疎遠になって関わりの無くなった幼馴染がタイムリープして過去を変えているらしい
海夏世もみじ
本編
俺こと
そう、過去の話だ。
その幼馴染の名前は
彼女と出会ったのは、小学生の頃に裏山でこっそり世話していた子猫に会いに行った時だ。小学生の琴乃の容姿は、俺が幼いながらも絶世の美幼女だと理解するほどに。
「わたし、ことの! えへへ。よろしくね、さっくん♪」
「お、おう。よろしく、ことの……」
正直言って、一目惚れもあったかもしれない。
けど、ほぼ毎日一緒にいて、優しくて、可愛くて……。好きにならない方が難しかっただろう。
しかし、俺たちが中学生になったとある日、彼女からこんなことを言われる。
「さっ君……――近づかないで」
その瞬間、俺は絶望した。
彼女の言葉が忘れられずにいたが、もう吹っ切れたんだ。あいつに興味が失せた。
……いや、かっこつけて強がるのはやめよう。寂しかったんだ。ずっと一緒に居たくて、「アイツに冷めた」と自分に言い聞かせて、苦痛を和らげていたに過ぎない。
その後、急遽父親の転勤で引っ越しが決まり、それ以降彼女とは会っていない。
連絡先も交換していなかった。交換する必要がないほど、いつも一緒にいたからだ。
転校先の中学や、進学した高校、大学では一切の色恋沙汰はなかった。
その大学も卒業し、今は会社で働いている。
会社の仕事上で、たまたま中学の女友達と久々に会って話す機会があった。
その際、琴乃の話になって衝撃の事実を知った。
「そーいえば朔空、琴乃ちゃんのこと覚えてる?」
「……まぁ、一応。でも俺は嫌われたんだよ。『近づかないで』って言われたし。あんな過去は忘れるのが一番だ」
「それなんだけどさ、あの時の琴乃の言葉って照れに照れまくってツンデレみたくなってただけなんよ」
「え……?」
「あんたいきなり引っ越したじゃん? それ以降さ、琴乃ちゃんマ~~ジで死にそうなくらい落ち込んでたわよ。『私のせいでさっ君が』って。何回泣いてたことか……」
「そう、だったのか……」
俺はただただ、後悔に打ちひしがれた。
なぜあの時、もっと攻めなかったのか。
なぜあの時、あいつの気持ちを理解できなかったのか。
俺は後悔を背負いながら日常を過ごしている。
同僚からよく合コンに誘われるが、どうしても琴乃のことが忘れられず、新しい恋もできないままだ。
……だがそんなある日、俺は異変に気がついた。
朝起きて、スマホのフォルダに入っている俺の可愛い可愛い天丼ちゃん(猫の名前)を見ようとした時のことだ。
「な、な、なんだこれは……!?」
それは、高校の制服を着る俺と一緒に写る、あの琴美の姿だった。
頰をぴったりと合わせて撮っている写真だ。俺とあいつ、どちらも恥じらって頰を赤らめていて、まるで「俺たち私たち、付き合いたてです……♡」と言わんばかりの表情である。
もちろん、高校に進学してから付き合いは一切なかった。
なかったはずなのに、ある。紛れも無い事実がそのフォルダにあったのだ。
「どういうことだ!? 日付もちょうど高校の時だ!」
おおお、落ち着け俺……。
こういう時はコレをするに限るッ!
