慎重に奥へと進む。
指先に伝わる冷たさが、ここが街の外であることをはっきりと教えてくれた。
腰に下げていた小さなランプに火を灯す。
揺れる橙色の光が、足元と壁をぼんやりと照らした。
洞は、進むにつれて少しずつ広がっていく。
天井は高くなり、足元の岩は削られたように滑らかだ。
さらに奥へ進むと、空気が変わった。
自然の洞穴だったはずの壁は、いつの間にか様式の違う岩肌へと変わっている。
どこか意図的に削られたような通路。
「……すごい」
新鮮な体験に、思わず声が漏れた。
胸の奥が熱くなり、高揚感が足取りを軽くする。
これが、冒険。
本の中でしか知らなかった世界。
――その時。
前方に、緑色の影が揺れた。
尖った耳。
潰れたような鼻。
小柄な体躯。
「……ゴブリン」
何度も聞いた名だ。
次の瞬間、物音に気づいたのか、影が振り返る。
横に並んだもう一体と共に、二対の瞳孔がこちらを捉えた。
迷いはなかった。
「――風よ、力となりて集え……」
短い詠唱。
「ウインドブラスト!」
不意打ちの即射。
圧縮された風の塊が、唸りを上げて放たれる。
直撃。
一体のゴブリンの体が宙に浮き、次の瞬間、四肢が弾け飛んだ。
血と肉片が壁に叩きつけられる。
隣にいたゴブリンが、甲高い悲鳴を上げ、踵を返す。
逃がさない。
リュシアは迷わず、再び杖を向けた。
「ウインドブラスト!」
二撃目が背中を貫き、ゴブリンは音もなく崩れ落ちた。
静寂。
自分の荒い呼吸だけが、洞内に響く。
「……」
リュシアは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
そして――
「……大したこと、ないかも」
ぽつりと、そう呟く。
思っていたよりも、あっけない。
拍子抜けするほど、簡単だった。
魔物は倒れ、彼女は無傷だ。
胸の奥に、確かな手応えが残る。
「やっぱり……」
小さく笑みが浮かぶ。
「私、強いんだ」
それも当然だ。
兄も姉も、誰もが認める実力者。
その妹なのだから。
高揚感が、足取りをさらに軽くする。
リュシアは、躊躇なくダンジョンの奥へと進んでいった。
――それが、最初の勝利であり、
同時に、最初の油断だった。
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