婚約を解消したい令嬢は今日もやらかす

第1話

「殿下、私と婚約を解消してください!」

 目の前で優雅に紅茶を飲むエドワード・フォン・ロバーツ殿下に婚約破棄の意思を告げると、驚いた様子もなくゆっくりとティーカップをソーサーの上に置く。

「……それはまた突然だね。」

 突然? とんでもない。

 私はずっと前からあなたと婚約解消したかったのだから。

 

 な・の・に!

 

 婚約が決まりそうになった時は病弱なふりをして王妃に相応しくないとアピールすると、国の最高級の神官を呼ばれて治療されるし。(もちろん仮病なので、慌てて元気なふりをした)

 お披露目会で失敗して周りの評価を下げたら流石に婚約を解消してくれるだろうと、ダンスのステップをわざと間違えたら合わせてきて華麗にカバーしてしまうし。(その後、素敵なアレンジですわと沢山のご令嬢から称賛されてむしろ株が上がってしまった)

 ならば殿下の好みと逆を演じて嫌われようと好みのタイプを聞き出して(慎ましい女性が好きだと言っていたので)その反対の行動をしてみたけど、何故か沢山のケーキを食べて散財する私を見て楽しそうに笑うし。(ちなみにお腹を壊してしまったので、二度とやらないと誓った)

 とにかく! いくら努力しても婚約を解消に持っていけなかった。

 恨めしい気持ちを込めて目の前の殿下をキッと睨むと、ニコリと笑顔を返される。

 全くもって動揺のカケラも見せない殿下。

 強硬手段にでたというのにこの有様だ。

 なんて無様だろうと思いながらも、私には引き下がるわけにもいかない理由があった。

「私、結婚するなら好きな殿方とが良いんですの。」

 無礼を働いたらお家が危ないので婉曲にあなたはお呼びでないと伝えると、また表情の読めない顔をされる。

「君は公爵令嬢だ。そんな勝手が許されるはずもないと思うけど?」

 正論をぶつけてくる殿下に眉を顰めた。

 ……やっぱり殿下は“公爵令嬢”として私を見てるのね。

 それならこっちだって!

「あら、身分で婚約を決めるなんてもう古い価値観の考えでしてよ。今は恋愛結婚もできることをご存知ではなくて?」

 私が幼い頃はそうでもなかったけど、恋愛小説が流行ってからは貴族でも恋愛結婚が増えてるんだから!

「それでも政略結婚がなくなったわけではないよ。人の上に立つものはそれ相応の制限がされる。君もそのことはよく知っているはずだ。」

 どこまでも“王子”として語る彼。

 結局私には彼の心を動かすことができないんだと悟って、悔しさが込み上げてくる。

「率直に申し上げますわ。殿下とは結婚できません。」

 だってこのまま結婚した所でお互いに不幸になることが見えている。

 両親の都合で駒として結婚される私と王としての地位を固める為の後ろ盾が必要な殿下。

 利害の一致による婚約。

 ……そんなの、間違ってる。

「……それは、君に好きな人がいるからかい?」

「ち、違いますわ!」

 思わず否定してからハッとする。

 ここはYESと答えた方が効果的だったんじゃないかしら、と後悔した所で慌てて言葉を探す。

「殿下は私の好みじゃありません!」

 そして出てきたのは何を血迷ったのか不敬と捉えらるか危ういギリギリのラインの発言。

「……それは残念だ。私は君のお眼鏡に適わなかったみたいだね。」

 あくまで笑顔を崩さない彼に私は大きく頷いてみせた。

「そうですわ。ですから婚約解消を——」

「ちなみにどんな人なら良いんだい?」

 声には若干の冷たさが混じる。

 これはあれかな? 殿下を振るくらいだはよっぽど理想が高いんだよね?っていう遠回しの圧……を感じた私は冷や汗を垂らしながら頭をフル回転させる。

「……えっ? そうですわね、私よりも頭の良い方が好ましいですわ。」

 ある程度の知性がないとお父様に許されないものね、と思い真っ先に思いついたのは頭の良さだった。

「ふーん? 次席の君よりも、ね。」

 ちなみに首席は殿下なので、私はやってしまったと今度は身近にいる人を思い浮かべる。

「それから、兄のように剣の腕に優れている方が良いです!」

「騎士団長の君のお兄さんのようにか。それは大変そうだ。」

 そう、私の兄は国のトップの実力を持つ。

 つまりこの国には理想の人物がいないと言っているに等しいけど、夢中な私は気づかなかった。

「あとは、私を溺愛してくれる方ですわ!」

 私の宣言を聞いた殿下は少し考えるようなそぶりを見せてから私に視線を移す。

「……君の理想に当てはまりそうな人に心当たりがあるよ。」

「えっ!?」

 そんな人が居るなんて想定外も良い所。

 私はあくまで殿下と婚約を解消したいだけで、次の相手を見つけて欲しいわけでもなければ、結婚願望があるわけでもなかった。

 だから無理難題を押し付けて諦めさせようと思ったのに、あっさり失敗に終わりそうで正直ショックだ。

「……あれ、君は理想の人と結婚したいんじゃなかったの? それにしては嬉しくなさそうだね。」

 意地悪な笑顔を浮かべた殿下は気づいているのだろう。

 私が他の誰かと……なんて望んでいないことに。

「う、嬉しいに決まってますわ。……ですが、理想と好きになる人は違うものですし、会ってみないことにはなんとも……」

 モゴモゴと言い訳をし始める私に殿下は口角を上げた。

「それなら私でも可能性はあるし、婚約を解消する必要はないね。」

「……っ!」

 やられた!

 殿下は私からこの言葉を引き出したかったんだ。

 私は殿下は好みじゃないから婚約を解消すると言った。でもそれを否定することを口走ってしまったのだから手遅れだ。

 まさか自爆してしまうなんて……!

「……今日の所は引き下がりますわ。ですが、諦めたわけではありませんから。」

 負けてしまった私は綺麗に礼をとってからその場を後にする。

 ……どうしてか、婚約解消だけは上手くいかない。

 でも、次こそは!

 決意を固めた私は知る由もなかった。

 

「……本当に婚約をなくしたいなら、妃教育を受けないのが近道なのにね。さて、次はどんなことで楽しませてくれるかな?」

 

 そう言って殿下が今日一番の笑顔を浮かべたことを。

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