第1話 勉強の成果

試験は実技試験だ。

ここでの実技試験というのは、各参加者が戦い、実力を示していく方式となる。

最初は10人のバトルロワイヤル方式から、次は1対1で対戦となる。それを6組行う。

人数の関係で10人以上となるところもあるようだ。

最終的に3人が選ばれる。

早速、バトルロワイヤルが始まる。

私は、一番最初の試合だ。事前にリングが作られており、そこで試合をする。

リングから出たら失格というルールだ。

私は、リングに上がる前に周りを見る。

カイトはいない。

それもそうか。たかが護衛の選抜試験程度に領主様の息子が出張るわけないか。



少し気落ちしながらも、リングに上がる。

既に、他の9人もリングに上がっていた。

私と同じ魔法師や甲冑を着た男、軽装のファイターまで様々だ。

こうなると、魔法師は少し不利だ。

通常魔法師はパーティの後衛で、タンク役が守り、その後ろで魔法を放つのが役割だ。

これだと、タンク役がおらず、魔法の詠唱を完了させるまでの時間が間に合わない。

まぁ、カイトを守るならどんな状況でも対応できるようにならないとね。

審判役がリングに上がってきて、少しの間、沈黙となる。



「試合開始!」

と合図とともに、私は詠唱した。

「ウィンド!」

得意の魔法を詠唱して、3人を場外へ吹き飛ばす。

そして、私は次の魔法を打とうとして、止めた。

リング上、会場全体の動きが止まっている。

全員の視線が私に集まっている。

何かあったのか。

「今、魔法名だけで…魔法が発動されたぞ。それに威力が…」

リング上のファイターが呟いた。



合点がいった。

通常、魔法には詠唱が必要だ。強い魔法であればそれだけ長い詠唱が必要だ。

今私が唱えたのが、ウィンド。初級魔法だ。初級でも短いながらも詠唱が必要である。

だが、私は詠唱なしで魔法を発動した。詠唱破棄である。

これができるのは、千人に一人と言われている。

普段あまり人に魔法を見せることがないからそのことを忘れていた。

また、通常のウィンドは大まかな風を発生させるだけの魔法だ。

魔法学校では一番最初に学ぶ魔法だ。各魔法の詠唱の中で一番短く、消費魔力も少ないからだ。

人を吹き飛ばせるほどの威力は本来はない。

私は魔法の調整が上手いらしく、こうして、魔法の調整をすることで威力を上げることができる。

今のは、ウィンドで発生する風を圧縮することで威力を高めたものだ。中級魔法くらいの威力はあるはずだ。

それで驚いたのだろう。

呆然としているなら、やりやすい。

「グレイブ!」

残る六人の足元の地面が急激に盛り上がり、場外に押し出されるように地面が伸びた。

カタパルトで射出されるように六人が場外へと飛ばされ、試合は終了した。



審判の試合終了の合図の後、リングから降りると、会場が静まり返っていることに気づいた。

私は不審に思いながらも気分を変えるため、一旦会場を出た。

その後、異様なざわめきが空に響いていたのを聞いた。



気分が落ち着いたので、会場に戻ってみるとちょうど3組目の試合が終了したようだ。

少しのインターバルを置いて残りの3試合となる。

残りの試合を見ていると、声をかけられた。

「こんにちは、さっきの試合すごかったね。あたしシルク。あなた、名前なんていうの」

「こんにちは、私はカリナよ。別に大したことじゃないわ」

背の高い綺麗な人だ。赤い髪に甲冑を着ており、剣を携帯している。

三組目の勝者だ。

「そんなわけないじゃない、詠唱破棄なんて初めて見たわ。それに初級魔法であの威力なんて普通でないわよ」

「試験中だし、あまり詳しく話さないけど、色々工夫をしているのよ。それくらいしないと詠唱中にやられちゃうからね」

「この試験じゃそうなるわね。今回の試験は魔法師にとって不利だもの」

「それくらいの障害を乗り越えられないと、カイ…領主様のご子息の護衛になれないもの」

「まぁね、護衛対象が護衛対象だから報酬も最上級レベルだし、城に住めるし、女ならご子息に見染められる可能性もありそうだし」

「…」

そんなこと、考えたこともなかった。

ただ私は、カイトを守れればいいと思っている。

シルクはそういうことも込みで今回の試験に臨んでいるようだ。

実際、シルクは綺麗でスタイルがよく、その赤髪は時折風に揺られて美しさを醸し出している。

カイトが誰を好きになるかなんてカイトの自由だ。

