第26話翌日、ステージの上で
目覚ましが鳴る前に、
目が覚めた。
カーテンの隙間から、
朝の光。
「……朝」
当たり前のはずなのに、
少しだけ
安心している自分がいた。
昨日の夜は、
夢を見なかった。
悪夢も、
変な気配も。
ただ、
ぐっすり眠れた。
洗面所で顔を洗う。
鏡の中の自分は――
いつも通り。
「……変わってない、
よね」
問いかけても、
答えは返らない。
仕事用の服に着替え、
家を出る。
住宅街は、
本当に普通だった。
誰もいない路地。
いつもの角。
いつもの駅。
――昨日のことが、
嘘みたいに。
スタジオに着くと、
空気が切り替わる。
「おはようございます!」
「おはよー、ルナ!」
声。
笑顔。
挨拶。
それだけで、
“星宮ルナ”に戻る。
リハーサル。
立ち位置。
振り付け。
体は、
完璧に動いた。
問題は――
ない。
……はずなのに。
「……?」
歌っている最中、
ふと、
感じた。
軽い。
昨日まで、
確かにあった
“重さ”がない。
客席を見る。
ファンの顔。
ペンライト。
歓声。
熱はある。
期待もある。
でも――
押し付けられていない。
「……」
心の中で、
小さく息を吐く。
これなら、
大丈夫。
本番が終わり、
楽屋に戻る。
「今日、
調子よかったね」
マネージャーが
そう言う。
「……そう、
ですか?」
「うん。
余裕あった」
余裕。
その言葉が、
少しだけ引っかかった。
休憩中、
スマホを見る。
通知は、
相変わらず多い。
応援。
期待。
願い。
でも――
一つだけ、
昨日と違う。
飲み込まれない。
まるで、
どこかに
フィルターが
置かれたみたいに。
「……あの人」
名前も知らない人。
顔も、
もう思い出せないのに。
言葉だけが、
残っている。
――君は、偶像でいい。
――人でいい。
胸の奥が、
少しだけ
温かくなる。
「……勝手だな」
助けられた気がして、
でも、
何も聞けていない。
夕方、
仕事が終わる。
空を見上げると、
雲が流れていた。
「……昨日も、
こんな空だったっけ」
分からない。
でも。
昨日と同じ世界なのに、
少しだけ
呼吸がしやすい。
家へ向かう途中、
ふと、
立ち止まる。
理由はない。
ただ――
見られている感じが、
しない。
それが、
逆に不思議だった。
「……また、
会うのかな」
独り言。
答えは、
返らない。
それでも。
昨日より一歩だけ、
前に進めている気がした。
彼女は、
まだ知らない。
自分が、
“観られる側”から
“観る側”へ
近づいていることを。
それに気づくのは――
もう少し、
先の話だ。
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