人工知能
森杉 花奈(もりすぎ かな)
人工知能
「おはようございます」
高山佑人はいつも通り会社に出社した。
「おはようございます高山さん。今日も仕事
頑張りましょうね」
新入社員の花村結依が挨拶をする。今日も気
持ちの良い朝だ。結依ちゃんの言う通り
今日も仕事頑張ろう。朝礼のベルが鳴る。
高山はいつも通りに支度をした。
高山佑人は見た目は涼しげな、頼もしい男
性だ。大手IT企業株式会社ネオテックの中
堅社員である。スポーツ万能で、鍛え上げら
れた肉体はスーツの下に隠されているがふと
した瞬間にそのシルエットが浮かび上がる。
明るさとユーモアがあり、同僚と談笑する姿
もよく見られる。高山は常に相手の立場で、
物を考える。その誠実な人柄が、皆に好感を
持たれる理由だろう。社内では頼れるお兄さ
んとして皆の信頼を集めていた。
「結依ちゃん。その資料、手直ししておいて
くれる?」
「わかりました。すぐ取りかかりますね」
「ありがとう。助かるよ」
花村結依はどこにでもいそうな見た目の
今時の女の子だ。いつもニコニコ笑っていて、
その笑顔を見ていると、なんだかこちらも
元気になってくるような雰囲気を持っている。
短大を卒業後、大手IT企業に就職。
持ち前の明るさとガッツで、毎日先輩社員に
教えを請いながら、必死に頑張っている。
口癖は、なんとかなる。
困難にぶつかっても、すぐに諦めずに、前向
きに解決策を探していく。その姿勢は、周囲
の人間にも良い影響を与えたりする。たまに、
同期の女の子たちと、ちょっとリッチな
ランチを楽しむのも、密かな楽しみ。
「よし、今日も一日、頑張るぞ!」
花村結依は持ち前の元気さで、社内の皆に
今日も元気を分け与えているのだった。
ある日のことだった。花村結依が会社のパ
ソコンにデータを入力しようとすると、何と
昨日までのデータが全部消えていた。大変だ。
あのファイルの中には自社開発の人工知能の
データもあった。自社開発AI(人工知能)
は株式会社ネオテックの売りだった。花村結
依も高山佑人も株式会社ネオテックの社員な
のだ。そして株式会社ネオテックはIT企業
であり最先端の人工知能の開発会社でもあっ
た。
「高山さん大変です。昨日までのデータが、
全部ありません」
困った結依は高山に相談した。
「どうしたの結依ちゃん。データが無いっ
て。僕がデータチェックしようか?」
「はい。お願いします」
高山は改めてパソコンのデータをチェックし
た。本当だ。昨日までのデータが全部消えて
いる。
「本当だね。データが全部消えている」
「これはどういうことだろう?」
高山は改めて社内の全データをチェックして
みた。やはり昨日までの全部のデータが消え
ている。これはもしかして、コンピューター
ウイルスの仕業では? だとしたら何者かの
挑戦状だ。そうなると、自社開発人工知能が
危ない。高山は自社開発人工知能をチェック
してみようとした。Errorの文字が画面に
浮かぶ。なんということだ。人工知能がコン
ピューターウイルスに汚染されてしまった。
高山は全人工知能を管理するマザーコンピュ
ーターにアクセスしてみた。拒否。ウイルス
は人工知能をも支配してしまうのか。高山は
慌てて、状況を上司に報告した。
「我が社の人工知能がウイルスに汚染された
だと? 直ちに駆除しなさい」。
上司の指示で高山がウイルス駆除を担当する
ことになった。結依も高山を補佐するよう、
上司に指示を受けた。ふたりはウイルスと
対決することになった。
AIが異常をきたすととんでもないことに
なる。人命に関わることや、システム停止。
車両事故や世の中の大抵のシステムが混乱に
巻きこまれる。現代社会はほとんどのシステ
ムをAIに頼りきっている。高山は異常が
見つかる前に何としてもウイルスを駆除しな
ければならなかった。コンピューターのプロ
グラムを洗い直す。ウイルスの侵入経路は?