「天丼〜〜っ!!」
ソファで寝そべっている三毛猫に向かってダイブした。
そう、俺は天丼成分を摂取(顔面を猫に埋めてスーハーすること)で落ち着けるのだ。
『うみゃうっ!』
「へぶしッ!」
天丼に殴られた。見事な右ストレート猫パンチ。
だがしかし、これで落ち着くことができた。
裏山で世話していた時から生きてる老猫だが、老いを感じさせないほど重い一撃である。
「って、やばいやばい! 普通に会社遅刻する!」
一旦このことを置いておき、会社に行くことにした。
まぁきっと、何かの間違いだろう。疲労が溜まっていて幻覚を見たに過ぎないんだ。
俺はそう言い聞かせた。
『――えー、では続いてのニュースです。先ほど、市街地でトラックが暴走する事故がありました。運転者は軽傷、負傷者は――』
「おっと、テレビ消し忘れるとこだった。天丼、行ってきまーす!」
テレビを消し、スーツに着替え、天丼を一撫でして俺は家を飛び出した。
# # #
「は〜〜っ! 仕事疲れたなぁ……」
俺の務めている会社はブラックでは無い。
されど、まだ入社したばかりなので仕事も慣れていなくて疲れるものだ。
「あの朝の件は……ちょっと疲れたから、一旦仮眠をとってから考えよう」
『なーう……』
「ああ、先に天丼にご飯あげなきゃだな。ちょっと待ってろー」
天丼にご飯をあげた後、俺はベッドに体を沈めた。
明日も会社なので数分後に起きれるようにきちんとアラームをセットして眠りについた。
――数分後。
アラームが鳴ると同時に起き、寝ぼけ眼で部屋を見渡す。
すると、眠気が徐々にフェードアウトしてゆくほどの違和感を覚えた。
「……家具が変わってる?」
俺はアパートの一室で、天丼と二人っきりなラブラブな生活をしている。
そんな俺の部屋には必要最低限の家具しかなかったはずだが、以前までなかった家具や謎の写真立てなどが目に映った。
「え、どうなってるんだ……? まさか……!!」
俺はスマホのフォルダを確認する。
するとそこには琴乃の写真が増えていた。
そこに映る俺やあいつの表情は全て楽しそうだった。
「は、はぁ!? いやいや、本当にどうなってんだよ!?」
俺は思考を巡らす。
だがどんどんと、存在するはずのない彼女との記憶が俺に流れ込んでくる。
「頭が……割れそうだ……!」
記憶が流れ込んでくる中、琴美がこう喋るのを聞いた。
――私、タイムリープしてきたの。
「〝タイムリープ〟……?」
俺の趣味であるWeb小説サーフィン。
多種多様なジャンル読み、異世界系もラブコメ系もたくさん読んでいた。
その中でも、ラブコメの小説でタイムリープものを読んだことがある。
よく見るのは過去に後悔を残す主人公が過去に戻り、幸せになるという感じだが、俺の場合は少し……いや、だいぶ違う感じになるだろう。
琴乃が過去に戻り、過去を改変している。
そして俺はというと……未来に取り残されている。
未来という名の今が変化するトリガーとして考えられるのは睡眠。
これは確定だろう。
「あるわけないが、実際に起きていることだから信じざるを得ない、か……。現実は小説より奇なりってやつか?」
俺は部屋に増えていた写真たてに目をやった。
その写真は、海辺でのツーショットだった。
「ゔっ! なんだ……? また頭が……!」
頭が割れそうなほどの痛みが走った。
そして再び、記憶が流れ込んでくる。あるはずがない、琴乃との過去の記憶が。
――今度こそ絶対、さっ君のことは手放さないから。
彼女の声が漣の音と混じって反響して、最後にはリップ音が聞こえてきた。
「お、お、俺はこの海辺で……! あいつとキスしたのか!?」
写真の中の俺たちは妙によそよそしい。
そして今流れ込んできた記憶は、琴乃とキスをする記憶……。
「っアァ〜〜! なんっか、めっ~~ちゃ恥ずかしいッ!!」
カーッと頰が熱くなるのを感じる。鏡を見ずとも真っ赤なのはわかるほどに。
だが、そんな恥ずかしさも吹き飛ぶような、驚くべき事実がノスノスと歩いてきた。
『なーご』
「て、天丼!? お前……すごい太ったなぁ……」
驚くべき事実。
それは、天丼はぽってりとした体型に変化していたことだ。
だがおかしい。
俺はペットを飼うに当たって、餌の分量はきっちりとするタイプである。
ということは、だ。
「まさか、琴乃が家に来ている?」
今の俺は、某少年探偵並みの推理力を発揮しているんじゃないかと思った。
「は、ははっ……」
正直言って、琴乃に会いたい。
――……だけど、いいのだろうか?
