夢永樹(むえいじゅ)
haruka
第1話 星の夢は、北風に乗って
極北の風は、言葉を凍らせる。
それでも柿ボーイは、幻の豆を探しに旅立った。
ショコラ亭のバレンタインに間に合わせるには、
“時星”が空に昇るその瞬間を逃すわけにはいかない。
夢永樹(むえいじゅ)、星の光が差す一瞬にだけ姿を現し、
飲む者の記憶に“まだ見ぬ未来の夢”を映すという、幻の木。
北に進むごとに柿ボーイの体温は下がっていく。持参したグリズリーの毛皮と耳当てをしっかり着込んで、北の限界点を超えた。極北はそれでもまだずっと先の方。
雪は音を吸い込み、空はただ白く広がっていた。
柿ボーイの足跡だけが、静かに地図を描いていく。
ポケットの奥で、ショコラ亭の鍵が小さく鳴った。
その隣には、ポリンちゃんがくれた“あの小さな包み”がある。
それは、ホオノキの葉っぱで丁寧にくるまれていた。
あの扉を再び開くには、夢永樹の豆と、
このふたつの“ぬくもり”がどうしても必要だった。
指先の感覚が少しずつ遠のいていく。
それでも柿ボーイは、足を止めなかった。
そのとき、空からひとつ、白い羽が舞い降りた。
見上げると、白いフクロウが風を切って滑空していた。
それは、夢永樹の在処を知る唯一の案内人。
星の豆を求める者にだけ、その姿を見せるという。
「あのフクロウは もしや・・・」
柿ボーイの足が躍り出す。
転びそうになりながらフクロウを追いかけた。
フクロウの白い羽が、夜の空気を切り裂いていく。
柿ボーイの息が、星の光に溶けていった。
と、フクロウは突然旋回して くるりと雪の森に消えた。
夢永樹(むえいじゅ)――
星の光が差す一瞬にだけ姿を現し、
飲む者の記憶に“まだ見ぬ未来の夢”を映すという、幻の木。
*
その昔、極北の空に“時星”が昇った夜、
ひとりの旅人がその木の下で焙煎をしたという。
その香りは、風に乗って世界をめぐり、
いくつもの夢を芽吹かせたと伝えられている。
夢永樹(むえいじゅ) haruka @harukaforest
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