高山は回線を外部から隔絶した状態でデータ
のバックアップを調べてみた。
するとお昼頃に会社の公式ホームページ宛て
に一通のメールが届いた。
「オマエニハ ムリダ アキラメロ」
差し出し人はmuimi@tenco。
もう一通届いた。
「オンシャセイヒンハ フリョウヒンダ
フリョウヒンハ コワサネバ ナラナイ」
やはり差し出し人はmuimi@tenco
だった。愉快犯の仕業か? 犯人は誰だ。
高山は唾を飲み込んだ。
もしかしたら、社内のコンピューターを
汚染したウイルスを送り付けた犯人の仕業
かも知れない。高山はプロトコルを調べて
みた。アクセスポイントは埼玉県久喜市。
いや、この情報もなりすましかも知れない。
手探りの状態でデータを洗い直す。もし、
このデータが本当に犯人のものであるなら、
犯人は何を考えているのだろう。犯人の
狙いは何だろう。高山は思い切ってメール
を送ってみることにした。
「コンピューターウイルスを送り付けたの
はお前か? お前の狙いは何だ?」
「フクシュウ フリョウヒンハ コワス」
「復讐とは何だ?」
「フリョウヒンハ イラナイ」
おそらく犯人確定だろう。犯人は復讐を
考えている。何が原因なのだろう。何故
AIというシステムを壊すほどの恨みを
抱いているのだろう。待てよ。
muimi@tenco。
顧客リストあるいは取引先リストに
その名前は無いだろうか。その前にAIのシ
ステムを再起動しなければ。回線を外部から
遮断してマザーコンピューターを再起動する。
良かった。回線をシャットアウトすればAI
は正常に起動する。高山はホッとした。次は
ウイルスの駆除だ。ワクチンソフトを幾つか
投入してみた。これでしばらくは持つだろう。
回線、アクセス。正常。高山は次にメールを
送り付けてきた犯人のデータを洗ってみた。
「結依ちゃん。顧客リストからこのアドレス
を探してみてくれないか?」
高山と結依のふたりで顧客リストから
muimi@tencoを探した。
「ありましたよ高山さん」
結依が顧客リストから名前を見つけた。
埼玉県久喜市。情報は合っている。
名前は、と。「飯沼隆司」58歳。男性。
イイヌマ リュウジ?
恨みを買う覚えがない。
高山は改めて飯沼隆司にメールを送ってみ
た。
「飯沼隆司 様。
当社の製品に何か不都合が、ございましたで
しょうか? 不良品とのことですが可能で
あればバージョンアップした新品の商品と
お取替えいたします」
「うるさい。御社の製品でうちの母親が亡く
なったんだ。どう責任取ってくれるんだよ」
高山は思い切って電話で話を聞いてみること
にした。よく話を聞いてみると車に搭載され
ていたAIが誤作動を起こし、母親が事故に
遭って亡くなられたのだという。そのせいで
AIが憎くなり、株式会社ネオテックにコン
ピューターウイルスを送ったのだという。
「飯沼様。お母さまの事故のお話、お気の毒
でした。ですがお母さまの車に搭載されて
いたAIは当社製品ではありませんでした」
「何だって?」
「自動車メーカー様が開発した製品でした」
「そうだったのか。すまなかった。御社に
コンピューターウイルスを送るのは、もう
止めるよ。逆恨みして悪かった」
飯沼隆司は反省した。高山は人工知能が出し
た答えにやりきれなさを感じた。人工知能は
老婆の命ではなく若者の命を優先した。その
結果飯沼隆司の母親が死に、道路にいた子供
が助かった。人工知能とは何だろう。
「高山さん。食堂でランチ一緒にどうです
か?」
花村結依がランチに誘ってきた。
「後で食べるから、先に行ってて」
「早くしないと無くなっちゃいますよ」
「やっぱり、待ってくれ」
高山は慌てて結依を追いかけた。
絶品ランチにありつきながら、高山は今後の
AIはどうあるべきか、人工知能について
改めて考え直すのであった。
人工知能 森杉 花奈(もりすぎ かな) @happysnowbunny01
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