人間は考えることをやめた

いふきゅい

第1話

 大人工知能AI時代。人々の生活様式は、AIによって大きく変わってしまった。



 俺は映像制作会社に勤めている。もっと正確に言えば、という感覚に近い。企画はAI、脚本もAI、絵コンテも編集も音楽も、何もかも、すべてAI。


俺たち人間は頭の中で、ただ椅子に座りながらAIの生成結果を確認し、首を縦に振るだけの存在だった。



「ああああああ!」

はっとして目を開く。


「うるせえな、急にどうした?」

横に座る同僚が、頭の後ろで腕を組みながら言った。


どうやら、デスクで寝落ちしていたらしい。胸の内には、吐き気がするほど重たい漬物石に乗られている感覚が残っていたが、夢の内容は思い出せなかった。


「悪い。なんでもない。」


「そうか、ならよかった。じゃあ、この文章いい感じに変えてくれないか?」


同僚が、俺の脳内に箇条書きの原稿を送り付けてきやがった。



 この時代、脳内にAIチップを埋め込むことは主流になっている。とはいっても、本来持つ能力に差が出るのを防ぐという理由で、埋め込みを義務化している国がほとんど。


人々は、埋め込んだAIチップを通じてやり取りが可能だ。人間が大昔に使っていた携帯電話と同じようなものである。


「この程度、自分のAIでやれよ。」


「すまないけど、俺のは映像特化だ。」


ため息をつきながらも、俺は数秒で文章を整え、返送した。



 能力に差がつくのを防ぐとか言ってたが、実際は違う。建前だ。今は、自分の特技を伸ばす補助としてAIチップを埋め込んでいる。

だから、使うAIにも得意、不得意があって、それらを人間同士が補う。

文章特化、映像特化、音楽特化──俺の場合は文章と構成だった。



「なあ、お前はどっち派だ?」

唐突に、同僚が言った。


「どっちって?」


「全分野AI派か、人間主導派か、だよ」



 世界はふたつに割れていた。ひとつは、全ての分野に特化したAIによって平等な人間社会をつくり、仕事の生産性を上げようとする派閥。

もうひとつは、一部の分野に特化したAIによって人間らしさを保ちつつ、仕事の効率を上げようとする派閥。


言い換えれば、人間をする側か、それにする側かの違いだ。この争いはAIが登場してから絶えず続いてきた問題だ。


「反対に決まってる。」

俺は即答した。


「全部AIになったら、俺が俺じゃなくなる。」


「…だよな。」

同僚の寂しい返答には、温もりが感じられた。



 なぜ人は、人を支配したいのだろう。と、同僚の何気ない問いを真剣に考えていた。でも、そんなことしてる場合じゃなかった。仕事を進めなければ。

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