第6話
あなたが入院している間、妻と嫁はひとときの安らぎを得ただろうか。毎日病院から呼び出され見舞いを行い、看護師たちからあなたに対する愚痴を聞かされただ恐縮するしかなかった二人。
あなたはやっかいな患者だった。急性期は何度か管を引き抜き拘束された。一般病棟に移ってからもあなたはナースコールを押し続けた。
不自由なあなたは背中がかゆくなっても自分で掻けない。看護師を呼んでも訴えが言えない。何度も何度もコールを押し続け、やがて看護師たちの足は遠のいた。あなたひとりで五人分くらいの存在感を見せつけたのだ。
そのような入院が長く続くはずもない。あなたは療養病棟や老人施設も拒否して、強引に家に帰ってきた。あなたの妻と嫁は覚悟を決めざるを得なかった。
もっとも――その頃には妻もまた認知症の症状が出始めていた。あなたの短い入院中に家でぼうっと過ごすことが多くなった妻は朝夕の区別もつかなくなり、出かけても家に帰って来られなくなった。
あなたが病院を追い出され、強引に家に帰ってきた時、妻はあなたが誰だかわからなくなっていた。
家事もろくにできない役立たず、寝たきりになっても俺は――俺の年金でお前を養うのか?
あなたはそう思っただろう。
そんなある日、あなたの妻は街中を徘徊中に車にひかれて亡くなった。あなたの家にはあなたと嫁だけが取り残された。
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