「喰らえ、進化せよ ~天才兄弟の最強軍団創設記~」

@saijiiiji

プロローグ「覇王の産声」



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その日、シュヴァルツェン公爵領は祝祭に沸いていた。


名門公爵家に待望の嫡男が誕生したのだ。銀の髪と紫の瞳を持つ赤子は、産声を上げた瞬間から周囲を圧倒する何かを纏っていた。


「おお……なんという気品。この子は大物になるぞ」


「さすがは公爵家の血筋。将来が楽しみですな」


居並ぶ貴族たちは口々に祝辞を述べ、父である先代公爵は満足げに頷いた。


赤子の名はヴィクトール。勝利を意味する名は、彼の生涯を象徴することになる。


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ヴィクトールは神童だった。


三歳で文字を覚え、五歳で剣を握り、七歳で大人の騎士を打ち負かした。兵法書を読めば一度で暗記し、馬に乗れば誰よりも速く駆けた。


「まさに天才だ」「公爵家の至宝」「将来は王国を背負う男になる」


賞賛の声は絶えなかった。しかし幼いヴィクトールは、それを聞くたびに首を傾げた。


なぜ、皆はこんなに喜ぶのだろう。こんなこと、やればできるだけなのに。


彼にとって「できる」のは当たり前だった。努力すれば報われる、ではない。やれば、できる。それだけのことだ。


だから周囲の称賛は、彼の心を満たさなかった。


求めているのは、そんなものではない。


もっと——もっと面白いものが欲しい。


まだ見ぬ何か。誰も到達したことのない場所。


幼いながらに、ヴィクトールは漠然とした渇望を抱えていた。


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転機は、八歳の時に訪れた。


三つ下の弟、ルドルフ。銀髪と紫の瞳は兄と同じだが、その雰囲気は全く異なっていた。


ルドルフは「変わった子」だった。


人形より虫を好み、絵本より解剖図を眺めた。庭で見つけた小動物の死骸を嬉々として分解し、その構造を調べる姿は、使用人たちを怯えさせた。


「あの子は異常だ」「狂っている」「公爵家の恥」


陰口は日に日に大きくなり、両親すらもルドルフを遠ざけ始めた。


しかしヴィクトールは違った。


ある日、彼はルドルフの部屋を訪れた。弟は机に向かい、何かの骨格標本を組み立てていた。


「何をしているんだ、ルドルフ」


「……鳥の骨。飛ぶ仕組みを知りたいんだ」


「へえ。面白いな」


その言葉に、ルドルフは初めて顔を上げた。紫の瞳が、兄を映す。


「……面白い?」


「ああ。僕には分からないことだ。——お前の見ている世界を、もっと教えてくれないか」


それは、ルドルフが初めて受け入れられた瞬間だった。


「兄さん……」


「なんだ」


「僕、変じゃない?」


「変かどうかなんて、どうでもいい。お前は面白い。それで十分だ」


その日から、兄弟の絆は深まっていった。ヴィクトールはルドルフの「狂気」を否定せず、ルドルフは兄にだけ心を開いた。


二人で夜遅くまで語り合った。いつか見たい景色の話を。誰も到達したことのない場所の話を。


「僕は強くなる。誰にも負けない最強になる」


「なら僕は、兄さんのために最強の武器を作るよ」


「約束だぞ、ルドルフ」


「うん。約束だ、兄さん」


幼い誓いは、やがて世界を揺るがす野望へと育っていく。


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さらに三年後、妹が生まれた。


シャルロッテと名付けられた少女は、兄たちとは異なる色を持っていた。母親譲りの蒼い瞳に、愛らしい笑顔。天使のような外見は、暗い噂に包まれた公爵家に光をもたらした。


「まあ、なんて可愛らしい」「この子は公爵家の良心ですね」


周囲は安堵し、シャルロッテを溺愛した。しかし、その笑顔の奥には——兄たちに負けぬ聡明さが隠れていた。


シャルロッテは五歳にして、兄たちの「異質さ」を理解した。長兄の才能は人を畏怖させ、次兄の奇行は人を遠ざける。このままでは、二人は孤立する。


ならば、自分が繋ぎ役になろう。


幼いながらにそう決意した彼女は、兄たちと世間の間に立つ「翻訳者」となることを選んだ。


表では無邪気な妹を演じながら、裏では情報を集め、人心を掌握する。その二面性を、兄たちだけは知っていた。


「シャル、お前は怖いな」


「えへへ、お兄様のためですから♪」


「……本当に怖い」


三兄妹は、それぞれの形で「異端」だった。


天才。狂人。策士。


三つの異質が揃った時、シュヴァルツェン公爵家は大陸の歴史を塗り替える存在へと変貌する。


しかし、それはまだ先の話。


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ヴィクトールが十八歳の時、父が病に倒れた。


死の床で、父は息子の手を握った。


「ヴィクトール……お前に、全てを託す」


「父上……」


「お前は、私が見たこともないほどの天才だ。だが……その才能は、諸刃の剣でもある」


「どういう意味ですか」


「お前は……退屈を、許せない人間だ。それが、お前を偉大にもするし……破滅にも導きうる」


父の目には、息子への愛と、かすかな恐れがあった。


「どうか……道を誤るな」


それが、父の最期の言葉だった。


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父の葬儀が終わり、ヴィクトールは若くしてシュヴァルツェン公爵となった。


広大な領地、莫大な財産、そして——王国騎士団との繋がり。全てが、彼の手に渡った。


新たな公爵として王都を訪れたヴィクトールは、王国騎士団の本部を視察した。そこで見たものは——


「なんだ、これは」


腐敗だった。


貴族の子弟が実力もなく要職に就き、平民出身の才能ある者は冷遇される。新技術は「伝統に反する」と退けられ、訓練は形骸化している。


古い鎧を磨くことだけに執心し、新しい剣を打とうとしない老人たち。


「これが、王国最強の騎士団?」


ヴィクトールの目に、失望と——そして、ある種の歓喜が宿った。


なるほど。この程度か。


ならば——


「面白い。全部、壊して作り直す価値がある」


彼の脳裏に、壮大な構想が浮かび上がる。


王国騎士団に頼る必要はない。自分で作ればいい。最強の軍団を。最強の兵器を。最強の仲間を。


「ルドルフ」


「何、兄さん」


「約束を果たす時が来た。——僕に、最強の武器を作ってくれ」


弟は、狂気を湛えた笑みを浮かべた。


「待ってたよ、その言葉。——もう、設計は頭の中にあるんだ」


「どんな兵器だ」


「生きている機械。魔獣と融合し、戦うほどに進化する。——常識を超えた、最強の騎士機」


「できるのか」


「兄さんが望むなら、僕は何だって作るよ」


兄弟は笑い合った。


狂気と野望が交差する、その瞬間——


世界を変える物語が、静かに幕を開けた。


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これは、異端の兄弟が紡ぐ覇道の記録。


天才と狂人が手を取り合い、最強を目指して駆け抜けた、終わらない戦いの始まり。


後に歴史は、彼をこう呼ぶことになる。


——「黒鋼の覇王」と。

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