白の記憶、赤の約束

雪唄

白の記憶、赤の約束

 お母さんがまた出かけると言ったその日。お母さんは預けたいものがあると言った。

 何だろうか。

 キラキラした石だろうか。それともただの石だろうか。

 お母さんの後ろから出てきたのは

「初めまして!こんにちは!」

と言いながらキラキラした白い髪を靡かせる幼い子。

「ラウラって言います!」

純粋さが滲み出る目がキラキラと光っている。

「これからよろしくお願いします!」


「うん。初めまして。僕はサクア。よろしくね!」

  


 ぼくの名前はラウラ。とってもかっこいいでしょ。お母さんがぼくにくれた唯一のプレゼントなんだ。ぼくは白くてキラキラな髪をもってるんだ。僕のお気に入り。だってお兄ちゃんが「かっこいいね」ってほめてくれたから。

 お母さんの名前はネヴュラ。黄色くてフワフワしてる髪をもってるの。あとお母さんはすっごく大きいんだ。ぼくの何倍も大きいの。

 あとね。すっごくやさしいんだけど、どこにいるかわからないの。お母さんはいつもどこかにいっちゃうから。お母さんとは二回しかお話したことがないの。

 一回目はほぼきおくにないけど生まれた時。お母さんがぼくに「あなたはラウラ。ラウラです」って言ってたの。すっごいキレイな声だったけど、つめたかった。

 二回目は僕が遠くで光ってるモノ見つけた時。なんだろうって思って見に行こうとしたら「何をしているの!」って言われた。すっごく怖かった。だから絶対にキラキラを探しには行かない。だってもうお母さんに怒られたくない。

 お兄ちゃんの名前はサクア。オレンジっぽい赤色のキラキラな髪を持ってるの。あとお兄ちゃんは小さいんだ。ぼくの半分くらい。

 あとね。

 すっごくやさしいんだけどヒミツばっかりなの。いつも「内緒っ!」って言うから。でもお兄ちゃんとたっくさんおしゃべりしてるの。きのう何たべたのかとかね。

 あっ!

 遠くの方で光ってるキラキラについてのおはなしもしたよ。お兄ちゃんはお母さんみたいに怒ってなかったけど「危ないから探しに行っちゃだめだよ」って言ったの。なんか悲しそうな目をしてた。だから絶対にキラキラを探しには行かない。だってもうお兄ちゃんを悲しませたくない。


 ぼくにはサクアお兄ちゃん以外にもお兄ちゃんがいるらしい。

 お母さんに聞いた。他の兄弟たちもお兄ちゃんやぼくみたいにキラキラな髪を持ってるらしい。何で会えないのかなって思ってお兄ちゃんに聞いたら「知らない。会ったことないし。お母さんに聞けばわかるかもだけど。てかこの間聞いておけばよかったじゃん」って言うから話にならない。そもそもお母さんはあんまり帰ってこないから教えてもらえないじゃん。ちなみにお母さんは毎日すっごい遠くまでお出かけしてるらしい。理由は知らないけど。ぼくも大きくなったからお母さんがいないことなんて気になんなくなったんだ。それが普通だし。

 そんな話をした後にお母さんが久しぶりに帰ってきたの。だからその時に

「あっちのほうにある九個のキラキラはなに?なんか一番キラキラしてる一個の周りを残りのがくるくる回ってるみたい」

って聞けたんだよね。珍しくお兄ちゃんも一緒に聞いてた。

 なんでだろう?お兄ちゃんはぼくがお母さんに質問しに行くときいつも遠くの方で見てるだけだから。

 お母さんはぼくの質問に

「あれはあなたたちの兄弟よ。九人でいつも一緒にいるの。真ん中にいるサンを中心に弟たちが追いかけっこしているみたいね」

って言ったの。

 九人で一緒にいるなんていいなって思ったけどお兄ちゃんが

「その八人はたった一人のお兄ちゃんを取り合ってるんじゃない?あんなにキラキラしてるんだからきっと特別なんだよ」

って言ってたから羨ましくなくなっちゃった。

 だってお兄ちゃんを独り占めできないなんてヤダ。サクアお兄ちゃんはぼくだけのだもん。他のやつらに取られたくない。

 そう言ったらお兄ちゃんは少し悲しそうな顔をして

「ラウラ。僕はラウラだけのお兄ちゃんだよ。だけど・・・」

って言ってた。

 「だけど」の先は覚えてない。覚えてないというか聞こえなかった。すごい小さな声で言ってたから。

「聞こえないよ!なんて言ったの?」

って言ったのに

「あぁ…。内緒!」

って言われた。

 教えてくれたらいいのに。本当にお兄ちゃんは内緒ばっかり。ぼくはもう子供じゃないのに。別に拗ねてるわけじゃないから!


