温もり
aoinishinosora
第1話 右手に仏
今から約40年前、私の記憶も定かでは無いが確か自宅で葬儀をしていた。(近所の集会所も使って)
自宅の二十畳の座敷、天井は少し高くなっている。その部屋に祭壇を飾り壁には幕が張られた。そして沢山の生花、造花で囲まれた缶詰のセットなど処狭しと置かれていた。庭にはデッカイ花輪が15個以上も並んでいた。
曽祖父は急に体調を崩し入院し、そのまま帰らぬ人となった。昔の人だからずっと痛いのを我慢していたのだろう……。とても厳しい人だった。炬燵に入るのも静かに、とても静かにテーブルが揺れない様に入らないと叱られたものだ。
そんな曽祖父が座敷で布団に寝かされ動かない。声をかけても返事をしてくれない……。頭の方には茶碗に山盛りご飯が盛られて箸が真っすぐ刺さっている……。随分前、昔話に出てくるような、てんこ盛りのご飯がとても美味しそうで真似をしたら、『ご飯山盛りにすんでねぇ!何回でもお代わりして食べろ!』と叱られたことがあったのを思い出した。
沢山の人が家の中をウロウロ忙しそうにしている。自分の家なのに座る場所も無い。台所は本当に戦場のようだった。何人もの近所の人が居る。母を探すが中々見つけられない。ご飯を炊き、さんこや汁、天ぷら……。それを座敷まで何度も運ぶ……。終わる事の無い、人、人の声。
和尚様が来てお経をあげる。隣の人の真似をして手を合わせる……。お経が終わると和尚様からのお話があった。『三途の川幅はどれだけか分かりますか?』そんな感じの話しだったと思う。和尚様の答えは、『位牌の幅』だと言う。表に戒名、裏に今までの名前を入れるからと説明があったような気がする(私の記憶です)私はその時、『なるほど、和尚様上手い事を言うな』と子供ながらに思ったのである。
お墓に納骨に行くときは、確か、女性は白のサラシを頭に被り、男の人はサラシでは無く三角巾?(故人や幽霊が付けてる三角の形の物)を障子紙で作り頭に巻いて庭を3周?回り『ジャーン』というシンバル?銅鑼?が鳴りぞろぞろお墓まで歩いて行った。
余りの非日常。納骨が終わり家に着くと私は頭痛が酷くて炬燵に横になった。それを見た大叔母が『何だべ!寝て!起きなさい!』と私を怒鳴った。私はノロノロ起き上がり痛い頭を手で支えトイレへ向った。
私はこの日初潮を迎えたのだった。
忙しい母にも誰にも言えず1人で処理をした。幸い生理用品は母が準備していたのでそれを出して使った。
この日の夜、皆が帰った座敷から沢山の人の声が朝まで聴こえていたような気がする。
お経の後は和尚様のお話があった。『どうして手を合わせるのか』確か、和尚様の答えは『右手が仏、左手が現世、現在の世の中です。故人が迷わず仏の世界に辿り付けるように』『故人を偲び穏やかな気持になる為の時間です』当時の私は(おー!右手は仏なのか?)確かに手を合わせると気持ちが静かになる。和尚様凄い!!と思った。
そしてほぼ毎週、和尚様が来てお経をあげ、難しい話をする。そして、台所は近所の人達が来ていて戦場の様な祭りの様な……。それが毎週四十九日のお経をあげるまで続く。
手を合わせ思い出す。曽祖父の膝の上で新聞を読んだ思い出、道路でソリ滑りをして叱られた思い出、私の似顔絵を描いて貰った思い出……。手を合わせる度に曽祖父との事が思い出される。
そして仏の世界へ行ける様に祈った。合掌。
温もり aoinishinosora @aoinishinosora
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