第38話最終判断
管理室の中央に、
一つの表示だけが
浮かんでいた。
《異常:象徴集中(進行中)》
《規模:局所》
《危険度:中》
数字は、
落ち着いている。
だが――
ゼロにはならない。
官兵衛が、
淡々と口を開く。
「現状、
放置は不可」
「直接介入は、
管理者負荷により
高リスク」
「信長による配置調整は、
一時的効果のみ」
信長が、
腕を組んだまま
言う。
「分かっておる」
「何度も
同じ手は
打てぬ」
濃姫が、
視線を
俺に向ける。
「では、
どうするのですか」
管理室の視線が、
集まる。
俺は、
管理席に座り、
ゆっくりと
息を吐いた。
「……異常の正体は、
彼女じゃない」
官兵衛が、
即座に反応する。
「同意」
「原因は、
周囲の意味付与」
天照大神が、
静かに言う。
「ならば、
象徴を
消すか」
その言葉に、
濃姫が
わずかに眉をひそめる。
「……それは、
彼女を壊します」
「壊れずとも、
変わる」
天照大神は、
淡々としている。
「神とは、
そういうものだ」
俺は、
首を振った。
「それは、
最終手段だ」
視線を、
官兵衛に向ける。
「第三の案を出せ」
一瞬。
官兵衛は、
わずかに
言葉を探した。
恐怖が、
思考に影を落とす。
「……象徴を、
解体する」
信長が、
目を細める。
「ほう」
「一つに集まった意味を、
複数に分散」
「彼女が
特別なのではなく、
“特別が多数存在する”
構造を作る」
管理室に、
静寂が落ちる。
それは――
派手さはない。
だが、
確実に効く。
「……方法は?」
俺が問う。
「管理者は、
現場に出ない」
「だが――
存在を隠さない」
官兵衛の声は、
低い。
「世界に、
“管理されている”
という事実を
薄く、広く流す」
信長が、
笑った。
「神を
増やすのではなく、
神話を
希釈するか」
「そうだ」
官兵衛は、
頷く。
「彼女は、
その中の
一人に過ぎなくなる」
濃姫が、
小さく息を吐く。
「……彼女は?」
「何も知らない」
官兵衛は、
即答する。
「だが――
選択肢を失わない」
俺は、
管理席に
深く沈み込む。
楽な選択ではない。
だが――
一番、
壊さない。
「……決めた」
全員を見る。
「直接介入はしない」
「彼女を、
観測補助にはしない」
「象徴を、
分散させる」
管理室に、
静かな承認が
広がる。
天照大神が、
最後に言った。
「それは、
世界を
信じる判断だ」
「失敗すれば?」
俺は、
一瞬だけ
笑った。
「その時は――
俺が出る」
管理席の前で、
新しいログが
刻まれる。
《最終判断:承認》
《方針:象徴分散》
《直接介入:否》
世界は、
何事もなかったように
回り続ける。
だが――
見えない構造だけが、
静かに
書き換えられていった。
彼女は、
今日も歌う。
神でもなく、
救済者でもなく。
ただ――
選べる人として。
管理者は、
席を立たない。
だが、
一人でもない。
それで、
十分だった。
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