 ぼくは今迷子。

 いつも通りお兄ちゃんとお話してたんだけどあんまりにもお兄ちゃんが「内緒」って言うからイライラしちゃって「秘密ばっかりのお兄ちゃんなんて大っ嫌い!」って言って周りを見ずに走って気づいたら知らないとこに来てた。

 周りは真っ暗。探しに行くのはやめたけど何故か心が惹かれてしまうキラキラも見えない。九人兄弟たちの姿も見えない。

 ぼく一人ポツンと真っ暗な場所にいる。歩いても歩いても真っ暗。

 ただ歩くたびに何かわからない大きな力だけが強くなっていくように感じる。

 怖い。

 歩けばきっと死んでしまう。理由はないけど絶対に。なのに歩くことを止められない。何かわからない大きな力が歩くのを止めさせてくれない。

 誰か助けて…。お兄ちゃん。

 「ラウラッ!!!」

 お兄ちゃんの声が聞こえたと思って後ろを振り返ったら目の前が真っ暗になった。けどさっきまでの真っ暗とは違う。暖かい腕に抱きしめられている。自分よりもずっと小さいお兄ちゃんがすごく大きく見える。それにいつもの何倍も髪がキラキラしている。そういえばちょっと前まで薄かった髪色が最近濃くなった気がする。そんなどうでもいいことが気になってしまうくらい、ぼくは安心してしまった。

 「お兄ちゃん…あの…」

「良かった…本当に良かった」

抱きしめてくれている腕の力がもっと強くなる。あんなに怖かったのに。死んじゃうんじゃないかって思うくらい怖かったのに今はお兄ちゃんの暖かさしか感じない。

 真っ暗の中に光り輝く美しい赤。抱きしめてくれるぬくもりと共にぼくはこの光景を忘れないだろう。

 そう思うほど美しく、暖かかった。

 

 「今いた所はラウラがずっと行きたがってたキラキラだったんだ」

手をつないでお兄ちゃんと帰ってるとそんなことを言いだした。

「あそこはコラプサーって言うんだ。何でも吸い込んじゃう真っ暗な闇。あそこに吸い込まれちゃうと二度と帰ってこれないんだ。ラウラも危なかったんだぞ」

さっきまでいた場所が今まで探したくても探せなかったキラキラだったなんて。しかもすごい危ない場所だったなんて。今までお母さんが怒って止めたのもお兄ちゃんが「行かないでね」って言ったのも本当に危ない場所だったからなんだ。

「…怖かった。すごく怖かった。死んじゃうかと思った」

「うん怖かったね。大丈夫。僕が一緒だから」

そう言うお兄ちゃんの顔は悲しそう。あの時も悲しそうな顔をしていた。

「お兄ちゃん。なんで、なんでそんなに悲しそうな顔をするの?」

そんな顔しないで。お兄ちゃんは笑ってる顔が一番キラキラしてるのに。お兄ちゃんのきれいな赤い髪がさらに輝いて見えるのに。悲しい顔をしてるとぼくも悲しくなっちゃう。

「えっと、内緒…にしようかとも思ったけど…」

歩くのをやめて歩いてきた道を振り返る。

「コラプサーはなんでも吸い込んじゃうって言ったけどそれだけじゃないんだよ」

ものすごく柔らかい顔をしたお兄ちゃんが愛しいものを見るようにブラックホールを見ながら話す。

「輝けなくなっちゃったものも吸い込むんだけどね、その輝けなくなっちゃたものに自分が持ってるキラキラを分けてくれるんだ」

「それはいいね!コラプサーって怖いだけだけじゃないんだ」

「そうなんだよ!いいものなんだよ」

まるでぼくがお母さんやお兄ちゃんに色々話してる時みたいに目を輝かせながら共感してくれたのが嬉しい!って話してる。

 こんなお兄ちゃん見たことない。

 いつもキラキラしてるしニコニコしてるけど、何倍もキラキラしてる。まぶしくて目がつぶれちゃいそうなくらい。

 だからかな

「・・・俺の事も吸い込んでくれないかな」

って聞こえたけど知らないふりしたのは。

 きっと「何でそんなことを言うの?」って聞いても「内緒!」って言われちゃいそうだから。

 聞かないよ。ぼくはもう聞かない。答えてくれないことを聞くのはやめにする。ぷらいばしー?のしんがいになっちゃうから!お母さんが前に帰ってきたときに言ってた!


 いつもの場所に帰ってこれた。

 明るくてキラキラが見れてコラプサーも見える。もちろん九人兄弟の姿も。よかったって思った時お兄ちゃんの方を見たら、ずっとコラプサーの方を見てた。まるでそっちに行きたいって。目がそう言ってる。

 なんか怖い。

 さっきまでの怖いと違う。お兄ちゃんがいなくなっちゃいそう。ぼくを置いてどこかに行ってしまいそう。いつもみたいなキラキラがスッと消えてしまいそう。さっきまであんなにキラキラ輝いていたのに。って。

 怖いよ、お兄ちゃんがいなくなっちゃいそうで。

 どうしたら勝手にいなくならない?ずっと一緒に居てくれる?どうしたら…。

 あっそうだ!