でも、そういうことを考えてしまうと、どうしてか胸が締め付けられるような感覚がある。

誰にも渡したくはない。誰かのものになってほしくない。

でも、カイトの夢を壊した私が何も言う権利はない。

ただ私は、カイトの護衛としてその人生を守りたい。潰してしまったカイトの人生への贖罪として。

「ちょっと、聞いている?」

シルクの声にふと、我に返る。

いけない、自分の考えに没頭していた。

「ごめんなさい、ちょっと疲れてしまって」

と適当な嘘をつく。言えない、カイトのことを考えていたなんて。

「あら、そう。意外とそういう制約なのかしら」

なにやら勘違いしてくれたが、そういう話で通そう。

「実はそうなの、色々工夫しているから魔力の消費も少し多くて」

「あら、いいの?そんなこと話しちゃって」

「話しかけてくれたお礼ということで」

「そう、次の試合で当たったらそこを突かせてもらうわ。お互い頑張りましょ」

そう言って、シルクは離れていった。



しばらくすると、すべての試合が終わり、六名の勝者が揃った。

それから、組み合わせが発表される。

シルクとは当たらなかった。

そして、すぐに試合が始まる。

私は、第一試合だ。リングに上がる。

相手は軽装備で右手にシールドを持った剣士だ。リングに上がり、準備運動をしている。

機動力重視で防御は左手に持ったシールドでパリィしていくタイプだ。

「試合開始!」

試合開始の合図が出される。

剣士が先に動き、私へ向かって駆け出す。

先ほどの試合では、意表を突いて先制できたが、先ほどの試合をみて先手必勝が得策とみたようだ。

実際、こちらは詠唱破棄ができるとは言え、どうしても魔力を練るのにワンテンポ遅れるのは事実だ。

ならば、こちらは手数で押し切る。

「ウィンド!」

最初の試合と同じように、魔法を放つ。

剣士は左手のシールドで魔法を弾いた。

「やっぱり詠唱破棄か、これはすげぇ」

剣士はそう呟きながらさらに駆け出してくる。

「グレイブ!」

地面が急速に隆起し、剣士の斜め下から四角い石柱が伸びる。

これも先ほどの試合と同じ攻撃だ。

剣士はそれも見切り、シールドで石柱から身を守りながら横に回避した。

やはり、見られた攻撃は通じないか。



それなら、正面からはやらない。

私は、わずかに身を引いた。

剣士は好機と見たのだろう、より加速し一気に距離を詰めてくる。

速い。軽装なだけあって、気づいたらもう眼前だ。

剣士は止めとばかりに剣を振り下ろし、私の肩を掠める。

鋭い痛みが走る。

布が裂け、血がにじむ。

近接戦闘で魔法師が傷を負うこと。

それは敗北の兆しだと、誰もが思う。

でも。

その直後、後ろにステップして、私は魔力を地面に流し魔法名を唱える。



「スリップ!」

剣士が、追撃しようと踏み込もうとしていた地点の表面が、確実に滑らかになる。

氷結ではない。氷魔法ほど派手でも、目立ちもしない。

ただ、摩擦を奪っただけの魔法だ。

剣士がそこに踏み込み、体勢が崩れる。

突然のことに驚いた顔をする剣士。

その一瞬。私は再度魔法名を唱える。

「グレイブ!」

地面が、剣士の両足を掴むように隆起し、体勢が崩れた剣士の両足を拘束する。

足首を固定され、体勢が完全に止まった。

「しまっ!」

剣士が気づいた時には遅い。

私は、静かに告げた。

「ウィンド!」

圧縮した風を、真横から。

盾を構える暇はない。

剣士の体は、拘束もまとめて横薙ぎに吹き飛び、リングの縁を越えた。

重い音とともに、場外へはじき出される。

審判の合図が響く。

私は、深く息を吐いた。

肩の傷が、少し痛む。

ふと、観客席の方を見る。

そこに、いるはずのない人物を探してしまう自分に気づき、苦笑した。

いない。当然だ。

ふと、見てほしかったな、と思ってしまった。そんな自分をすぐに自分で叱責した。

これで、カイトの護衛になれる。

私はこれでカイトを守れるほどに強くなっただろうか。

いや、強くなったかどうかではない。

私はまだ、彼の隣に立つ資格がないのかもしれない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染の人生を潰した私は守るため、初級魔法を極めました @ryusakatoboku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画