アイツが好きになったのは、何も知らない無垢な俺なのではないか?
未来に取り残された、ただただ平凡に暮らす今の俺なんてあいつは好きじゃないのかも……。
「はぁ、なんだかなぁ……。まあとりあえず、一旦寝るか」
まぁなるようになるだろう。ケ・セラ・セラってやつである。
寝たらまた日常に変化が起きるはずだ。あとは任せた、未来の俺!
俺はネクタイをほどき、スーツのままベッドに潜り込み、そのまま眠りについてしまった。
# # #
「ん……う~〜ん」
ピピピピッとなるアラームを唸りながら止め、むくりと起き上がる。
「あー……。……んっ!?」
体に雷が落ちたんじゃないかと思うぐらい驚く。
数秒間思考が止まり、体が動かず、言葉も出なかった。
なんと、俺の枕の横にもう一つピンク色の枕があるのだ。
「なっ、まさか……!」
俺は慌てて自分の部屋を見渡す。
予想通り、見慣れない化粧商品や女物の服があるのが確認できた。
「こ、これはもしかして!」
俺は寝室から飛び出し、他の部屋も見て回る。
洗面台には歯ブラシが二本、色違いのペアマグカップ、などなど……。
そして極め付けは、リビングの机にあった置き手紙だった。
手に取って見てみると、こんなことを書かれていた。
『私先に仕事行くね! あと今日は記念日だから、さっ君も早めに帰ってくること! ケーキ楽しみにしててね♪ 琴乃より』
「ど、どどっど、同棲してんのか――ッ!?」
衝撃の事実だった。
っていうことはもうあんなことやこんなことをしたのか!?
……いや、記憶を見る限りそういうのはしていないようだ。
俺もあいつも、そういうのには奥手だったからな……。
「嘘だろ!? どうすんの俺! 天丼、お前はどこからどこまで知ってるんだ!?」
『…………』
「くそぅ、爆睡してやがる!」
過去にタイムリープしていた琴乃が、とうとう
そんな考察をしつつ、家のソファで項垂れる。されど、心臓は依然としてハイスピードだ。
(オイオイオイ、俺は琴乃にどんな顔して会えばいいんだよ……っていうか何話せばいい? 俺は一体、どうすればいいんだ!!)
散々唸った挙句、俺はとりあえず外の空気を吸って落ち着くことにした。
こんな時こそ冷静に、だ。
玄関に向かい、靴を履こうとした瞬間、ガチャリと扉の鍵が開く音がした。
扉が開き、その先にはいた人物は――
「あ、もしかしてさっ君今起きた? えへへ、忘れ物しちゃってね~~」
「ぁ……」
あの琴乃が、目の前にいる。
昔の可愛さは未だ健在だが、少々大人びていた。
流れ込んでくる記憶の中で何回も見ているが、生で見るとその美少女っぷりが身にしみてわかる。
もう二度と会えないと思っていた。
そんな彼女が目の前にいる。
俺は、咄嗟に彼女に抱きつき、そのまま泣き始めてしまった。
「はわっ!? こういうのは夜に……じゃなくって! えっと……甘えたい気分なのかな? それとも怖い夢でもで見ちゃった? よしよし、大丈夫だよさっ君」
琴乃はただ、俺の頭を撫でてくれた。
このまま俺が何も言わなかったら、琴乃との幸せな生活が手に入るのだろうか?
――いいや、違う。
多分、それは本当の幸せじゃない。
ずっと秘密になんてできないんだ。いつか綻びが生じて明るみに出るんだ。
それならばもう、今ここで……全て彼女に話してしまおう。
# # #
「さっ君、もう大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だ。……いきなりなんだが琴乃、大事な話がある」
「え……ま、まさか別れるなんて言わないよね!? そんなのだったら私、私……!」
さっきまでは俺が泣いていたけれど、今度は琴乃が泣き出しそうになってしまった。
「ち、違う! 俺はできればずっと……琴乃と、一緒にいたい……」
あ、焦ってものすごく恥ずかしいことを言ってしまったぁ……!