 「お兄ちゃん!今日はありがとう」

お兄ちゃんはぼくを見て笑顔で

「いいんだよ。ラウラが無事で良かった」

って言ってくれた。

 言わないと。

 言わないとお兄ちゃんが居なくなっちゃう…!

「ねぇお兄ちゃん!ぼく。ぼくもうお兄ちゃんが内緒って言っても怒んない!コラプサーにも絶対行かない!だから。だからずっと一緒に居てね!ずっとだよ!」

涙があふれてきて言葉がつっかえた。

 お願い。お願いだから「いいよ」って言って。

「うん。いいよ。一緒に居ようね。・・・」

「いいよ」って言ってくれた。お兄ちゃんがずっと一緒に居てくれる。

 嬉しい。良かった。安心。

 そんな言葉が頭に浮かんできた。

 だからかな。

 最後にお兄ちゃんが言った言葉は聞こえなかった。





 泣き疲れて眠ったラウラを膝にのせて頭を撫でる。

 本当に綺麗な髪色だな。僕も昔はこんな色だったんだけど。

 母さんから生まれた子供は最初、白く輝く美しい髪色をしている。それは皆等しく平等に。僕だってそうだ。

 それと同様に皆髪色が変わっていく。白から始まり青、黄色、オレンジ。最後には真っ赤になる。美しく変化していく髪色はその美しさに反し残酷に現実を突き付けてくる。僕の髪色はもう真っ赤。これ以上濃くならないだろう。終わりが近いことが分かってしまう。

 恐ろしい。

 いっそコラプサーに吸い込まれてしまいたい。きっとその方が痛くないだろうから。

 それにまだ終わりたくない。せめてラウラが大きくなってから。こんな幼い子を残して終われない。

 そんな風に思っても現実は変わらない。ならばせめてコラプサーが美しいけど危険な場所だと伝えないと。ラウラはそこにずっと行きたがってるから。まさか「お兄ちゃんなんて大っ嫌い!」と言って走って行った方向がコラプサーへ続く道とは思わなかった。

 大っ嫌いか。

 内緒ばっかでごめん。

 でももう少し。もう少しラウラには純粋でいて欲しかった。

 髪の色が終わりへのタイムリミットだって知ってほしくなかった。

 「だから。だからずっと一緒に居てね!ずっとだよ!」って言われた時はどうしようかと思った。

 残されたタイムリミットはほんのわずか。でもずっと一緒に居てあげたい。

 何かいい方法はないだろうか。

 何か…あっ。わかったよ、ラウラ。

 「うん。いいよ。一緒に居ようね。生まれ変わってしまっても」

 徐々に感覚のなくなっていく体にきっと少し前までの僕だったら泣いて怖がった。まだ終わりたくない。ラウラと一緒に居たい。って。でももう大丈夫。ラウラも子供じゃなくなった。約束もしちゃったしね。

 大丈夫。きっとまた一緒に居れるから。少しの間だけ離れ離れになってしまうけど大丈夫。ラウラは強い子だから。

「ラウラ。僕の愛しいラウラ。ずっとみてるから」

だから安心して待っててね。

 逆らうことのできない眠気によって落ちてゆく意識の中、ラウラの白い美しい髪が見えた。





 お母さんが久しぶりに帰ってきた。

 今日も僕はお母さんにたくさん質問する。知りたいことが山ほどあるから。

 お兄ちゃんは約束した次の日にはいなくなった。

 僕はそのことが理解できず泣きじゃくった。お母さんがやってくるまで泣き続けた。泣き続ける僕とお兄ちゃんが居ない空間を見て何かを悟ったお母さんは僕にすべてを話してくれた。髪の色の話とか。終わりの話とか。お兄ちゃんが何かと「内緒」と言っていた理由がわかりまた泣いた。きっとあの約束をした時にはもう終わってしまうことが分かってた。なのに約束してくれたのは僕を思っての事だ。それに気づいてまた泣いた。

 本当に泣きまくった。

 ひたすら泣いてやっとお兄ちゃんの死を受け止めた。

 あれから随分と年月が経って僕の髪は薄い青になって、あの頃みたいな真っ白な輝きはなくなった。

 それでも僕はまだまだお母さんに質問し続ける。終わらないうちならいくらでも知ることができる。この世界の事。違う世界の事。次は何を質問しよう。


 お母さんがまた出かけると言ったその日。お母さんは預けたいものがあると言った。

 何だろうか。

 キラキラした石だろうか。それともただの石だろうか。

 お母さんが渡してきたものを見て目を見開いた。

「こんにちは!初めまして!」

キラキラした白い髪をなびかせながら笑顔を咲かせる幼い子。

「サクリリーって言います!」

純粋さが滲み出る目がキラキラと光っている。

「これからよろしくお願いします!」

 …約束守ってくれてるじゃん。やっぱりそういうところ”お兄ちゃん”だよね。

 

 「うん。初めまして。僕はラウラ。よろしくね!」

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白の記憶、赤の約束 雪唄 @Yukiuta_smile_22

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