重ね合わせた手

三田静香

第1話

今日一日で、何度スマホ画面をスクロールしただろうか?そろそろ親指が痛んできた。


やっぱり僕は君の動画は見れない。


ショート動画で流れて来た君の動画を、僕は親指の痛みを感じながらまたスクロールする。


気付けば日が暮れていた。

体勢を変えベッドが軋む。適当に買った安物ベッドのすのこが身体に当たる不快な感触にはもう慣れた。安物の薄っぺらいマットレスだから仕方が無い。


「今日は食事とトイレ以外ずっと寝てる…」


誰とも喋ってない霞んだ声で独り言を呟いた。


YouTuberなるみ


君は去年の年末までは僕の妹だった。

僕が君を庇ってやれなかったからだ。


「やっぱり地元の皆はアタシのことなんか理解してくれないんだね。見送りなんて来なくていいから。アンタ何なの?アタシを庇うか非難するかハッキリしたら!?」


「ごめん、帰り送ってく」

車のドアノブに掛けた手を勢い良く叩かれた。


「ホントさアンタなんなの…?送らなくて結構!アンタは、アンタ達は、もう私の家族じゃない!さよなら」


その時に妹が両手を握りしめ、地団駄を踏む姿を僕は切なく感じた。

何故か妹は、僕との手の大きさ比べが好きで、良くせがまれていた。

僕の手と比べ妹の手は、ふた周りも小さかった。妹はそれを毎回確認してはキャッキャと楽しそうに笑っていた。


妹はいつからか、僕達が産まれた地元を嫌っていた。

もう兄の手なんて触るわけがない思春期真っ只中の妹はこんな事を言っていた。


「おかーさんのガサガサに荒れた手ってホントさ女を捨ててるよね。アタシはあぁはならないから」


そして高校卒業と同時に東京に出ていった妹は、YouTuberになっていた。


去年の年末、妹からYouTuberになったと聞かされた両親はそれが職業だということが理解できず、僕にどういう事か説明を求めてすらきた。

説明する僕の姿。

説明を受けても尚頭上のハテナが消えない両親。

そんな家族を前にして妹はどんどん顔を赤く染めていった。遂に「バカにしないでよ!」と怒鳴った。


「はぁ」


僕はやっとスマホから手を離し、ベッドから起き上がった。

今日は元旦だが両親は働いている。僕も手伝いたい。また明日から頑張ろう。


あの時、バカ正直にYoutubeで生計を立てれる理由、今では職業として認められていることを説明なんてしないで、もっと褒めてやればよかった…のかな。

だけど、肌色が多い、やたら不自然に体を揺らした君の動画なんて僕は認めないし

、両親にはとても見せれない。


「なぁ、帰ってこいよ。母さんの煮物好きだったろ。食べに来いよ」


スマホを置いた拍子に、ふと自分の手を見つめてみたが、あの時叩かれた痛みなのか、スクロールの痛みなのか僕には分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

重ね合わせた手 三田静香 @sizuka_mita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画