でも琴乃がすごく嬉しそうな表情してるからよしとしよう。
「わかった、それじゃあ、お話聞かせてくれる?」
「ああ、実は――……」
それから、俺は全てを話した。
徐々に変わる日常。改変されて行く過去。琴乃がタイムリープする前の記憶を持っていること。
洗いざらい全てを彼女に話した。
「そう、なんだね……」
「ああ……。その、すまん。本当にごめん。それしか出てこないよ……」
「なんで……」
琴乃は俯きながら拳を握り、プルプルと震えていた。
……仮に彼女が怒っても、俺は何も言えない。
琴乃は二度目の俺と仲を、愛情を育んでいたんだ。
そこで過去の俺がいきなりしゃしゃり出てきて「はいそうですか」なんて納得できないだろう。
俺は殴られる覚悟でギュッと目を閉じた。
「なんで……なんでさっ君が謝るの!!」
「……へ?」
琴乃は俺の予想通り、怒っていた。
だが、怒りの矛先は全く違う方向を向いていた。
「な、なんでって……。そりゃ、いきなり前の俺が出てきて、迷惑とか……」
「迷惑なんかじゃない! 私は……あの時のことをずっとずっっと後悔してたの! なんであの時のあんな言葉を言っちゃったのかとか!!」
琴乃からポロポロと涙が出ている。
俺もつられて泣きそうになるが、次に話す琴乃の最後の言葉で俺は絶句することになる。
「この二回目の人生でも、ずっとそのことを後悔してたの……。もしかしたらあの時、あんな言葉を言ってなかったら違う未来になって――さっ君は死んでなかったんだって」
「……は? 死んだ……? お、俺が!?」
「うん……。私がタイムリープしたのはちょうど今日。それでね、さっ君は昨日死ぬはずだったの。事故だったって……。会社に向かう途中、暴走したトラックに衝突して即死って……」
背筋がゾッとし、肌が粟立つ。
もしあの時、フォルダを見て、変わった日常について考え込んで時間割いていなかったら……。俺はその頃トラックに――。
「そう、なんだな……」
「私には後悔しかなかったよ。引っ越しして別れて、ようやく再開できたのは冷たくなったさっ君だった……。
天丼ちゃんを引き取った後、私はずっと泣いてたの。『あの時あんなこと言わなければ』って。そしたら過去に戻ってたの」
「…………」
言葉が喉に詰まって出ない。
恐怖や緊張、様々な感情が入り混じってもうわけがわからない。
「でもっ!!」
机をドンっと叩き、琴乃は真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
「今ここに、さっ君はいる……生きてる! 二度目のさっ君でも、
ああ……また涙が溢れそうだ。
「もう私を置いていかないで……ずっと、一緒にいて……。お願い……っ!」
彼女は俺の胸に顔を埋めながら、嗚咽を上げて泣いている。
突然の引っ越しで置いていき、追い打ちをかけるようにこの世から置いていったんだ。三度も置いていかれたらと考えたらいたたまれない。
「っ……! 琴乃……」
「ぐすっ……なぁに……?」
「こんな俺でも、さ……お前を愛していいのか……?」
互いに涙をボロボロと流して向かい合っている。
そして、琴乃は笑顔でこう答えてくれた。
「――もちろんっ!!」
俺たちは抱き合って、泣きつかれるまで泣きじゃくった。
そしてその後のことは、ただただ、幸せな日々が続いた。
過去に戻してくれた神がいるのならば、感謝しかない。
もしかしたらすぐ近くにいたり……なんて、あるわけないか――。
# # #
『…………』
二人が泣きじゃくっているのを、三毛猫の天丼はただ見つめていた。
そして――
『――ふんっ。世話が焼けたニャ……』
ゆらりと尻尾が揺れる。
その尾は、二又に分かれているように見えた……。
疎遠になって関わりの無くなった幼馴染がタイムリープして過去を変えているらしい 海夏世もみじ @Fut1
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